目指せ!時事問題マスター

1からわかる!インフレ・デフレ そもそもなに?この先どうなる?

2024年04月25日
(聞き手:堀祐理 吉田遥希)

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モノやサービスの値段が下がる「デフレ」が長く続いた日本。これからは逆に物価が上がる「インフレ」の時代へと向かう転換期にあるそうです。そもそもインフレってなに?この先日本経済はどうなるの?気になるギモンについて1からわかりやすく解説します。

「インフレ」「デフレ」ってなに?

学生

最近「インフレ」や「デフレ」ということばをよく耳にしますが、どういう状態のことでしょうか。

日本では、2021年の後半から物価が上がり始め、今もその状態が続いています。

今井
解説委員

このように、モノやサービスの値段が上がり、それが繰り返される状態を一般的にインフレーション=インフレといいます。

いま、日本は「インフレ」なんですか?

ことし2月、日本銀行の植田和男総裁が、日本経済は今後も物価の上昇が続くとして、「デフレではなく、インフレの状態にあると考えている」と発言しました。

日銀の総裁による「インフレ状態」という発言は、踏み込んだ表現として注目されました。

教えてくれるのは今井純子解説委員。京都放送局や経済部の記者を経て2004年から現職。「時論公論」「みみより!解説」「おはよう日本 ここに注目!」などのコーナーで、主に経済、家計、消費者政策の分野を担当。

学生
吉田

「インフレ状態」とはどのような状態なんですか?詳しく教えてください。

簡単にいうと、モノやサービスの値上がりによって、お金の価値が相対的に下がることです。

自動車を買う場合を例に説明しますね。例えば、2%の物価上昇が10年間、続くとします。

車を買う場合のインフレの例

今、100万円の車は、来年は102万円、2年後は約104万円…と毎年値段が上がっていきます。10年後に買おうとすると、約122万円になっています。

一方、その間、100万円を現金で持ったままだったら、10年後に同じ車は買えなくなってしまいます。

現金の価値が目減りしてしまったんですね。

約30年続いた“デフレ時代“

お金の価値が下がってしまうんですね…。

今までの生活の中で、こんなことが起こるなんて思ってもいませんでした。

それは今まで、デフレ(=デフレーション)の状態が長く続いていたからです。

デフレ下ではインフレ下とは逆に、値下げが繰り返されていました。

つまり、お金の価値が相対的に上がっていたんです。

インフレ・デフレが起きると…

過去にさかのぼると、日本では1990年代後半から、物価が下がる年が多くなりました

約30年間にわたって、“デフレの時代”が続いてきたんです。

なぜ、デフレが続いていたんですか?

それには、大きく3つの要因があります。

1990年代後半から増減率は0を下回ることも 総務省「2020年基準 消費者物価指数 全国(除く生鮮食品)」より

1つ目は、世界で急速に進んだグローバル化です。1989年にベルリンの壁が崩壊して、冷戦が終わりました。

その結果、人件費の安いところで製品をつくる動きが広がり、中国などの安い製品が、日本を含む世界中に広がりました。

1989年 ベルリンの壁崩壊

2つ目は日本のバブル崩壊です。1989年、株価が当時の最高値をつけた後、暴落して、土地の価格も下がりました。

経営が苦しくなった企業の間で、社員を削減したり、賃金を減らしたりする動きが広がりました。

当然、安いものを買いたいという人が増えました。

1989年 東京証券取引所の場内

なるほど…。

そして、3つ目はインターネットの普及です。ネット通販を通じて、実店舗よりもモノを安く買える機会が増えましたよね。

価格を比較できるサイトも登場し、安値競争に拍車がかかりましたし、中古品も手軽に安く手に入るようになりました。

このような理由からデフレが定着していったんです。

デフレのメリット・デメリット

モノを安く買えるなら、インフレよりもデフレの方がよいということでしょうか?

確かに、デフレにはそうしたありがたい側面もありました。

以前は数万円もしていたような服が3000円ほどで買えるようにもなり、当時の私には驚きでした。

ある意味、豊かさが増えた時期とも言えますが、日本経済全体にとってはいいことだけではなかったんです。

どうしてですか?

モノやサービスの値段が下がると、多くの企業では利益が減ります。

企業は人件費を抑えるようになって、社員の賃金を減らしたり、非正規の社員を増やしたりしました。

すると消費者は、少しでも安いものを求め、場合によっては買い控えるようになりますよね。

こうした結果、賃金が減る→節約の動きが広がる→モノが売れなくなって値下げをする→企業の利益が減る→さらに賃金が減る…。

デフレスパイラルのイメージ

というように、日本は物価と賃金が下がる、経済の悪循環に陥りました。

「デフレスパイラル」と呼ばれるものです。

デフレスパイラル、聞いたことがある気がします。

ちなみにその間も、海外では物価や賃金は上がっていました。

最近では「海外ではラーメン一杯が2500円もする」「すし職人の年収は海外だと数千万円」といった話も聞くようになりました。

日本はかつて物価が高い国とされていましたが、今では賃金も物価も「安い日本」と呼ばれるほどになっています。

労働者が受け取った賃金を示す「名目賃金」を国際的に比較すると、アメリカやイギリスなどに比べて、その差は顕著です。

1991年を基準にすると過去30年間 日本はおおむね横ばい 厚生労働省「令和4年版 労働経済の分析」より作成

なぜいま物価上昇局面に?

デフレが長く続いていたのに、どうしていま物価が上がるようになったのでしょうか?

もともと物価が上がり始めたのは、世界的なコロナ禍からの回復で、原材料や物流の価格が上がったことがきっかけでした。

高い水準で物価上昇が続く 総務省「2020年基準 消費者物価指数 全国」より

そこにロシアのウクライナ侵攻が重なり、小麦やエネルギーの価格が一段と上昇。

さらに、円安が加わりました。1ドル=100円から150円の円安になると、これまで1000円出せば海外から買えていたものが、1500円払わないと買えなくなり、値上げの要因になります。

※円安・円高のしくみについて詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

「1からわかる!円安・円高 為替の仕組みをおさらいしよう」

原材料価格の値上がり、つまりコストの上昇によって、物価が上がる。

こうしたインフレは「悪いインフレ」と呼ばれています。

インフレに良い、悪いがあるんですか?

コストの上昇によるインフレが続くと、消費者は生活が苦しくなって購買意欲が下がり、節約をしてモノを買わなくなります。

そうなると、企業は利益が出せず、賃金を上げる余裕もなくなります。

消費者にとっては、賃金が上がらないのに身の回りのものが値上がりして家計が圧迫される、という状況です。

「悪いインフレ」とは

「良いインフレ」にするには?

「悪いインフレ」でなく「良いインフレ」にするためにはどうすればいいのでしょうか?

大事なのは、わたしたちの給料・賃金(=収入)が、モノの値段(=支出)以上に上がることです。

ことしの春闘で、労働組合の「連合」が3280社余りを集計したところ、賃上げ額は平均で月額1万5787円、率にして5.20%となり、33年ぶりに5%を超えました。

連合「賃上げ状況の推移」資料をもとに作成 

去年の同じ時期と比較しても、賃上げ率は1.51ポイント上回る水準となっています。

かなり高い水準、と理解していいんでしょうか。

そうですね。賃金が上がれば、消費者は「少し高くても、より付加価値のあるコーヒーを買おうかな」というように、消費に回すお金が増えます。

すると、企業は利益が増え、経済がよくなります。そして、さらに賃金を上げる企業が増えます。

モノが売れて、物価は上がるけれど、それを上回る賃上げにつながる。こういうインフレは経済が好循環する「良いインフレ」と呼ばれています。

「良いインフレ」とは

これから日本は、良いインフレになっていくのでしょうか?

まだはっきりとはわかりませんが、これまでのデフレスパイラルとは逆のサイクルに動いていく。今、その入口に立っているのではないか、という見方が出てきています。

インフレの時代に大切なことは?

物価や賃金が上がる時代に、生活するうえで意識すべきことは何でしょうか?

経済の構造が変わるので、その動向に関心を持つことがこれまで以上に大事になります。

ポイントの1つは、どうやって収入を増やしていくかを考えることです。

物価が上がるといっても、企業からすると、製品やサービスをただ値上げするのではなく、付加価値を生み出して「稼ぐ力」をつけることが求められます。

そのため多くの企業は、自社の競争力や提供価値を高めるための人材の採用・育成に力を入れています。

ですから例えば、自分に投資をして、語学力やITスキル、人工知能などの技能を身につける。あるいはそれを活用して、新しいビジネスを切り開くための知識や能力を習得することが大切です。

またインフレの時代は現金の価値が目減りしていきますので、資産の運用を検討するのも選択肢の1つだと思います。

「余裕資金」があれば、利益が非課税となるNISAのつみたて投資枠で「長期・つみたて・分散」の考えに沿って投資することなどがあげられます。

投資なので損をしてしまう可能性もありますが、それも含めて選択肢の一つとして勉強して、やるかやらないか自分で考えることが必要な時代です。

経済のさまざまな動きにアンテナをはって、柔軟に対応する。これからの人生に壁をつくらず、チャレンジしていく心構えが大切ですね。

インフレ・デフレや日本経済の見通しについてはこちらの解説番組でもご紹介しました。

「みみより!くらし解説 転換の年になるか? 2024年のくらし」

「時論公論 2024年日本経済の課題 物価と賃金 好循環の実現は」

編集:加藤誠

 

(肩書きは昨年度の取材時点のものです)

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