目指せ!時事問題マスター

1からわかる!南海トラフ巨大地震(2)私たちの生活はどうなるの?

2022年03月24日
(聞き手:白賀エチエンヌ 本間遥)

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甚大な被害が想定される南海トラフの巨大地震。ライフラインの停止、各地で起きる火災…。そして、富士山の噴火を誘発するおそれも!?

 

わたしたちの生活はいったい、どうなるのでしょうか…気になるギモンについて1から解説します。

学生
本間

南海トラフの巨大地震が、別の地震や火山の噴火を誘発する心配はないんですか?

2011年の東日本大震災のあとも、各地で地震が相次いで起きました。

島川
デスク

巨大地震が、その後、各地で地震を誘発するということは、理論的にも明らかになっています。

あとで起きる地震は「誘発地震」とも言われます。

教えてくれるのは、社会部・災害担当の島川英介デスク。気象庁や内閣府防災、国土交通省などの担当を歴任し、現在は災害ニュースや緊急対応の取材指揮を担っている防災・減災報道のスペシャリストです。

南海トラフの場合は、巨大地震が起きる前後に内陸の地震が活発化するであろうと言われています。

実際、1944(昭和19)年に東南海地震が起きた1か月余りあと(37日後)には、愛知県で三河地震が起きて、2000人以上の犠牲者が出ています。

ええ?!

だから、次に起こる南海トラフ巨大地震の前後に、内陸のどこかで大きな地震が起きるおそれは十分にあります。

学生
白賀

まさか、富士山が噴火するなんてことはないですよね?

事実として言えるのは、富士山は、過去、南海トラフの巨大地震の49日後に噴火したことがあるということです。

1707年の宝永地震の時です。

この地震は、歴史上わかっている南海トラフの巨大地震の中で最大級の規模だったとされています。

1707年の宝永噴火の様子を描いた「富士山宝永噴火絵図」

その49日後に富士山がこれまでの歴史上で最後の噴火をしているんです。宝永の噴火です。

地震が誘発したものだったんですか?

直接的な関係については、はっきりはしませんが「理論的にありうる」という見方をする人もいます。

とても怖いですね…。

実際に、東日本大震災を引き起こした巨大地震のあと、東北や東日本にある複数の火山が活発化しました。富士山もその1つです。

だから、南海トラフの巨大地震によって、富士山が活発化する可能性を否定することはできません。

東京への影響は

南海地震で倒壊した家屋(1946年12月 高知県四万十市)

南海トラフと聞くと、四国や近畿で大きな被害が出るという印象がありますが、東京にも被害は及ぶんですか?

東京は最大震度5強と想定されています。

東京湾の津波の被害はそれほど大きくないとされていますが、さまざまなところに影響が出ます。

※中央区、港区、江東区、品川区、大田区で最大3m、江戸川区で最大2mの津波が予測されている

例えば、大地震の際に高層ビルなどをゆっくりと大きく揺らす長周期地震動

東日本大震災の時、新宿のビルが、ゆらゆらと揺れている映像を見たことありません?

見たことあります。

撮影:視聴者

東日本大震災の時の長周期地震動の様子(2011年 東京・新宿区)
※画像をクリックすると動画が再生されます

東日本大震災のときは、東京・新宿区の超高層ビルで、揺れ幅は最大2メートル近くに達しました。

揺れ幅が、2メートル!?

地震の揺れは全然強くなくても、ある特定のところだけ建物の揺れやすい周期とあって、すごく揺れることがあるんです。

南海トラフでも、東京のビルの最上階の揺れ幅が、2メートルから3メートルと予想されています。

大阪の埋め立て地では、最大6メートルもの揺れ幅が想定されています。

そんなに!

ビルの中で、人やモノが行ったり来たりして、建物の中にいる人は翻弄されちゃいます。

この数字は片振幅といって、たとえば2mだとすると、キャスター付きの家具などは4mとかそれ以上動くこともあるので、めちゃめちゃ怖いですよね。

ビルごと崩れたりするおそれはないんですか?

国の想定では「倒壊には至らない」とされています。

ただ、揺れが想定を上回るケースもあると言われていますし、建物がボキッといかなくても、キャビネットなどが直撃したら、最悪死んでしまうこともあります。

大規模な補修をしないと建物を使い続けられない可能性もありますし、大きな被害につながりかねません。

なるほど。

揺れで人々がパニックに陥ってしまうおそれもあります。

1つのビルの中に何千人という人がいたりしますから、みんなが慌てて動くと、階段でドミノ倒しになって、怪我をしてしまう。

皆があわてて外に出て帰ろうとすると、混乱が起きます。

どんなことが起こり得るんでしょうか?

道路には帰宅する大勢の人があふれた (2011年3月11日 東京・新宿区)

東日本大震災の時も帰宅困難になる人が大勢出て、街は混乱しました。

このような状態になるのを避けるため、ビルの構造が安全であればそこにとどまるという判断も必要になってきます。

「ライオンが逃げた?」

あとは、デマのうわさが流れることへの警戒も必要です。

デマ?

2016年に起きた熊本地震では「ライオンが逃げた」というデマが流れ、SNSで広く拡散しました。

このほか、東日本大震災でも「千葉の石油コンビナートの爆発で有害物質が雨になって降ってくる」とかさまざまなデマが流れました。

こうしたウソの情報に惑わされないよう、落ち着いて情報の出元が信頼できるところなのかどうか、確認することが大切です。

なるほど。覚えておきます。

地震で大きな被害が出ると、物流がストップして食料品や生活必需品が手に入りにくくなることが想定されます。

商品がなくなったスーパーマーケットの陳列棚(2011年3月15日 東京・墨田区)

東日本大震災の時もそうでしたが、国の被害想定だと、スーパーやコンビニの商品もその日のうちになくなる。

被災地ではガソリンが3日くらいすると入手困難になります。

また、空気が乾燥する冬には、あちこちで火災が起きて、消火活動が追いつかなくなり、延焼がどんどん広がります。

助けがこない、ということですか?

道路も分断され、自衛隊が救援活動を始められるのは早くても翌日以降です。

岩手・宮城内陸地震で崩落した道路(2008年)

被害の大きな地域(東海や四国など)では電力の半分ほどが停電のまま。

上水道も四国で5割~8割、東海でも5割~6割が断水したままです。

そんな状態になってしまうんですね…。

避難生活は?

自宅が被害を受けて避難生活を余儀なくされる人も、やはりたくさんでてくるんでしょうか。

最初は、家に留まる人も多いんですが、数日すると食料がつきて避難所に集まってきます。

国の想定では、地震の発生から1週間後、“避難所に行く人が500万人、避難者は全体で950万人にのぼる”ということになります。

950万人…。

混雑する熊本地震の避難所(2016年4月 熊本県益城町)

そんなに多くの人が避難所に入れるんですか?

全員が入る分だけの避難所は用意されていないのが現状です。

しかもコロナ禍で、密を避けるとなると、ますます足りません。

避難所に入れないときはどうすればいいんですか?

分散避難って聞いたことあります?

聞いたことないです。

避難っていうと、指定された避難場所・避難所へ行くことだと思いますよね。

そうですね。

必ずしもそうではなく、安全な場所に行って身を守ることができればいいんです。

親せきや知人の家、一般的にはホテルなどの宿泊施設とかでもかまいません。

避難所がいっぱいにならないよう、別の安全な場所を探すことが大切です。

ばらつきはあると思いますが、避難生活はどのくらい続くものなのでしょうか…。

東日本大震災では、原発事故の影響もあって、最長で2年以上も避難所で過ごし続けた方がいました。

避難生活が長引くと、精神的な負担も相当なものですよね。

そう。加えて、避難生活が長引くと心配されるのは、感染症です。

ほかにも持病が悪化したり、車中泊の人がエコノミークラス症候群にかかってしまったりして、急に亡くなってしまう人も出てきます。

こうした、「災害関連死」を防ぐためにも、少しでも環境の良い場所で避難生活を送ることが大切なんですが、なかなか難しいというのが現状です。

仮設住宅の用意に8年?

仮設住宅はすぐできないんですか?

単純な試算ではありますが、もし、必要な分を仮設住宅でまかなおうとすると、建設に8年かかるという結果も出てるんです。

8年もかかるんですか?

205万戸が必要になると言われているんですが、賃貸住宅の空き屋などで確保できる分が120万戸あまり。

差し引きすると84万戸の仮設住宅を造らないといけない。

地域内で必要な戸数を建設しようとする場合、今のパワーで、それを造ろうとすると8年かかる計算なんです。

前例のない被害が出ることを覚悟しないといけないわけですね。

まさに「国難」となりますので、国や自治体もそうですが、私たち自身が、しっかりと備えておく必要があります。

未曾有の被害を引き起こすことが懸念される南海トラフ地震。最新の研究による予知はどこまで進んでいるのか。そして、被害を最小限に食い止めるための臨時情報とは?次回、詳しく解説します。

編集:岡野宏美 撮影:石川将也

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