追跡 記者のノートからオーバードーズやめた女子高校生~友人を亡くして気づいたこと

2023年11月22日事件 社会

話を聞かせてくれたのは16歳の女子高校生です。

新宿・歌舞伎町の「トー横」に通っていた彼女は、数か月前まで「オーバードーズ(OD)」=市販薬の過剰摂取にはまっていました。

何度やめようと思ってもやめられなかった。

そんなとき友人の女の子が亡くなったのです。

(社会部記者 奥野葉月)

警視庁は今月、「トー横」周辺で無許可で市販薬を販売した疑いで、21歳の容疑者ら4人の逮捕に踏み切りました。
オーバードーズをめぐって何が起きているのか、実態と対策を取材しました。

中学生で初めてのオーバードーズ 市販薬80錠を

「現実逃避できるかなって。SNSで以前から見ていて興味本位で飲みました」

女子高校生がオーバードーズを初めて経験したのは中学3年生のときだといいます。

当時、学校では“いじられキャラ”で、嫌だったのに同級生は悪気なくいじってきて傷ついていました。

「やめて」と言っても笑って流されて本気にしてもらえず、自分で解決するしかないとつらい気持ちをため込んでいきます。

そして学校から帰宅したある日の夜、初めてオーバードーズを試み、せき止めの市販薬1瓶およそ80錠をすべて飲みきりました。

女子高校生
「大量に薬を飲んだら情緒がいろんな方向に行ってずっと何時間も泣き続けたり、めちゃくちゃ気持ち悪くなって友だちに変なLINEを送ったりしました。純粋に疲れてしまったんです。いろんなことを考えたり、勉強や委員会、部活とかもやっていたりしたからそれで疲れちゃって1回忘れようかなって」

「一緒にパキろ」 次第に依存するように

体調が悪くなり病院に行くなどしたためすぐにやめたものの、しばらくして悩みが募ると再び誘惑にかられました。

彼女は当時、次のような思いを抱えていたといいます。

“親に言っても何もしてくれない”
“「つらいんだよね」と先生に相談したら、「つらいのはみんな一緒だから頑張れ」と言われたり、「親には言わないで」と言ったことを親に勝手に伝えたりするなんて…”

2回目のオーバードーズはSNSなどで情報を集め、1回目とは別の薬にしました。

そして月に1回とか2か月に1回だったのが、半年後には毎日のように薬を飲むようになったのです。

女子高校生
「その薬が自分に合っていたのか、頭がふわふわして記憶が飛ぶのが楽しくてはまってしまいました。ただそのあとは気持ち悪くなるから『もうやらない』とは思うんですが、時間がたったらまたやりたくなって。依存症みたいに結局やめられなかったです」

さらに当初は自宅で服用することが多かったのが、次第に新宿・歌舞伎町の「トー横」で出会った友人たちと一緒にやるように。

友人と記憶をなくすことが楽しかったといい、「一緒にお酒を飲もう」という感じで「一緒にパキろ(=オーバードーズをすること)」という気軽なやりとりで繰り返していたということです。

突然亡くなった友人

それは突然の知らせでした。

ことし6月ごろ、自分よりも高い頻度で薬を飲んでいたという友人の女の子が亡くなったのです。

知らせを受ける直前にオーバードーズはやめていましたが、仲のよかった友人の死をきっかけに「もう絶対にできない」と思うようになったといいます。

女子高校生
「その子は屋外でオーバードーズをすることにはまっていました。急になんの前触れもなく亡くなってしまうなんて全然考えていなくて。今思えば何しているんだという感じですが、そばにいたのに助けられなくて本当に後悔しています」

広がるオーバードーズ 警視庁が摘発

SNSで検索すると、次のような投稿が次々に出てきます。

ODでフワフワしたい。現実しんどい

今度一緒にODしよ

ODやめたいけどやめられない

警視庁が押収した市販薬

若い世代を中心にオーバードーズが広がるなか、警視庁は今月、「トー横」周辺で無許可で市販薬を販売したとして、21歳の容疑者ら男女4人を医薬品医療機器法違反の疑いで逮捕しました。

補導した少年少女から聞き取りを進めるなどした結果、「オーバードーズ目的じゃないと売らない」とか「この辺りでいちばん安く売っている」などと言って市販薬を正規の価格よりも安く売りさばいていたということです。

ある捜査幹部は「こうした違法販売が過剰摂取を助長している可能性がある」と指摘。薬の入手先などの解明を進めるとしています。

一方、オーバードーズとみられる症状で救急搬送されるケースも増えています。

病院の受診記録

東京消防庁によると、都内で自殺目的で鎮痛薬などを飲み救急搬送された人は去年1561人と、5年前のおよそ1.5倍に。
10代と20代の若い世代では、2倍近くに増加しています。

若い世代×市販薬ならではの危険も

オーバードーズで搬送されてくる患者の対応にあたっている医師は、多くのケースは軽症で済むものの、なかには脱水で腎臓が悪くなって集中治療室での治療が必要になったり、意識がなくなったりする人もいるといいます。

埼玉医科大学病院 臨床中毒科 喜屋武玲子医師
「飲む薬の量によっては本人が思った以上に具合が悪くなり、どうきが止まらなくなったり、体が動かなくなったりする人が多い印象です。日本の市販薬のなかには複数の成分が含まれているものがあり、知らず知らずのうちに中毒になる成分を過剰摂取してしまうケースがあります」

さらに「若い世代×市販薬」ならではの問題点を指摘します。

依存状態になった少年少女がオーバードーズに至った問題を解決するために精神科を受診しても、年齢が低いことを理由にすぐには受け入れられないケースもあり、治療や相談につながるまでに時間が空いてしまうというのです。

またアルコールや違法薬物などとは異なり、市販薬の依存症治療のプログラムはまだ確立されていません。
病院に搬送されても体が元気になれば自宅に帰され、根本的な問題が解決しないまま同じことを繰り返してしまいます。

一方、喜屋武医師も参加した厚生労働省の研究班がオーバードーズで救急搬送された人を対象に行った調査では、6割余りが実店舗で市販薬を購入していました。

喜屋武医師は、診察を通じて「話を聞いてもらいたい、自分のことをわかってもらいたいと思っている人が多い印象」と話し、実店舗で販売するからこそできることがあるとも指摘します。

埼玉医科大学病院 臨床中毒科 喜屋武玲子医師
「薬剤師などから『販売時に自分たちが事情を聞いていいのか』とよく質問されますが、むしろ『どういう理由でこの薬が欲しいのか』としっかり話を聞くことで、薬剤師などが“ゲートキーパー(門番)”になり、悩んでいる人になんらかのアプローチができるのではないかと考えています」

独自に対策進めるドラッグストアも

医師が指摘した“ゲートキーパー”の役割。

都内を中心におよそ30店舗を展開するドラッグストアでは、独自に対策に乗り出しています。

営業時間中は薬剤師や登録販売者などの資格を持った従業員を常駐させ、市販薬を販売する際には、使用する人や年齢、購入目的を聞き取るほか、使用上の注意を説明するなど購入者への声かけを徹底しているといいます。

また、乱用のおそれがある成分が含まれている薬などには、店オリジナルのポップで注意を呼びかけています。

龍生堂本店 吉村賢一さん
「薬は安全であることが欠かせないので、決められた範囲内で販売することを徹底しています。店舗で直接お客様の顔色を見たり症状を聞いたりしていますが、ほかの店でも買っていないかまでは判断できないので、その点は非常に不安を感じています。お客様に商品を買ってほしいというジレンマはありますが、薬に関しては用法用量を守ってほしいという思いが強いです」

国も対策進める

厚生労働省は、ことし4月から乱用のおそれが指摘される6成分を含んでいて販売が制限される医薬品の対象品目を拡大。
購入できるのは原則1人1箱までとし、中高生など若者に対しては名前や年齢を確認するよう販売者に求めています。

さらに検討会では、20歳未満に乱用のおそれのある医薬品を販売する場合の対策として以下の案が議論されています。

▼小容量の製品1個のみ販売
▼2個以上や大容量の製品の販売は原則禁止
▼店頭では客が手に取れない場所に陳列し購入者の名前や年齢を記録
▼インターネットで購入する際は薬剤師や登録販売者など有資格者とのビデオ通話を行う

支援団体 「適切なサポートにつなげること」

では「助けてほしい」と感じている当事者たちにどう関わっていけばいいのか。

歌舞伎町で子どもの支援活動を行う防犯ボランティア団体は、週に1回カフェを開いて当事者たちと交流したり、広場に出かけて直接コミュニケーションを取ったりするなかで、若い世代の抱えている問題や悩みを聞き取っています。

一方で、団体も自分たちが呼びかけるだけでやめさせることは難しいと感じていて、オーバードーズをしてしまう背景や理由に耳を傾け、行政や医療機関など適切なサポートに結びつけることが大切だと考えています。

防犯ボランティア団体 オウルxyz(オウリーズ) 酒井渉伍副代表
「自分たちの活動で救われる人は少ないかもしれないけど、1人でも人生のベクトルを変えられたら意味のあることだと考えています。支援機関はあっても当事者がそこに出会うまでが大変なので、もっと周りの大人や社会が悩んでいる子がいるということに気づいて、最適な支援ができる場所につなげることが必要だと思っています」

友人亡くした女子高校生の思い

「こんなことがないとオーバードーズをしたらいけないと気づけないってすごいダメだと思う」

友人を亡くした女子高校生は、自身についてこう振り返りました。

それでも彼女はいま、支援団体を通じて出会った、“一緒に考えてくれる”人たちにも支えられ、自身の経験を話すことで少しでも同じように悩んでいる人の力になりたいと考えています。

女子高校生
「オーバードーズで記憶をなくすとホテルに連れ込まれたり、気づいたら腕が傷まみれになったりするという危険性もあります。やっぱり話を聞いてくれて応援してくれる人がいるというのはうれしいです。当時は悩んでいて助けてほしかったけど、自分からは言い出せないからオーバードーズをすることで心配してほしいという気持ちもありました。でも周りの人にはすごい迷惑をかけてしまったと思っています。

友人も悩んでいてそうするしか楽になる方法がなかったから、オーバードーズをしている人にはやめてほしいと思うけど、簡単にはやめられないのもよくわかっています。オーバードーズをただやめてと言うのではなく、自分の過去の経験も話して悩んでいる根本的な理由を探すとか一緒に解決するために行動できるような人になりたいです」

取材後記

女子高校生は、ことばに詰まりながらも丁寧に取材に応じてくれました。

そして「自分が経験を伝えることで、今オーバードーズをしている人やその周りの人に『やめたらもっといいことがあるんだ』とかプラスの影響を与えることができれば」とも話してくれました。

誰でもすぐに手に入れられる手軽さは市販薬ならでのメリットでもあり、過剰に購入するのを防ぐことは難しいのかもしれません。

それでもオーバードーズで悲しむ人を少しでも減らすために。
一人ひとりの背景に思いを寄せ、どう支援につないでいけるかが問われていると感じました。

不安や悩みを抱える人の相談窓口は、厚生労働省のホームページなどで紹介しています。

●厚生労働省「まもろうよこころ」(※NHKサイトを離れます)

●電話の相談窓口
「よりそいホットライン」0120-279-338
「こころの健康相談統一ダイヤル」0570-064-556

※11月22日にニュースウォッチ9で放送予定

  • 社会部 記者 奥野葉月 2018年入局
    松江局を経て2023年8月から社会部・警視庁クラブに所属
    子どもが関わる少年事件などを担当