2023年03月17日
(聞き手:梶原龍 芹川美侑)
寝たきりになってもロボットを使って外で働くことができる仕組みを作った吉藤オリィさん。少年時代は3年半の不登校を経験し、孤独を感じて「消えてしまいたい」と感じた時期もありました。でもその時の苦しみが、いま働く意味になっています。
ロボットを作っていると聞きましたが、どんなことをしているんですか?
人と人をつなぐロボットを作っています。
「OriHime(オリヒメ)」という、インターネットを使って離れた場所からでも操作できるロボットです。
都内のカフェでは、病気や障害などで外出が難しい人たちが、OriHimeに搭載されたカメラやマイク、スピーカーを通じて、カフェの従業員として客と会話を楽しみながら、オーダーを取ったりドリンクを運んだりといったサービスを提供しています。
70人ほどの人がOriHime の“パイロット”として活躍してくれていて、AIではなく人の力で動かすロボットであることにこだわっています。
吉藤オリィ。本名・吉藤健太朗。1987年、奈良県生まれ。オリィ研究所 代表取締役所長。遠隔で操作できる分身コミュニケーションロボット「OriHime」を開発し、東京 日本橋にあるカフェで寝たきりの人でも自宅から働ける場を展開している。オリィは特技の「折り紙」から。
吉藤さんの職業はなにになるんでしょうか?
ロボットを使って人と人とをつなぐので“ロボットコミュニケーター”を名乗っていた時期もありました。
でも、ロボットを作るだけじゃなくて、カフェも作るし、私自身、職業がよくわからなくなってきました。
やっていることは「孤独をなくす」にはどうすればいいかということにずっと取り組んでいます。
孤独をなくしたいと思ったのはどうしてですか?
小学校5年生から中学校2年生まで、学校に通えなかった時のすごく孤独だった実体験からです。
体も生まれつき弱く、友だちとも打ち解けられなかったのです。
たまたまですが、父親は通っていた中学校の先生だったので「熱血教師の息子が不登校だ」って言われたりして。
そうした負い目もあって、社会の荷物になっている感がすごくありました。
自分がいない方がきっとこの家族は幸せだと思っていました。
家族からは「何もしなくていい」と言われ救われた一方で、思い返せば残酷でもありました。
残酷ですか?
当時、家にひきこもって、2週間、動けず天井を眺め続けた時もあったのですが、それだけで気がおかしくなりそうでした。
目的がないまま何もしないというのはとても怖いものなのです。
そういう生活の中で孤独を感じていたっていうことなんですか?
はい。人と会わなくなるとコミュニケーション能力が低下します。
そうなると嫌われたくないからさらに人を避けるという悪循環で、自分の力ではそこから抜け出せなくなった感覚が当時はありました。
独りぼっちをみずから選んだのであればいいのですが、私はそうではなかった。
当時は孤独だと捉えていませんでしたが、いま思い返すと、ああ孤独だったなと思います。
目的が無く、何もできないというのが孤独なんですね。
1番つらかったのが中学1年生の時で、夜中に勝手に体が動いて池の前に立っていたこともあって。
死にたがっているなって自覚して、「死なない理由を探さなきゃ」って必死に考えていました。
不登校からは、その後、どうやって抜け出せたんですか?
勉強も体育もできませんでしたが、唯一、人に誇れたことがありました。「折り紙」です。
「不登校児」という社会からの扱いが、折り紙を折っている時は「折り紙アーティスト」になれた気がしました。
折り紙をプレゼントすると喜ばれたことが、自分の自我を保っていたというか、生きる力になった気がします。
そうこうしていると、私が中学1年生の時に母親が「折り紙ができるならロボットもできるだろう」って突然言い出して、地元のロボットの大会に勝手に申し込みました。
急にですか?
急にです。しぶしぶ参加しました。
虫型ロボットを組み立てて走らせ、ゴールまでのタイムを競うものでしたが、たまたま優勝しました。
翌年の全国大会にも出場することになったのですが、その会場で、当時の私の身長よりも高い140センチくらいのロボットが一輪車に乗って走っていたのを見ました。
「めっちゃすげえ」って衝撃を受けて、このロボットを作った先生のもとで学びたいって思えたことで、大きく人生が変わりました。
好きな折り紙が、人生を変える出会いにつながったんですね。
工業高校の先生で、その学校に合格して弟子入りするために、中学校に通うようになりました。
なんで学校に行かなきゃいけないのか、なんで勉強するのかということについて自分の中で整理することができました。
目的をみつけられた?
そのとおりです。
その後はどうなったんですか?
猛勉強して、無事に工業高校に入って、その先生のもとで電動車いすの開発をしていました。
その関係で3年生の時には技術を競う国際大会に出場したことがあって、そこにいた世界の高校生は「俺はこれをやるために生まれてきた」っていう人たちばっかりでした。
そういう人たちに出会った時に「あ、死なない理由を見つけているな」って思いました。
死なない理由ですか。
そう。だから私も何がしたいんだろうと本気で自分に問いかけました。
車いすの研究は面白いんですが、掘り下げていったときに車いすを作りたいわけじゃないなと。
「自分が生きる事を諦めるほど苦しんだ“孤独”。これは私だけの悩みじゃない」と気づいて。
「孤独の解消」に行き着きました。これだったら、人生すべてを懸けてもいいなと思いました。
高校生の時に、人生を懸けるものをみつけられたんですね。
はい、17歳でしたね。ただ、当時は今よりも体が弱かった。
だから30歳で死ぬかも知れないと仮定して、残り13年で孤独の解消のためになにができるかを考えました。
人と会話できる人工知能を勉強しようと思い、高校卒業後は高専に進みました。
ただ、人工知能と会話することに特化してしまうと、人は外に行かなくなってしまうと途中で思うようになりました。
なぜダメなんですか?
私は人生経験から、人って自分で変わろうと思っても変われず、環境を変えるしかないと思っています。
そして環境を変えるために必要なのは“人との出会い”だと思っています。
そう考えた時に、人とのコミュニケーションの仲介をテクノロジーで作るという解き方がありそうだなと思ったので、高専はすぐに辞めて大学に入り直しました。
大学では、どんなことを研究したんですか?
大学に入って、研究室を全部見て回りましたが、ぴったりな研究室がなかったので、自分で「オリィ研究室」を勝手に作りました。
私を救ってくれた折り紙から名前はとりました。
そこで1年半くらい、今度は自らひきこもって作ったのが、今につながる「OriHime」というロボットです。
インターネットを使って、パソコンから遠隔操作ができ、内蔵したカメラの映像を見ながら会話もできるロボットでした。
このロボットがあれば、ひきこもっていた私でも外に出て、人との関わりが持てるかもしれないと思いました。
すごい行動力だなと思うのですが、周りと違うことに不安はないんですか?
目的を決めて、30歳までと計画したことがよかったです。
高専を1年で辞めることができたし、先生にいわれるがまま博士課程まで行くという選択肢を絶つことができました。
また、不登校から復帰するときに1回吹っ切れましたが、自分の感じている生きにくさが、人が自分のことをどう思っているかを意識しすぎているからだって気づきました。
だから、不登校から復帰するときに「他人と比べない」と決めて、17歳で「孤独の解消」を使命だと決めたときから「他人と違う」ことに悩まないと決めましたね。
他人と比べるよりも大事なことがあることを、“出会い”が気づかせてくれたのです。
最後に、吉藤さんにとって、仕事とは何でしょうか。
「私が死なない理由」ですね。
やることがあると生きる理由を見つけられるのですが、それがなかった不登校の時期は生きることがつらかったので。
仕事というか、自分にできることがあると死のうと思わない。私はそう思います。
以前、車いすの人も一緒にみんなでキャンプ場に来ていたグループを見たことがありました。「カレー作ろうぜ」って言って、野菜を切ったり火をおこしたりして。
でも車いすの人に対しては「そこで待ってていいよ」っていう感じでした。
これって、食べる時のカレーはみんなと同じ味なんだろうかってことをすごく考えました。
私は、やっぱり周りの人たちと同じことができるとか、他の人たちの助けになれるとか、そういうことがあってこそ「居場所」になると感じるわけです。
そうかもしれません。
皆さんもこの職業なりたいとか社長になりたいとかあるかもしれない。
年金生活が始まったら世界旅行に行こうかなとか、田舎に家買って引っ込んで農業でもやろうかなとか憧れがあるかと思います。
でもこれ全部、体が動くことを前提にしています。
けど、私たちも老後には体が動かなくなって寝たきりになるかもしれないですよね。
考えたことなかったんですが、確かにそうです。
私はひきこもって、天井を見続けていた時に感じた孤独や無力感が怖くて仕方ない。
その苦しさを知ったからこそ、今は自分で動くことができなくなっても憧れや目的を持てるというか、“寝たきりの先を作る”っていうことを本気でやりたいと思っています。
ありがとうございました!
孤独を解消するロボットの原型を作り上げた吉藤オリィさん。その後、寝たきりの親友との出会いがロボット作りに大きな影響を与えます。後編では、その親友から学んだ「できないことの価値」について聞きます。
撮影:徳山夏音 編集:岡谷宏基
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