2023年03月24日
(聞き手:梶原龍 芹川美侑)
寝たきりの人が遠隔で操作する“分身ロボット”が動き回り、お客さんとコミュニケーションを取る。吉藤オリィさんが作ったちょっと未来を感じるこのカフェは、寝たきりだった親友の“できない”から生まれた夢でした。
学生
梶原
カフェの店内を、たくさんのロボットが動き回っていて驚きました!
10台~15台くらいのロボットがいつもせっせと働いています。
吉藤さん
外に出られない人たちが自宅からロボットを操作して、料理を運んでくれたり、オーダーを取ってくれたり、話し相手にもなってくれますね。
学生
芹川
さっき、体験してきました!すごくびっくりしました。
吉藤オリィ。本名・吉藤健太朗。1987年、奈良県生まれ。オリィ研究所 代表取締役所長。小学校から中学校にかけての3年半の不登校で感じた“孤独”を解消することを使命に掲げ、人と人とをつなぐロボットを開発している。オリィは特技の「折り紙」から。
どうして、ロボットを作りたいと思うようになったんですか?
もともとのきっかけは、小学校の頃に感じていた“もう1つ体が欲しい”という妄想です。
私は体が弱かったので、よく病院へ通い、学校を休みました。
そんなときに、もう1つの自分が学校に通って、友だちと仲良くなれたらいいなと思っていました。
そうだったんですね。
最初はただの妄想でしかありませんでしたが、2005年ごろから、私の周りでもインターネットが普及してきて。
それをロボティクスと組み合わせることによって、「もう1つの体を作ることができるかもしれない」と本気で思って形にしてみようと思ったことが始まりです。
大学時代に1年以上かけて、分身ロボットの「OriHime(オリヒメ)」を完成させました。
ロボットって、自分で作れるものなんですね。
当初はどう作ればいいか全然分からず、ホームセンターに通って店員さんに聞いたり、本を読みあさったり、SNSで職人さんに教えてもらったり…という感じでした。
できあがったのは、どんなロボットだったんですか?
大きさは60センチくらいで、椅子に座ったり、立ったりもできました。
目的は遠くにいても親しい人と同じ空間にいるようなコミュニケーションをとれるようにすることでした。
試しに飲み会に遠隔で参加しましたが、周りからのリアクションもあって、そこに自分がいる気がして、思い出になりましたね。
ロボットが代わりに飲み会にいくと思うとおもしろいですね!
ただ、当時は不登校を経験した私が欲しかったものを作っただけでした。
だから、本当に、ほかの人たちの役に立つのかが分からず、そこから当事者と一緒に作ることを強く意識するようになりました。
そして2013年の12月に、寝たきりの番田雄太という親友とたまたま出会ったことが「OriHime」というロボットを進化させる大きなきっかけになりました。
彼は4歳で交通事故にあって寝たきりになって言葉を発することもできず、学校にも通えませんでした。
そんな彼が、私がOriHimeを披露した大会を知って、あごを使ってパソコンを操作してメールを送って来ました。
彼に会って「OriHimeには足りないものが沢山あると思う。私を仲間にいれて働かせて、見つけさせてほしい」と言われ、意気投合しました。
私は番田というできないことが圧倒的に多い男だからこそ、できることがあるんじゃないかと思ったんです。
できないことが多いからできることがあるって、どういうことですか?
例えば、自分の利き手がありますけど、使えなくなって初めてトレーニングして、利き手じゃない方の手で字を書くようになりますよね。
人は自分が本当に困った時にこそ、本気でそれについて考える事ができると思っています。
私たちはできることばかりに注目しがちですが、なにができなくて、どう補うのかということに注目した方が、世の中を正しく見ることができると思っています。
できないことに注目するんですね。
そう。だけど、みんなできないことを隠します。面接でも「何ができますか?」って聞かれるだろうし、逆に「英語ができないです」とかって申し訳なさそうに言うじゃないですか。
でも、私は「できないことに価値がある」と本気で思っています。
実際に首から下がまったく動かない番田に秘書として入ってもらった結果、OriHimeのかたちがどんどん変わっていきました。
番田が毎日使って、例えば「腕をつけた方がいい」「名刺交換したい」とか意見を言うわけです。
「いや別に名刺交換要らなくない?」って思いましたが、「社会人になったんだから名刺持って、同じようにしたい」と言われ、確かにな…と。
できないから発明って生まれるし、できないからそれをどうやったらできるようになるかっていう思想が生まれるんです。
ある意味、近道なのかもしれないですね。
このカフェも、番田の「できない」から始まっています。
そうなんですか?!
何気ない会話の流れで番田に「コーヒーでもいれてよ」って冗談で言ったことがありました。
そうしたら「いいよ。じゃあ、そんな身体を作ってよ(笑)」って言われて。あーーそれだ!ってなりましたね。
当時、「社会で働く」ってどういうことか考えていて、その答えを突きつけられた気がしました。
それはどういうことですか?
番田はテレワークで秘書として働いていましたが、秘書って誰もがすぐにできる仕事じゃないですよね。
例えば、高校生でいきなりマネージャーにはならないし、部下を持たないですよね。
最初は片づけや荷物運びといった肉体労働をして仕事を覚えて、後輩が入ってきたらその仕事を教えてというステップを踏む。
徐々にできるようになってくると現場に行かなくても判断ができるようになってきて、責任者になりますよね。
バイトでもそうでした。
でも体が動かないと、そのファーストステップを踏み出せない。これが移動が難しい人たちが社会参加できない根本的な理由なのかもしれないって気づいたんです。
それで“肉体労働ができるようなテレワーク”ができればいいと思いました。
番田との雑談の中から、接客ができて自走できるロボットを作ろうと思いつき、今の「分身ロボットカフェ」が生まれていきました。
素敵な出会いだったんですね。
そうです。番田は「なにか生きた証を遺したい」と話していましたが、2017年に亡くなりました。
でもそのあといろんな人の協力を得て、2018年に分身ロボットカフェが実現しました。
いまでは寝たきりの人など70人ほどがOriHimeのパイロットとして働いてくれています。ことしは札幌にもカフェが期間限定でオープンしました。
カフェの先にはどんな社会を実現したいと考えていますか?
寝たきりになったとしても自分の意志で会いたい人に会いに行きたい。そして、誰かに必要とされたい。私は本気でそう思っています。
そういう生き方ができる“寝たきりの先を作る”ということをやり続けていきたいです。
寝たきりになっても、ロボットでネコになりきって、ネコの井戸端会議に参加する老後もあるかもしれませんね。
最後に就活生に向けたメッセージをお願いします。
就活って「敷かれたレール」を走っている気がするかもしれません。
でもレールに乗ることを選択できること自体はすごく豊かなことだと思っています。
どういうことですか?
レールは始めからは敷かれていなくて、誰かが次の世代の人のために頑張って敷いてきたものなんですよ。
いま私は寝たきりの仲間たちと新しいレールを敷くために頑張っていますが、それができるのは、すごく悩んで、葛藤してる人たちです。
だから、就活も含め、きっと何かができなくて悩むという経験ができるタイミングはものすごく重要で。
悩んだ経験を人生の糧にしてほしいと思っています。
そうした経験を次の人たちのために形を変えて何か残せるよう、敷かれたレールやまだ敷かれていない荒野を意識しながら、社会の入り口を楽しむのがいいのではないかと思います。
ありがとうございました!
撮影:徳山夏音 編集:岡谷宏基
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