2019年12月11日
(聞き手:井山大我 鈴木マクシミリアン貴大 田嶋あいか)
死者2万3000人、全壊または焼失する建物は合わせて61万棟…、話を聞けば聞くほど、学生リポーターの表情も、取材をした会議室の雰囲気もどんどん暗くなっていきます。まさに国難級の災害に、どう備えればいいのでしょうか?
解説は社会部災害担当の金森大輔デスクです。
想像を超える被害想定ですが、備えることはできるんですか?生死を分けるポイントは?
そうだね。
これが一番かな。
「個人の被害想定」、どういうことですか?
自分でも今、話をしながら本当、暗い気持ちになるんだけど、そんな中でも被害想定をもとに対策を考えなければならない…
だけど、いきなり言われて対策を考えるのはなかなか難しいよね。
そうですね。
自分に置き換えて、ここにいたらどうしよう、建物で火災があったらどういう行動をしよう、火事が向こうで起きていたらどこに逃げよう…
個人個人でこういった被害想定を作るべきだと思う。
例えば僕の場合ですと、83歳の祖母と生活しているんですけど、どういった備えが必要でしょうか?
一般的な呼びかけとしては、若い人や力のある人が一緒に逃げてほしいと言うんだけど、どこに逃げていいか分かんないよね。
“子どもがこういう場所にいたら” “おじいちゃんがここにいたら”…この状況で地震が起きたら、自分はどういう行動をとるか?って、ふだんの時に考えておくことだと思う。
考えるためのヒントとなるものはありますか?
内閣府のホームページや各自治体が作っているハザードマップとかかな。
自分の帰るルートはどういう事になるのか、見てイメージしておけば、まだ対応できる。イメージしておかないと、右往左往して何もできないままということになるから。
これまであまり詳しく見たことはなかったです。
全く何もなく「地震起きるぞ」「火事が起きるぞ」と言っても想像力は働かないので、自分がいるところはどうだろうと思って見てみるのは大事なんだ。
だけど、怖いのは、被害想定を見て、自分の住む場所は大丈夫だと楽観視すること。東日本大震災のときは、ハザードマップに入ってないところで、多くの人が亡くなっている。
ハザードマップの怖さは被害が想定される地域に入ってなかったら「入ってなかった、良かった」で終わっちゃうことなんだよね。
もし、今この瞬間に地震が起きたとしたら、僕たちはどういう行動を取ったらいいんですか?
例えばここにいたら、天井の石こうボードみたいなものがバーンと落ちてくるかもしれないから、机の下に隠れて頭を守る。けがをしたら間違いなく病院に行けなくなるからね。
ここでまず身を守って、その後は建物の中でみんなで協力しあう。外に出て大勢の人がいると、押し倒されたりする危険があるから中にいられるならいたほうがいい。
はい。
さっきの質問はすごく重要で「今この場所で起きたらどうするか」とシミュレーションするのは大事なんだ。今日も帰りに歩きながら「ここで地震が起きたらどこに逃げよう」とか、考えておいてほしい。
ふだんよく通る道であればあるほど、色々なことを予測して、こんなところにブロック塀があるから近寄らないでおこうとか、この看板はどう考えても古いから危ないとか。
ちょっとした事で、自分の身を守ることができるかもしれないんだよね。
普段から地震のことを意識するには、どういう心構えが必要ですか?
よく言ってるのは、真っ暗闇で、いきなり殴られると大ケガするけど、前から来そうだとか横から来そうだと思うとちょっと身構えられる。それをいっぱい作っておくのが重要。
今日も帰りにビル街を歩いたら、そこの看板落ちるなとか、今ここで地震があったら、ここに逃げようって、ちょっとだけでも自分の中の想定を作っておくこと。
帰りに調べてみようと思います。
東京にいたら人の数だけ1000万通りの被害想定があるんだ。みんなには最悪のケースも考えて、その時、自分ならどう行動するかというのを考えてもらいたいです。
みんなに意識してほしいのはもちろんだけど、政府にも感じてほしいんだよね。よく政府が「復興に全力を尽くします」って言うけど、それは全力を尽くして当然のことで、本来はその前、災害が起きる前に全力を尽くしてほしいと思うんだ。
ネットを使うとデマも回ってきて、正しい情報にアクセスできないのが怖いと思うんですが、どうすればいいんですか?
東日本大震災でコンビナート火災があった時、毒物が入った雨が降るってデマで騒ぎになりそうだったり、熊本地震の時にライオンが逃げたというデマがあったりしたけど、怪しい情報はソース(情報源)も少なかったりして、そのうち収まることも多い。
情報が本当に正しいかを判断するポイントは、事前の想定。
ゼロの状態で情報が入ると、正しいかどうか分からなくなるけど、事前の被害想定があると「これは正しい」「間違っている」と判断しやすくなるんだ。
それから、首都直下地震クラスの災害が起きてしまうと、基地局がダメージを受けてバッテリーがもたなくって、通信網も断絶します。
例えば自分が安全な場所にいたとして、それを家族と共有できない状況になることもあると思うんです。それもあらかじめ災害が起こる前に家族の中で話し合ってルールを決めておくのが大事なのでしょうか?
まさにそのとおりです。首都直下地震が起きたら「この場所に行くから」とか予め決めておく。家を集合場所にしちゃダメなんだ。
そうなんですか?
都心ならまだしも、(住宅の全壊や火災の発生が予想されている)世田谷区とか杉並区で、「家で集合ね」というルールを作ったらマズい。家の周辺の〇〇公園ね、と言っても、そこには人が殺到するし火に包まれるかもしれないから。
どうすればいいんですか?
戦争じゃないから、生きてさえいればいつか会えると思うんだ。
さみしいし、しんどいし、ちっちゃいお子さんがいる方はそんな事言ってられない、家に1人でいたら死んじゃうから助けに行きたいっていう気持ちもあると思うんだ。
でも家族が皆さんぐらい大きかったら、生きてさえいれば1週間くらいたてば会える、なんとかなると思って、予めそういう会話をしておくのも大事だと思う。
これだけ火災の被害が想定されていると、地震が起きたあとに、火事にならないための備えも大事だと思いますが、具体的に僕たちにできることはありますか?
2000件出火するという想定なんだけど、それは、延焼した件数ではなくて、あくまで「出火」なんだ。それをどれだけ早い段階で消せるかというのが、実は勝負なんだ。
だからまず身を守って落ち着いて、地震が収まったら火の元を消して、ブレーカーを落とす。
通電火災といって、停電したあと、どこかに逃げてる間に電気が通った瞬間に火事が起きることもある。阪神淡路大震災は、半分以上が実は通電火災と言われているんだよね。
そうなんですね。
だから、初期消火がきわめて重要なんだけど、かといってブワーって立ち上がる炎に一人で立ち向かうわけにもいかない。自分の顔の高さぐらいまでは、安全が保てるから火を消せるとは言われている。
出来なかったら諦めて逃げちゃえばいいけど、逃げる時には必ず「火事だ~火事だ~」って叫んだほうがいいんだよね。周りの人は出火の時って気付かないから。
実際自分がその場にいたら、火を消すか逃げるか、すごく迷っちゃいそうです…。
迷ったら逃げた方がいい。逆に「この程度なら消せる」と思ったら消す。それでもしかすると何千棟の家が助かるかもしれない。
この最悪の被害想定って、2000件のうち初期消火が成功したのは800軒で、1200軒が最終的に火災に発展していくと41万棟がなくなるっていう設定。だから初期消火は重要なんだ。
必ず来ると言われる地震に対し、私たちはどうやって向き合うべきですか?
これよく会社の新人研修とか、説明会で言うんだけど、この図は、平安時代に巨大地震が起きた年月なんだ。
869年というのは「貞観(じょうがん)地震」と呼ばれていて、これって、東日本大震災と類似してるって言われてる。複数の専門家はこの時代に似ていると。
何が言いたいかというと869年「貞観地震」の9年後、878年に関東の直下で地震が起きた。
現代に置き換えると、東日本大震災が起きた2011年の9年後って来年(2020年)になるでしょ。
そうですね…。
さらに先ほどの平安時代では9年後の887年に南海トラフの巨大地震が起きたんだ。
このケースだけの類推でしかないけど、東日本大震災によって、すごく地盤が引きちぎられるように動いている中で、平安時代のような流れで地震が起きるかもしれない。
それが来年かもしれないし、その9年後に南海トラフが起きるかもしれない。皆さんが今後30年40年働く中で、こうした災害に遭遇して影響を受ける可能性は高いと思う。
だからそういうこともあるんだと思って、生活や仕事をしてほしい。もし首都直下地震が起きたら、災害が仕事のテーマになってしまうということなんだ。
最後にあらためて、僕たち若い世代はこの災害にどうやって向き合えばいいですか。
もし首都直下地震が起きたら、どこにいても、どんな仕事をしていても、ほとんどそれがテーマになってきてしまう。
日本って災害が避けられない国だけど、それを諦めるんじゃなくて、自分たちが社会に出てどういうふうに貢献しようとか、直面する問題として考えていってほしいと思います。