2022年08月12日
(聞き手:梶原龍 徳山夏音)
“清く、正しく、美しく”で知られる「宝塚歌劇団」。トップスターを中心にタカラジェンヌたちが歌って踊る華やかな世界で、ひたすらに「おじさん役」を極め続け、ファンのハートをわしづかみにしてきた伝説の元タカラジェンヌがいます。
キャッチフレーズは「見たくなくてもあなたの瞳にダイビング☆」、きょうのゲストは天真みちるさんです。
以前、テレビ番組でタンバリン芸を披露して元SMAPの中居正広さんと盛り上がっていた方だ!!って。お話を聞けるのが嬉しいです。
まじですか!!ありがとうございます。
宝塚でおじさんってどういうことですか?
まず宝塚って花・月・雪・星・宙の合わせて5組あって、組ごとに公演しているんです。
組の名前、聞いたことがあります。
元タカラジェンヌ 天真みちるさん
2006年に宝塚入団、花組配属。数々のおじさん役を演じ、2018年に退団。
芸名は座右の銘の「天真爛漫」から。愛称は「たそ」。現在は「たその会社」を起業し、社長を務めながら俳優として舞台などに出演。演出や脚本も手がけるなど活動の幅を広げている。(特技のタンバリン芸を生かして余興芸人としても活躍中)
舞台がフランス革命が背景にある作品だと、主人公の父親だったり主人公が属する兵隊の隊長だったり、かなり年配の役どころがあるんですよ。
そういう役は、どこの組にも属さない20年を超えるキャリアの方々が所属する「専科」さんっていうスーパー・プロフェッショナル集団が担当するんです。
そうなんですね。
芸歴も長いので場を締める役どころの“村長“とか“仙人”とか。
私はというと、専科さんが演じるポジションの「次くらいのおじさん」(笑)例えばでっかい財閥の話だと会長役を専科さん、私が部長くらいのおじさんを担当していた感じです。
退団されるまでにいったい何役くらいのおじさんを演じられたんですか。
いや、もう数えきれないくらい!!
自分的にはもう、全ての種類のおじさんをコンプリートしたと思います。
そもそも、どんなきっかけで宝塚を目指されたのですか?
おばあちゃんが宝塚が好きで。
私4人きょうだいの2番目なんですけど、背がいちばん高かったんですよ。
おばあちゃんがそれだけ背が高いなら宝塚入りなよって勧めてくれたから「じゃあ入ります!」みたいな感じで。
受験の結果はどうだったんですか。
1回目の試験は箸にも棒にも掛からなくて、1次試験で惨敗して…。
でも、人から向いてると言われると結構うれしいじゃないですか。
はい。
最初は「自分も入りたい」というより、流されるまま、人に期待されていたので入らないといけないという感じだったんです。
かといって具体的な戦略は練っていなかったので、その時に初めて悔しい思いをして、ちゃんと自分から目指そうと思いました。
そこからどう立ち上がったんですか。
最初に受験した時、同い年くらいの人たちがちゃんと戦略を練ったうえで会場にいて。
宝塚って受験スクールがあるので、同じスクールで前日に受けた年上の子からバレエの振り付けを前日のうちにちゃんと情報共有していて、控室でもうすでに踊っている子がいるんですよ。
私がぼけ~っと何も考えずに体育座りでいるときに、みんなイヤホンして、フィギュアスケートの羽生さんみたいな感じで踊っているの!!
すごいですね。笑
自分が何の準備もしないで、おばあちゃんに言われて来ましたってテンションで来てて、恥ずかしかったんですよね。
ちゃんと肩を並べたかったなって。
そこで意地みたいな感じで次の年は戦闘態勢で、自分から1年後のチャンスに向けてどう1日を歩んでいくかスケジューリングしていったんですよ。
そしたら母親にも“ちょっと目の色変わったぞ”と感じ取ってもらえて、地元の厚木市で宝塚に受かった人に会わせてあげるから、何を習ってたか聞いてみたら?って、人脈を駆使してですね…。
お母さんの人脈もすごいですね。
きょうだいが多いので各学年に知り合いが多くて。
目立ちたがり屋だったので、卒業証書もらう時に30秒話すという場面で「宝塚入ります」とみんなに根拠のない宣言をしてたんですよ。
だからお母さん方も私が宝塚を目指すことは知っていて、厚木市で受かった子がいるらしいという噂までうちにきて、会わせてあげるとなって。
その方から、声楽の先生や、バレエはここのスタジオと教えてもらって、次の日から全部行くことにしたんです。
流されてきた自分を変えたいという思いが原動力になっていたんですか?
ちゃんと自分で戦略を立ててやろうとすると、意外とその意志に対して周りの人たちも助けてくれるんだってすごく良く分かりましたね。
レッスンは厳しかったんじゃないですか。
「去年合格した子の輝きを与える!!」、「もっと輝かないと誰もあんたのこと見つけられないよっ!!」みたいな感じで、先生とマンツーマンでみっちりやっていきましたね。
どういうふうに受験で自己表現していたのか、お聞きしたいです。
私、冷めているところがあって、いつも俯瞰して見ているから、自分が足りていない部分がよく分かってたというか。
この人が受かりそうだなとか、反対に作られすぎている人だと作られすぎてるって言いそうな人がいるだろうなとか。
その年に50人合格が出ると考えたときに、歌って踊れて成績の高いガチなスター候補生ばかり合格したら、全員がトップになるまでに何年もかかっちゃうから、1期でトップ候補は多くても10人かなと。
なるほど!
あとは成績高い子が10人くらいいたら十分で、残りの30人って何?と思ったときに、“こいつ取ってみたら楽しいかも”って感じじゃないかと。
だから私は「なんだこいつ枠」でやっていくしかないなと、そこら辺の戦略は結構練っていたと思います。
面白いかもなって思ってもらえるにはどうしたらいいか、輝きを出しつつ名乗り方はナチュラルにしようとか。
王道の中に埋もれないために人と違うところを見つけて、その枠を狙っていくのも1つの才能ですよね。
2回目の受験はうまくいったのですか。
それが最悪なんですけど、当時ものすごく目が悪くなっててめがねだったんですね、コンタクトを買うっていう選択肢がなくて…。
試験会場でも眼鏡で、踊るときや歌うときだけ外してたら、案の定、面接で壁に書いてあるお題『30秒で自己PR』がまじで読めなくて…。
大ピンチですね。
何て書いてあるんだ?って格闘していたら解読するのに20秒くらい経ってて、もう「私は…自分のいい所は笑顔です!!」ってにっこり笑っておしまい。
おじさんが小刻みに震えながら「それで終わりですか?」って。
もう終わった…って(笑)
情けなさ過ぎて、恥ずかしいって思いながら出ていきましたが、結果、合格することができました。
逆に面接官に刺さったのかもしれないですよね、ほかの人が丸々30秒使ってすごいアピールするからこそ。
念願の宝塚に入った時はどういう心境でしたか?
春のニュースの風物詩になりつつある合格発表の日って、受かっていたらそのまま会場で説明を受けるんですけど、この人受かるなと思ってた人たちがほぼほぼ会場にいて。
あぁこういう人たちがトップへの英才教育を受けていくんだろうなって。
だけど、私は受験に向けて作り上げていったから、受かったときがゴールみたいな気持ちがあったんです。
どういうことですか。
トップスターへの道は今やっとスタートラインで、これまでの努力を超える努力で、しかも継続しなければトップにはなれないと考えたら、ぶっちゃけもう無理だって。
これが私の限界で、せいぜい蹴落とされないように頑張ろうくらいでちょっとだけモチベーション低かったんです。
それって2回目合格あるあるで、受かった瞬間に燃え尽きちゃう人もいるらしくて。
次は何をゴールにしようと思ったんですか?
しばらくの間見つからなかったんですよね。
トップを目指して早くスタートダッシュを切っている人もいるのに、すごく置いていかれてるなって。
節目節目に試験があって、この子よりはうまいと思っていた人に抜かされて、真ん中の方にいた順番も後ろから数えた方が早い方にどんどん落ちて。
そうだったんですね…。
受験1年目の時に頑張らずにふわっとしてた自分とまた同じところに来ちゃったなって。ビジョンを掲げてなかったから。
そこから、「舞台で必要とされる人」になるためにどう戦略を立てていったんですか。
演出家の先生に自分の芝居を多く見てもらうにはどうしたらいいだろう?って考えたんです。
宝塚の舞台で一番長くしゃべるのはトップスターさんなのは決まっているんですが、その次の次の次くらいに長くしゃべってるのが主人公の父親とか「おじさん」なんですよ。
だからここを狙えば若くして台詞がもらえるんじゃないかって。
周りがトップを目指す中でおじさん役に抵抗はなかったですか。
宝塚もトップ目指してもらいたい人に、あんまりおじさん役をさせたりしないんですよ。やっぱり、正統派のルートみたいなのがあって。
逆に言うと、おじさんの芝居で固めていくことがもう「トップ路線ではない」の通達になっちゃうこともあるんですよね。
あなたはもうこれから脇で支えて下さいと。
でも、端から見てると、「そこめっちゃ空いてるポジションだ」ってことが見えてきたりするんですよ。
なるほど!
そこに入ってやってみると、「新弟子が入ってきたぞ」って、師匠にあたる自分より20も年上の方たちに、めっちゃかわいがってもらえるんですよ。
「あんたは顔丸いから、もみあげはったほうがええで!」とか言われてやってみたら、すっごい確実におじさんになれたみたいな。
ひげをつけてくれる床山さんも顔なじみになっちゃって、「私、C.W.ニコルみたいになりたいんですけど」って言ったら、「うん、あごひげね、オッケー♪」みたいな感じとか。
すごく面白いですね。
匠のような人たちと触れ合えて、初めて楽しいと思いながら突き進めたんです。
トップスターを目指す路線で個性も出しながら「この子に負けない」ってずっと隣り合わせでやっている中で、「あと私の中で見い出せてない部分ってどれだろう」ってもう見つからなかったんですよ、新しく開拓する場所が。
はい。
一方で、おじさん路線は未開拓過ぎてこんな所があるんだって入ったら、いつの間にかズブズブ行っちゃって。
意外とブルーオーシャンが広がってたんですね。
未開拓の場所を見つけたんですね。
基本、男役ってブーツとか履いて、すごくおしゃれなんです…。
でも、市販の靴の方がおじさんっぽいから、1回ギャンブル好きなおじさん役をやった時も、いろんなお店を探し歩いて、「あった、これだ、ここで買ってんのかおじさんは!」って。
初めて毎日やることが楽しいなって思えるようになったのが、おじさんを極めだしてからだったんですね。
おじさんをやっていく中で、手ごたえをつかんだ瞬間はあったんですか。
最初のうちって、100まで振り切るみたいな役ばっかりやったんですよ。
かっこよさを投げ捨ててやりきり過ぎるとトップにはなれないかもしれないと思っている人が多いので、「あっ私100振り切れます」みたいな感じで。
演出家の先生も面白がってくれて、最初は飛び道具みたいな形で使われていたんです。
そこはもう誰にも奪われないようにしようと思って、「はっちゃけてる天才」って絶対に思わせたいなというのがあって。
いつも同じ先生じゃないから、「天真が黙ったらどうなるんだろう」とか、「動ばっかりやってきたから、次は静ね」みたいな感じで、先生方も自分の使い方を面白がって。
大変さはなかったですか。
その都度すっごい壁には当たるし、表現力とかどうしたらいいのかなと思うけど、やった分だけ自分の幅は増えていくので、技がどんどん増えた感じがして楽しかったんですよ。
おじさんって一言でいっても同じじゃないんですね。
映画とか見にいく時も、主役じゃない人たちを見るようになったんですよ。
改めて見たら、「この役の人、大事だわー」と思えるようになって。
トップを目指してた時は真ん中しか見てなかったけど、今舞台見に行ったらまず最初に端からしか見てない気がします。
もしよろしければおじさんの技を教えていただきたいです。
もちろん、いいですよ。
普通だったら男役がこれくらいの手の角度で、「あっちの方向に」と言って指をさすところを…
ふざけたおじさんだとこれくらいやるみたいな。
「お前、あっちまでいくんだよっ!!」って。
ちょっと間抜けだなって思わせる余白がある人なのか、この人の命令は絶対でカリスマ性がある人なのか、1つ1つの角度や動きで決めていくんです。
初めて王様をやる人って一生懸命偉いんだぞって表現しすぎて、若造に見えてしまうことがあるんですが、少し力が抜けている表現のほうが“ずっと統治してきた”感じや、“怖いな”って思うことを、少しずつ学んでいきましたね。
後編は、人気絶頂期に退団を決意した理由や、退団後のタカラジェンヌのキャリアについてもインタビュー。
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