2023年09月22日
(聞き手:堀祐理 吉田遥希)
就活をテーマにした夜ドラの脚本を担当した兵藤るりさん。
脚本家として“自分だから書けること”を書くために、うまく書けない苦しいときほど楽な方に流れないようにしているといいます。
そのきっかけは大学院時代の教授の一言。
就活生にも欠かせない、自分の思いを伝える文章を書くコツも聞きました。
脚本というのは、どのように書かれているのでしょうか。
脚本の文章には「セリフ」と「ト書き」の2種類があって、登場人物の動作や行動をト書きで書いています。
どこで誰が何をしているか、誰とどんな話をするのかみたいなことも全部脚本に書いています。
これを読むだけでも映像が思い浮かびます!
ドラマや映画には漫画などの原作がある場合とオリジナルの場合があると思いますが、それぞれの場合で脚本の書き方は違うんですか。
原作がある作品は世界観も決まっていますし、登場人物や展開ももちろん決まっているので、自分で登場人物などを0から考えていくのとは全く違う作業だと思います。
原作がある時はセリフもなるべく自分を出さないように、原作者の方が心を込めて書いたセリフを映像でどう伝えたら良いのかを一番に考えています。
脚本家 兵藤るりさん
お茶の水女子大学理学部数学科を4年生で中退し、東京藝術大学大学院映像研究科映画専攻脚本領域に進む。2020年NHKのミニドラマ「就活生日記」で脚本家デビュー。8月からNHKで放送中の夜ドラ「わたしの一番最悪なともだち」の脚本も担当している。
オリジナルの脚本を書かれる時は、どうやって0からアイデアを考えているんですか。
作品ごとのテーマを意識しながら、まず一番大事にするのは、自分が見て面白いと思うかどうかという点です。
アイデアの出発点としてはすごく身近なところから、例えば、友達から見聞きしたこととか、自分が気になっていることなどから広げていきます。
アイデアのヒントは身近なところにあるんですね。
そうですね。何気なく過ごしている日常の中にもヒントってたくさんあると思います。
あと、ちょっと視点を変えるだけで捉え方が変わるので、いろんな角度からものを見ることを意識しています。
特に視野を広げていくことが必要だと思っていて、色んな人と話したり、自分が普段は興味がないことでもとりあえず1回は見たり挑戦したりするようにしています。
興味のない分野に挑戦することは自分のためになっていると感じますか。
100%自分の糧になっていると言って良いと思います。
自分にとってしっくりこなかったとしても、こんな世界があるんだということを知ること自体が新しい気付きであって、自分の物の見方の角度が1つ加わったような感覚があります。
アイデアが思いついても、それを脚本にまとめるのは難しそうです。
本当にアイデアが思いつかない時とか、自分がしっくりくるセリフじゃない時とか、何でこの登場人物は展開通り動いてくれないんだろうとか、ありとあらゆる事に毎秒挫折していますね。
特に、どうしてもうまく書けない時がしんどいです。
例えば、ドラマの中の重要なセリフを、自分が今出せる100%の熱量で生み出すことができない時があるんです。
そういう時に、パッと思いつく楽なほうに流れないようグッとこらえて、自分を抑えることが一番難しくてしんどいなって思います。
楽な道があればそっちに行ってしまいたくなると思うのですが、どういうことを意識すれば、あえて難しい道を進むことができるんですか。
楽な方に流れちゃダメだなと思ったきっかけがあって。
大学院の時に、坂元裕二さんが教授のゼミで、みんなが書いてきた脚本を読んで意見交換をする授業があったんです。
その頃は締め切りに間に合わせることが私にとっては大変で、急いで書いて、これでいいだろうと思ったものを出したんです。
それを読んだ先生に「楽してるな」みたいなことをサラッと言われて、「あ、ばれてる」と思って。
自分でもその時に書いたセリフとか展開って、間に合わせることを第一に考えすぎてしまって、楽な方に流れたなって自覚していた面もあったんです。
ゼミの課題だったので、誰かに迷惑をかけるわけではなかったのですが、実際に仕事では、読む人が読むと分かるし、見る人には伝わってしまうだろうなって思いました。
それがきっかけで、どうしてもうまく書けない苦しい時ほど楽な方に流れないように、1つ1つ自問自答するようになりました。
脚本を書いて、それがドラマなどになる過程の中で一番緊張するのはどういう場面ですか。
書いた脚本を最初に他の人に見てもらう時ですね。
自分が「これは面白い」と信じて書いたものを、プロデューサーなどに読んでもらう時に、果たして受け入れてもらえるのだろうかっていう不安があるので、そこが一番緊張します。
そうなんですね。
自分の考えを相手に伝えるってすごく難しいと思うんですけど、うまく伝える方法はありますか。
自分自身の反省も込めているんですが、相手にとっての正解を見つけることが自分にとっての正解みたいに思いがちなところがあると思うんです。
でも、まずは自分にとっての正解を自信を持って言える勇気が一番必要なのかなと思います。
脚本に自信を持つためにも、兵藤さんが大切にしていることは何ですか。
自分だからこそ書けるセリフを1つは入れるようにするということは本当に大切にしています。
時間とか文字数の制約がある中で、自分が一番見せたい場面で、自分だからこそ書けたと思えるものを生み出していきたいと思っています。
初めて脚本を担当された作品がテレビで放送された際はどう感じられましたか。
自分の名前をエンドロールで見るというのはずっとあったらいいなと思っていたことなので、それが実際にかなったことは本当に、シンプルにうれしかったです。
ただ、見ている時はやっぱり誰か1人にでも伝わってるといいなっていう気持ちが一番大きいですね。
脚本家はみんなそういう思いで念を送ってると思います(笑)
やっぱり、初めて担当された作品が一番印象に残っているんですか。
その作品も印象に残っていますが、一番心に残ってるのは「面影」というラジオドラマです。
ラジオドラマ「面影」
怪物(未確認生物)を保護し、研究する施設で怪物の世話係として働く山本右子。ある日、亡き娘の面影を持つ、人間の姿をした怪物「異(コト)」が施設に保護されてくる。右子が世話係となるが、捕獲時に人間を殺した異は殺処分となる運命で…。2人の交流を軸に繰り広げられるSFヒューマンドラマ。
放送されたあとに、私のインスタアカウントを見つけてすごい長文で温かいことばを送ってくださった方がいて。
自分が苦しみながら生み出したものがちゃんと伝わって、こういうふうに思ってもらえるんだという手触りを初めて感じられた経験でした。
ドラマなどの脚本は尺の制限があるものが多いと思います。就活生も文章を書く機会が多いのですが、限られた時間や文字数で自分の思いやテーマを伝えるコツはありますか。
思いついたところから書くのではなくて、まずは自分が一番伝えたいことは何かということをよく考えます。
次に、伝えたいことを一番分かりやすく伝えるにはどうしたらいいのかを意識しながら、全体像を考えるといいと思います。
読み直す時には、いったんふかんして見る視点も大事だと思います。
一番伝えたいことを軸にして、考えていくんですね。
ふかんして読み直すことはどうして大事なんですか。
私も脚本を書いている時は熱中しすぎて、勢いでこのセリフはこうだ!という感じになる時があります。
ですが、一回自分をリセットして冷静に読み返すことで、最初は見落としていた部分があったり、本当にこれで良いのだっけみたいに気が付いたりすることがあるんです。
なるほど。
脚本を書く際に、他の人の意見を取り入れることもあるんですか。
1人で書いていると視点が偏りがちなので、さまざまな人に読んでもらって、いろいろな人の意見を聞くというのはすごく大切な作業だと思っています。
自分が意識していなかった部分が他の人にどう見えているのか、聞こえているのかは、誰かに読んでもらって意見を聞かないと気が付けない部分なので。
文章を書くことが苦手な人もいると思うのですが、文章力を鍛えるにはどうしたらいいでしょうか。
そこに限っては奇をてらったことをせずに、とりあえず一度書き切って、自分で読み返して直していくことを繰り返して、文章を書くことにまず慣れることが大事だと思います。
就活をする中で、受かった人のエントリーシートなどの手本を読むこともあると思います。
でも、手本を読むだけだと、正解を探してしまうというか、手本のように書かないといけないみたいな雑念ばっかり広がって、いざ書くとなった時に固まってしまうと思います。
書き方が分からないというのは本当にもったいないと思うので、とりあえず自分なりに書いてみるというのはすごくシンプルですが、とても大事なことだと思います。
最後に、兵藤さんにとって仕事とは何でしょうか。
「道しるべ」だと思っています。
誰かに思いを伝えるために脚本を書いているんですけど、一方で、自分も一緒に成長していくことができるというか。
それぞれの脚本を書いている時の自分が考えていることや悩んでいることがその脚本ににじみ出てくると思うので、脚本を書くことは、ある意味自分を表現することだと思います。
ですので、脚本が自分の人生の指標のような存在、道しるべにもなっているのかなと思います。
ありがとうございました。
撮影・編集 谷口碧
夜ドラ「わたしの一番最悪なともだち」(月~木 22:45~)
就職活動で連戦連敗中の大学4年生・笠松ほたるの青春物語。幼なじみで同級生の鍵谷美晴の個性を自分のものとして偽り提出したエントリーシートは、なんと通過。どう受け止めたら良いのかわからぬまま、次の面接、次の面接と、笑顔で嘘をつき続けていく…。出演:蒔田彩珠・髙石あかりほか。
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