2023年09月29日
(聞き手:堀祐理、正木魅優)
BTSやIVE、SEVENTEENといったK-POPアイドルグループや、話題のドラマに登場する俳優。
日本で韓流スターを応援していると一度はお会いする?存在の古家正亨さん。
韓国の音楽の魅力を日本に伝えたいという気持ちが出発点になった、唯一無二のキャリアについて伺います。
SNSで「なりたい職業ランキング1位『古家さん』」というツイートがバズっていましたね。古家さんのお仕事を一言で言い表す肩書きってなんですか?
難しいんですよね…。
もともとはラジオDJとしてキャリアをスタートさせたのですが、今では“韓流の人”とか“K-POPおじさん”なんて言われることも。韓国エンタメのイメージがかなり強いので。
古家正亨(ふるや まさゆき)さん
1974年、北海道生まれ。
1998年から99年まで約1年半韓国に留学し、帰国後はマスメディアを中心にK-POPの魅力を伝えている。
2009年には日本におけるK-POPの普及に貢献したとして、韓国政府より文化体育観光部長官褒章を受章。日本で開催される韓流・K-POPイベントのMCとして知られるほか、数多くのラジオ、テレビ番組を担当。
「韓国大衆文化ジャーナリスト」はたまた「韓国に詳しい古家さん」NHKでは「K-POPナビゲーター」。
色々な肩書があるのですが、僕自身の全ての仕事を一言で言い得るものがなく、悩んでいたときに「なりたい職業は『古家さん』」というツイートを見て、もう自分の仕事は『古家さん』っていう1つのジャンルなのかなと。
それくらい、ほかの人があまりやっていないことなのかも知れません。
一言では言い表せないんですね。最近のスケジュールはどんな感じですか?
例えばですけど、今月はイベントの司会だけで18件あるんです。
ええ!
それに加えて自分のレギュラー番組がテレビとラジオ、あと配信番組もあります。番組によっては台本の作成から編集まで、全部自分でやっています。それに雑誌などの連載もありますね。
皆さんの目には見えていない部分の仕事も結構あるんですよ。
まさに職業『古家さん』で、たくさんの仕事をしています。
古家さんは現在韓国関連のお仕事をたくさんされていますが、そもそも韓国に興味を持ったきっかけは何だったのですか。
大学を卒業してからカナダに留学した際に、そこで韓国に魅了されたんです。
カナダで韓国に…?どういうことですか?
僕は小学生の頃からラジオDJになりたくて、大学時代に地元北海道のラジオ局にデモテープをひたすら送って、DJとしてのキャリアをスタートさせました。現在は幅広い仕事をしていますが、自分の中では、仕事の軸は今でもラジオDJだと思っています。
カナダに留学を決めたのも、ジョン・カビラさんやクリス・ペプラーさんのような、英語がペラペラのバイリンガルラジオDJになるためでした。留学当初は、韓国どころかアジアに対する関心は正直ゼロでした。
そうだったんですか。
でもカナダの大学に入ってみたら、クラスメートがほぼアジア人だったんです。その中でも圧倒的に韓国人が多くて、みんなから韓国語でしゃべりかけられて。自然と親しくなりました。
そんな留学生活を送っていたある日、友人がK-POPのCDをプレゼントしてくれたんです。トイっていうシンガーソングライターの。
それがあまりにもすごすぎて、初めて聴いたときは興奮して眠れないほどでした。
すごい、そんな衝撃が。
僕は小さい時からずっとラジオっ子で、音楽が大好き。バンドブーム世代だったのでバンド活動もやっていました。そんな風に沢山の音楽に接してきたはずだったのですが、「この色んな要素がミックスされた音楽は一体なんだ?」と思って。
どういうことですか?
言いかえれば、「ジャンルレス」ですね。1人のアーティストの1枚のアルバムの中にロック、ヒップホップ、ジャズ、ポップスなど、色んなジャンルの楽曲が収録されていて、面白いなあって思ったんです。
せっかくならと、韓国のほかのアーティストのCDも借りてみたら、日本の音楽とまるで違うことに気づいたんです。
当時のアジアの音楽シーンはJ-POPが圧倒的な人気を誇っていました。小室サウンドがあって、宇多田ヒカルがデビューして、ミリオンセラーのシングルアルバムも山ほど出ていた時期です。
アジアの人々がJ-POPに関心を持っていた一方で、日本では欧米以外の洋楽に関する関心は低く、サブカルチャーのような存在でした。
僕もそれまで韓国の音楽のことはほとんど知らなかったんです、なので衝撃は大きく、頭の中が一気に韓国でいっぱいになりました。
ついには、自分はカナダにいていいのかなって思い始めて。
韓国人の友達に「韓国に行きたい」っていう相談をしてみたら、みんなに「やめたほうがいい、日本人が韓国にいったい何を学びに行くの」って言われて。
せっかくカナダに勉強しに来ているのになぜ韓国に行くのかって言われたんです。
でも僕は、なぜか「今韓国に行くしかない」っていう気持ちになって。韓国人の友達に留学の手続きを手伝ってもらい、カナダから日本を経由せず、直接韓国に渡りました。
なぜそんなにすぐ決断できたんですか?
思い出せないんです。もう韓国に行くしかない、という気持ちしか頭になくて。
20代前半だったからできたことだと思いますが(笑)とにかく韓国ってどんな国なのか、無性に体感してみたかったんですよね。
見たい、知りたいという気持ちだけで。
はい。結果的にこういう仕事に繋がりましたが、その思いだけで「カムサハムニダ」くらいしか知らない、そんな状態で韓国に渡りました。
すごい。
だから今、若い子たちが韓国語で応援用のグッズを作ったり、実際に韓国を訪れたりする気持ちが、僕はすごく分かります。
推し活の過程で、「彼ら、彼女たちのことをもっと知りたい!」という強い気持ちが原動力になって、自然と体が動きますよね。
先駆者がいないジャンルのお仕事で、古家さん自身が道を切り開いていく中で不安はありましたか。
不安は何にもなかったです。よく先駆者と言われるのですが、自分が何かを切り開こうという気は、当時は全くありませんでした。
ただ、こんなに魅力的な韓国の音楽を多くの人が知らない現状がもったいない。100人いたら、僕と同じように強烈な衝撃を受ける人が1人や2人はいるんじゃないのかなと思って。
自分の夢とリンクする部分もあり、帰国したらラジオで韓国の音楽番組をやりたい!と思ったわけです。それが全ての原点です。
「ラジオ」で韓国の音楽の魅力を発信したいと思ったのはなぜですか?
ラジオって、自分の関心のないジャンルの話や音楽に自然と触れるきっかけが転がっているジャンルレス、ボーダーレスの空間なんです。
だから韓国に全く関心のない人も、たまたまラジオでかっこいいK-POPが流れてきたら興味をもってくれるかもしれないと思って、自分がそれをやるしかないと。
あと、僕は韓国人じゃないけれど、何だか悔しかったんです。その当時、韓国といえば日本のマスメディアが取り上げる姿はデモばかりの印象でした。
僕も「韓国は怖い国だ」、「日本人が嫌いなんだ」というイメージを刷り込まれていたように思います。
でも、カナダに行って韓国人の友達ができたときに、それが払拭(ふっしょく)できたんです。「こんなに日本に関心も好感も持ってくれている人たちもいるんだ」って。
韓国への印象が変化したんですね。
そんな中で、自分は政治家ではないし、政治の道に進みたい訳でもないけれど、どうしたら日本と韓国がお互いをよく理解し合えるだろう?と考えたときに、大好きな音楽を通して何かできることがあるのではないかと思ったんです。
古家さんがキャリアをスタートされた2000年頃は日本でK-POPはマイナーな存在だったと思いますが、今ではアイドルを筆頭に大人気ですよね。
ご自身のキャリアを振り返った際に、一番のターニングポイントはどこだと思いますか。
2010年にKARAと少女時代が日本でデビューした頃だと思います。その10年前、僕が日本で韓国の音楽を紹介し始めた2000年当初は、アイドルはほとんど紹介していなかったんです。
そうだったんですね。
当時は日本のアイドルのほうが圧倒的にメディアにおける力がありましたし、ぼくも最初はシンガーソングライターをはじめとする、いわゆる「アーティスト系」の人を紹介することで、韓国の音楽を日本の音楽ファンに認めてもらえるのではないかと考えていました。
KARAと少女時代が日本に上陸し、多くのメディアに取り上げられ、韓国の音楽が日本でものすごい勢いで大衆的になっていく様は、とても嬉しかったです。
それまで僕の紹介していた音楽ジャンルとは少し違っていましたが、KARAの歌詞の翻訳を担当することになり「あっ、これは面白い。自分がやるべきものがあるな」って思ったんです。
こういう魅力的なグループがいかに日本に定着していけるか、その手助けをすることで自分が本当に伝えたい韓国、そして韓国の音楽を最終的に伝えられると思いました。
それまでの僕のキャリアは決して順風満帆ではありませんでした。2000年に韓国から帰国してからラジオ番組の立ち上げに至るまでも大変で、自分でスポンサーを1から探さなければなりませんでした。
ただ、その山あり谷ありの日々の中で「本当にいいものを“いいよね”って言える環境を作りたい」という共通の思いを持つ、日韓両国の多くの人に出会い、互いに支え合うことができました。
日本であのタイミングでK-POPが注目されたのは、それまで多くの人が積み重ねてきた努力があったからこそだったのではないかと思います。
「良いと感じたものを伝えたい」という思いで、韓国のエンターテイメントがマイナーだった時代から活動を続けてきた古家さん。
いまや韓国だけでなく、中国やタイ出身のアーティストが日本でイベントを開催する際のMCの依頼が来ることも。
後編では、古家さんの“相手に安心感をあたえ、話を引き出すコミュニケーション術”について伺います。
撮影:西條千春 編集:藤川弥央
「ハングルッ!ナビ」 (Eテレ 毎週木曜23:00~)
「古家正亨のPOP★A」 (ラジオ第1 10/7から毎週土曜14:05~15:55)
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