2023年01月27日
(聞き手:小野口愛梨 芹川美侑)
ソラシドエア初の女性機長、上條里和子さん。幼いころから夢見ていたパイロットになるためのスタートラインに立った直後に、入社した航空会社が経営破綻。突然、目指していた道が絶たれました。
それでも諦めずに夢を追い続けた理由は「まだ努力をしていなかったから」。フライトを終えた上條さんに話を聞きました。
学生
芹川
上條さんはどうやってパイロットになったんですか?
最初はパイロットの訓練生として大手航空会社に入社したのですが、入社1年目の時に経営破綻してしまって。
パイロット
上條里和子さん
パイロット 上條里和子さん
1986年生まれ。2009年に日本航空に入社するも、翌年に会社が経営破綻。それでも夢を諦めず航空大学校に入学。卒業後、2014年に宮崎空港に本社を置くソラシドエアに入社。2022年にソラシドエア初の女性機長に。
え…!
ある日、突然呼び出されて「事務系の職種に変更するか、あるいは、どうしてもパイロットになる夢が諦められないんだったら辞める道を選んでください」って言われて…。
まったく訓練を受けることができないまま夢が途絶えてしまったんです。
学生
小野口
その時はどう思われたんですか?
本当に頭が真っ白というか、周りがスローモーションのように見えて、現実なのか信じられませんでした。
パッと隣を見たら、同期の顔が青くて。
つらいですね…。
でも、それで現実なんだと冷静さを取り戻しました。
みんなショックを受けたんですけど、それ以上に自分たちの人生がどうなるのかを考えないといけないという思いで、必死に前を向いていました。
そんな中で、どうしてパイロットの夢をあきらめずにいられたんですか。
パイロットになるための努力をまだしていなかったからだと思います。
例えば、体を壊してしまったとか、やるべきことをやりきっても技量が足りなかったとかであれば諦められると思うんですけど。
まだ全く訓練もしていなかったですし、航空大学校を卒業するとか海外でライセンスを取るとか、まだ残された道がいくつかあったんですよね。
せっかく道が残されているのにその道を選ばないで諦めるのは嫌だと思ったので、受験日が近かった航空大学校の受験を決めました。
航空大学校には年齢制限があって、その年がわたしのラストチャンスだったんです。
やれることを全部やりつくそうと思われたんですね。
私だったら、なれなかった理由ばかり探してしまうかもしれないです。
それが大切な第1歩だと思います。自分のせいなのか、そうじゃないのかを問いかけて分析することから始まる。
一番ダメなのは、何で、と考えずに「やっぱ無理でしょ」って諦めてしまうこと。
少なくともその場にとどまらないと次の1歩は踏み出せないですからね。
朝の連続テレビ小説「舞いあがれ!」でも航空大学校での様子が描かれていましたが、すごく厳しいイメージがあります。
車の運転免許をとるのと同じで、時間をかければきっとほとんどの人がある程度のレベルまでできるようになると思うんですが、プロのパイロットの試験や訓練の時間には限りがあるんです。
試験も2回不合格になると、そこで終わりなんですよ。
厳しいですね…
2回以内に受からないといけないプレッシャーに耐えられるかとか、限られた時間の中で体調を管理できるとか、心身の両方を整えられる人が求められますね。
無事に航空大学校を卒業されたあとは、パイロットとしてソラシドエアに入社されたんですよね。
仕事を始められてからの苦労はありましたか。
理想の機長になるというゴールにたどりつくためにやるべきことを考えて、現実とのギャップを埋めていくんですけど。
常に自分を律するのは大変でしたが、苦労というよりも課題をクリアしていく感覚でしたね。
その中にはもちろん不得意なこともあるんですけど、クリアしなければ次に進めないので、そのための努力を苦しいと思ったことはあまりなかったです。
あとは、パイロットになってからも定期審査があるので、審査がいつ入っても良いように準備しています。
どんな審査なんですか?
シミュレーターで技量を確認する審査と、実際にお客様にご搭乗いただくフライトで運航全体を確認する審査があって、この2つをパスしないとライセンス停⽌になってしまいます。
半年に一度の審査の他にシミュレーターでの訓練や、座学での勉強もあります。
パイロットそれぞれに訓練と審査を実施する月が決まっていて、全て完了しなければ飛ぶことはできません。
さらに、エマージェンシー訓練といって、緊急脱出の訓練も必ず年に1回受けなければならないです。
パイロットになってからも勉強しないといけないんですね。
常に技量を維持していることを確認できることが一番大事ですし、お客様の命をお預かりしているので、信頼していただけるよう頑張っています。
パイロットは一日に何便操縦されているんですか。
弊社ですと、一日に大体3便を操縦します。
例えば、東京、九州を一往復半して九州に1泊、翌日も一往復半で東京に戻るという感じです。
パイロットは飛ぶ時間の上限が1か月に100時間と法律で決まっているので、スケジューラーがその中に収まるように管理してくれています。
今朝も沖縄まわりで2本飛んで帰ってきました。
今日も飛ばれてきたんですか!
はい。雨雲があって、着陸前は結構揺れましたね。
パイロットは飛行機を操縦する以外にはどのような仕事があるんですか?
一日の流れとしては、出社して、機長と副操縦士と地上のスタッフも交えて設備や経路を含めてその日のプランを確認します。
運航に関わる事案をくまなく確認した上で、飛行機が安全に飛べる状況なのかを判断して、飛べるとなって初めて飛行機に移動してお客様をお迎えします。
飛べる飛べないという判断もパイロットの仕事なんですか。
もちろん、飛行機そのものの安全性は整備士が確認しますが、運航については機長と運航管理者という地上の係員が最終的に判断します。
航空法でも定められていて、全社共通で、2人が納得しないと飛行機は飛べないようになっています。
フライトが終わってからは、その日のフライトはどうだったかを機長と副操縦士とで振り返って次に活かせることを探します。
自分のフライトで知った風の変化などを次に飛ぶ人に伝えることも大事な仕事です。
初めて機長としてフライトされたときはどのような思いでしたか。
離陸時の加速の圧を背に受けた時に、航空大学校で初めて一人で空を飛んだときのことをふと思い出して、「あ、ここまで来たんだな」って。
それと操縦桿を握ってるのは自分なんだって意識した時に「もう右側に教官はいない、全て自分の責任だ」と実感がわいてきました。
舞い上がるというよりかはスッと落ち着く感覚で、コックピットが自分の居場所になったと感じましたね。
でも、お客様に降りていただくまでのこととか、結構天気も悪かったので、考えることがいろいろあってあまり浸ってはいられなかったです(笑)
居場所ができたって思えるのがすごいです。
ここが居場所だと思える所仕事ができるのは、本当に幸せだなと思います。
最後に、上條さんにとって仕事とは何かをお聞きしたいです。
仕事は、自分が何かをしてお金をもらうことですけど、そのお金は、誰かの役に立てたからもらえるものだと思うんです。
例えば飛行機を飛ばすにしても、操縦桿を握るパイロットだけじゃなくて、地上のスタッフも誰か1人でもいなかったら成立しません。
機体のネジを作ってくれている工場のように、見えないところで支えてくださっている人たちもいます。
はい。
そんな風に、どんな仕事も絶対に誰かの役に立っていると思うんです。
1人でできることは限られていますよね。それぞれ得意不得意もあります。
だから、自分にできることを全力でやりきるという気持ちが大切です。
それは責任を持つことにもなると思いますし、全力でやってる姿は絶対に誰かに届きます。
その姿を見た人が思わぬところで手を差し伸べてくれたりもするんですよね。
「負のスパイラル」ということばがありますが、それとは逆の「ポジティブなスパイラル」に入っていける。
だから、一見、大したことじゃないように思える仕事でも、全力でやりきることが大切だと思います。
全力で頑張りたいと思います!ありがとうございます。
会社の経営破綻という困難を乗り越えて夢を叶えた上條さん。後編では「パイロットになる」という夢が明確な目標になったきっかけをひもときながら、「好き」を「仕事」にするためのヒントをお聞きします。
撮影:梶原龍 編集:谷口碧
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