目指せ!時事問題マスター

1からわかる!南海トラフ巨大地震(3)予知はできるの?

2022年04月06日
(聞き手:白賀エチエンヌ 本間遥)

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日本を「国難」に陥れるとされる南海トラフの巨大地震。“その時”を知らせてくれる予知はできるのでしょうか。そして、わたしたちが命を守るために持っておくべき心構えとは? 社会部災害担当の島川デスクが1から解説します。

予知はできる?

学生
本間

南海トラフの巨大地震が大きな被害を引き起こすおそれがあるということですが地震の予測はどこまで可能になっているんでしょうか。

飛躍的に性能が向上したスーパーコンピューターを使って、何らかの異常を事前に察知できないかという研究は進んでいます。

島川
デスク

プレートの詳細な形などをコンピューターの中に再現し、プレートが沈み込むとどのタイミングで地震が起きるのか、というシミュレーションを繰り返すという研究がされているんです。

教えてくれるのは、社会部・災害担当の島川英介デスク。各地の災害現場で取材を続け、現在は災害ニュースや緊急対応の取材指揮を担っている防災・減災報道のスペシャリストです。

最新の科学で研究が進められているってことですね

そのとおりです。ただ、南海トラフは一部の科学者の間で「沈黙のトラフ」って呼ばれている側面もあって…。

学生
白賀

どういう意味ですか?

南海トラフの想定震源域のうち東海から四国にかけてでは、ふだん、地震があまり起きないんです。

最近だと2004年に紀伊半島でマグニチュード7の地震があったんですが、大きい地震はそれ1回だけ

じゃあ、大きい地震が来る前の前兆がないっていうことですか?

そう。プレートとプレートがぴったりと重なり合っていて、こういう場所で起きる「プレート境界型」っていわれる地震がめったに起きないんです。

簡単にいうと「巨大地震だけが起きる」ので、手がかりが少ない、とも言えるんです。

なるほど…。

一方で、これまでの研究からわかってきたこともあります。

「スロースリップ」って聞いたことありますか?

「スロースリップ」?

海側と陸側のプレート境目の付近が、ゆっくりと静かにずれ動く現象のことを言います。

人が揺れを感じることはありません。

これが南海トラフの想定震源域の縁(ふち)のあたりで、繰り返し、観測されているんです。

そうなんですか。

実は、東日本大震災の時も本震が起きる前から、震源のすぐ近くでこの「スロースリップ」が起きていたことがあきらかになりました。

巨大地震の発生場所に力を加えて、いわば「最後の引き金」となった可能性が指摘されているんです。

こうした研究結果をもとに、南海トラフでも、地震が起きる前に「スロースリップ」の回数が増えたり。

その範囲が広がったり、といったことが起きるのではないかとも言われています。

ええ、怖い…。

でも、時間と場所を特定したいわゆる「予知」というところまでは到達できていないのが現状なんですね。

予知ができない…対策は?

予知できない中、国は、どのような対策をとっているんでしょうか。

突然地震が起きることを前提に、防災減災対策を充実させるのが基本です。

ただ、大地震が起きるなどして南海トラフ巨大地震が発生する可能性がふだんより高まったと評価された場合には気象庁が「南海トラフ地震臨時情報」を発表します。

異変が検出された際は、現状の知見の範囲内での情報を公表するわけです。

どういったものなのでしょうか。

南海トラフ沿いでマグニチュード6.8以上の地震が発生するなど、ふだんと異なる現象が観測された場合。

まずは、調査を始めたことを示す「調査中」というキーワード付きの情報が発表されます。

その後、専門家で作る評価検討会が巨大地震と関連があるか検討を行い、最短で約2時間後に結果を知らせる情報が発表されます。

それが、「巨大地震警戒」「巨大地震注意」です。

「巨大地震警戒」は、陸側のプレートと海側のプレートの境目でマグニチュード8.0以上の地震が起き、次の巨大地震に対して警戒が必要とされた場合に発表されます。

この情報が出されると、地震が起きてからでは津波への避難が明らかに間に合わない地域の住民は、事前の避難を求められます。

それほど、切迫した状況だということですか?

南海トラフでは過去にも、震源域の半分の地域で巨大地震が起きたあと、残りの半分の地域で大きな地震が起きたことがあります。

期間は32時間後や2年後と大きな幅があるのですが。

もう1つの「巨大地震注意」は、想定震源域の周辺でマグニチュード7.0以上8.0未満の地震が起きた場合や、先ほどの「スロースリップ」が通常とは異なる場所で観測された場合などに発表されます。

避難は求められませんが、避難経路や家具の固定の確認など、備えの再確認が求められます

高校生が避難訓練を体験する様子(2016年・高知県黒潮町)

「巨大地震警戒」が出された場合は、地震がいつ、起こるかわからないのに避難をしなくてはならないということでしょうか。

そうです。命を守るために事前に避難しましょうということです。

地震が起きるまで?

いえ、1週間です。

先ほどお伝えしたとおり、この間は「津波の浸水のおそれがあってかつ避難が難しい人たちは避難を継続して下さい」となっています。

その後、1週間たつと避難の呼びかけなどはなくなりますが、引き続き、地震への備えを確認しながら生活を送ることになります。

なぜ1週間なんですか?

家庭で食料を備蓄している量が、大体1週間分だからですか?

そういう側面もあるかもしれませんが、国が自治体を対象に、地震がいつ起きるか分からない中で避難を続け、影響が出るまでにどのぐらいかかるかを尋ねるアンケート調査を行った結果、多くが“3日程度”や”1週間程度”と回答したんです。

いつ起こるかわからないということで非常に難しいところですが、このアンケート調査の結果が、1週間という期間を設定した理由となっています。

その間、地域の企業や学校の活動はどうなるんですか?

実際に起きるかわからないから、国のガイドラインの中では「社会全体としては通常の社会活動をできるだけ維持しましょう」となっています。

事前避難の対象となっている学校には休校などの措置が求められていますが、企業にはそこまで求めてはいません。

ライフラインの停止、各地で起きる火災…。そして、富士山の噴火を誘発するおそれも!? 1からわかる!南海トラフ巨大地震(2)私たちの生活はどうなるの?はこちらから。

避難所から学校に通うということもありえるということですか?

そうなりますよね。

でも避難所って学校が指定されていることが多い。

確かに。

学校は授業を続けているけれど、体育館には避難者がいるという状況になります。

それで普通に授業ができるのかというと、ちょっと難しいですよね。

そうですね。

新型コロナの感染が拡大して緊急事態宣言が出された際も、学校が休校になって子どもを家において仕事にいけない、という悩みを抱えた家庭がたくさんありました。

もちろん、感染症と地震とでは、いろいろな前提が異なるんですが、共通する課題が多くあると感じています。

社会活動を停止すればリスクは抑えられる。でも生活への影響は大きい。

2020年4月 緊急事態宣言下の渋谷

逆に、社会活動を普段通りにすれば、生活への影響は少ない。

でも、有事の際の被害は大きくなります。

なるほど、確かに共通する部分がありそうです。

政府としては「臨時情報」というシステムをつくっているけれど、結局、判断が自治体や企業、さらには個人にゆだねられている部分が大きいというのも共通する点です。

ほかにはどんな課題がありますか?

この「臨時情報」という制度をそもそも知らないってことですね。

わたし、初めて知りました。

そうですよね。

地震によって甚大な被害を被ると想定されている高知県でも、去年行った県民への意識調査で、半分近くの人が臨時情報を「知らない」と答えています。

いざ国から情報が出された時に混乱しないためにも、あらかじめ、知っておくこと、考えておくことはとても重要です。

「自分ごと」に

予知もできない。政府の対策も結局は個人にゆだねられている部分が多い。

こうした中で、わたしたちが命を守るポイントはどこにありますか?

こちらです。

「敵を知るだけでなく、己を知ろう」

どういうことですか?

わたしたちは相手のことばかりを知りたがる傾向にあります。

この場合でいうと「どういう地震」や「どんな津波」なのかを知ることも大切ですが、「避難したがらない自分」「備蓄を面倒くさがる自分」のことを知る。

「(SNSなどで)流れてくる情報をつい信じてしまう」といった、自分ごととして考えることが、対策のカギなのではないかと思います。

自分ごととして考える…。

自分ごととして捉えることができなければ、その情報はスーッと流れてしまいます。

新型コロナについても「世界でパンデミックが起きる」って早くから言われていました。

でも、日本でも感染が拡大し、知り合いや著名人が感染したり、亡くなったりしてはじめて、真剣に対策を考えたという人が少なくなかったと思います。

確かに…。

災害って非日常なので、ふだん生活している中で、起きたらどうしようと、常に考えているということはないと思います。

まぁ、四六時中考えている必要もないけど。

ちょっとした機会があった時に、どう対応するかを考えて、イメージすることが大切です。

話を聞いていて、自分の意識を変えないといけないと思いました。

勉強になりました。ありがとうございました。

編集:岡野宏美 撮影:石川将也

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