解決 疑問に答える“事件のミカタ1からわかる少年法改正(3) 何が変わったの

2023年6月16日司法 社会

去年4月の成人年齢の引き下げに合わせて、20歳未満の「少年」が事件を起こした場合などの処分や手続きを定めた少年法も改正されました。

具体的に何が変わったの?

司法担当の解説委員を務めた山形晶デスクに学生リポーターが聞きました。

法改正で逆送の対象が拡大…でもそもそも逆送って?

学生
本間

少年法の改正で、具体的には何が変わったのでしょうか?

大きく変わったのは、これまでよりも刑事処分の対象を増やしましょうということになった点です。「逆送」の対象が広がったんです。

山形
デスク

教えてくれるのは山形晶デスク
司法取材のスペシャリスト。社会部記者時代には裁判員制度が始まり、制度をめぐる課題を取材した。司法・事件事故などを専門とする解説委員を務めた。

学生
小野口

逆送って、よく聞きますが、あまり理解できてなくて…

そもそもの仕組みとして、14歳以上であれば罪を犯すと逮捕されます。逮捕される段階までは大人と同じです。

ただ少年の場合はそこから先の手続きが違っているんです。

逮捕された後に検察には送られるんですが、大人の場合と違って検察はいきなり起訴することはできません。

必ず、すべて家庭裁判所に送らなければいけません。

全部ですか?

はい。それで、家庭裁判所で何をするかというと、心理学とか社会学の資格を持つ調査官が調べるんです。

この子はどういう子なんだろうというのを見た上で、家庭裁判所は少年審判をします。

大人の刑事裁判は事実に着目するのに対して、14歳から19歳の方はそれだけではなくて、より心の中とかに着目して更生させていこうみたいな動きが強いということですか?

そうです。

“この子をどう立ち直らせるか”が前提の手続きなので、おのずと見るところが違ってくるというか、やり方が違ってくるということなんですね。

警察の取り調べは、ある行為を罪に問う、処罰するための材料をそろえる手続きですが、家庭裁判所の調査は少年の心の中に入っていくような…

この子はどうしてこうなってしまったのか、人を見ていくような、そういうところがありますね。

なるほど。審判を受けたらどうなるんですか?

多くの場合は保護処分という手続きに移ります。

3種類あるんですが、一番重いというか、立ち直りを支える大人と少年のかかわりが一番強いのは少年院です。

外に出ることができない施設に入ってもらい、そこで立ち直りをはかります。

もうひとつが保護観察です。施設には収容しませんが、家なり社会の中で暮らしながら、保護観察官とか保護司さんとか…そういう人と時々面会して、アドバイスを受けたりしながら生活します。

最後は児童自立支援施設という施設に送るケース。

全国にありますが、少年院ほどではないというか、もうちょっと集団生活、家庭的な雰囲気というか…

職員がいてみんなでそこで寝泊まりしながら生活します。そこで立ち直りを支えます。

手厚いんですね。

はい。それが被害者やご遺族からどう見えるかという問題もあります。

やっぱり甘いというふうにも見えると。何で子どもだけ特別扱いなんだと。

人を殺したのに、なぜ子どもだけ特別なんだと思う人がいるのは、これもやっぱり自然なことで。

そうですね。

一方で厳しい処置を受けることもあるんですか?

大人と同じ出口になる、という道もあります。

刑事裁判ということですか?

そうです、家庭裁判所がこの子は保護処分よりやっぱり刑罰を受けさせるべきだと判断した場合、家庭裁判所が検察官に送り返すことを決めるんです。

それが『逆送』です。その場合は大人と同じように刑事裁判を受けることになります。

今回の改正で逆送される事件が増える

今回の改正で、原則逆送の対象の罪名が増えます。

『原則逆送』というのは?

2000年に法改正されて始まった制度です。

殺人とか傷害致死とか、自分の意図、自分の意思で故意に人を死なせた罪が対象でした。

“人の命を失わせるという行為はとても重い、かつそれが自分の意思で故意にやったということであれば、これはもう重大事件の中でも重大事件”だと。

いくら少年とはいえ、原則として逆送という扱いにしていいのではないかということになったんです。

ただしこの原則逆送の対象は16歳以上なんです。

刑事責任を問われるのは14歳以上からです。

原則逆送の対象にするのは、もうちょっと成熟した段階にしましょうということで、2歳年齢を上げたんですね。

その年齢の場合、必ず送り返されるということですか?

これが微妙で、「原則」なんです。

むずかしい…

「この罪名の人は原則逆送としてくれ」と法律には書いてあるんですが、原則だから、裁判所が最終的には判断するんですよ。

だから、実は殺人と言っても逆送されないケースもあるんです。

これが2000年に始まった原則逆送なんですが、今回の改正で、原則逆送の対象の罪名が増えたんです。

どう変わったんですか?

18歳・19歳を「特定少年」と定義して、「特定少年」については、原則逆送の対象を増やしましょうと。

より重くしましょうということになったんです。

故意の殺人などだけじゃなくなるってことですよね。

そうです、原則逆送の範囲をもっと広げるべきだという議論があって、法定刑の下限が1年以上の懲役・禁錮の罪は、それなりに重いということでこの範囲になったんです。

法律の下限を1年と設定すると、色々な罪が対象になる。基本的には故意に起こした事件が対象になることが多いかな。

あらかじめ法律で決まってないといけない。

法律に書かれているということですね。

そうです。今までの原則逆送はほんとに狭い範囲で、“〇〇殺人”、“〇〇致死”とかついているものだけでした。

実は殺人未遂も入っていません。

少年を更生させるという目的に即しても、やはり故意でやったということが大きいということですか?

やっぱり自分の意思で犯罪をやるか、ミスなのかという違いはかなり大きいんです。

事故のことなんかを考えれば、被害者からすれば命が失われているのは同じじゃないかとなるのですが、伝統的に刑罰をどうするか考えるときには、故意なのか故意じゃないかというのはかなり大きいんです。

強盗などを含めるために、今回、懲役や禁錮1年以上の重い罪に絞ったってことですか?

含めるためにかと言われると、厳密にそういう説明があったわけではないんですが。

議論の過程で「やっぱり強盗を入れるべきでしょう」とか、「強制性交を入れるべきでしょう」という議論があって。

最後、まとめの案を作っていく段階で、下限1年以上にしましょうという案が示されたんですね。

原則逆送が増えるとどんな影響が

原則逆送の対象が増えたら、少年院に行ったり保護観察になったりする可能性はなくなるんですか?

特定少年が逆送されて刑事裁判になり有罪になったら、基本は少年刑務所で刑罰を受けます。

ただ、少年が逆送されて開かれた刑事裁判で、裁判官、あるいは裁判員が「これはやっぱり刑罰じゃなくて保護処分がいいんじゃないですか」と思えば、そういう結論にすることもできます。

だから、実際はかなり少ないけど、少年院に行ったり保護観察になるケースはゼロではないです。

少年刑務所が刑罰を受けるところで、少年院が立ち直り支援をしてくれるところという認識であってますか?

あっています。

少年刑務所と、少年院それぞれの違いを知りたいです。

実は、中身が全く違っていて、保護処分、少年院の方は完全に立ち直りが目的なので、少年をどう教育していけばいいのかを徹底的に考えて個別の計画でやっています。

メインは生活指導で、本人が社会できちんと自立した人間として生きていくには何が必要か、社会復帰のための教育をしているんです。

立ち直りには勉強も大切で、学校の授業のような勉強もやっています。

一方、少年刑務所に入るとメインは刑務作業です。

刑務作業…

刑罰としての労働です。学びではない労働

刑務所の中の食事を作ったり、運搬したりする作業があります。

一番大きく違うのが夕方以降の過ごし方です。

夕方以降、何が違うんですか?

少年院ではみんなで寮生活をしていて、夕方以降は食事の準備をしたり、集まってしゃべったりするような機会があります。

少年刑務所では夕方以降はどう過ごそうが自由です。

少年刑務所は刑罰のための施設なので、あまりにも過剰な制裁はいかんだろうということになると、夕方以降は自由時間にせざるをえません。

だいぶ性質が違うと思うんですけど。

立ち直りのためにどっちが手厚いといえば、間違いなく少年院の方が手厚いですね。

社会としてどっちが適切なのかといえば、それはなかなか正解が出ませんね。

今回の少年法改正、逆送の対象が増えたということよりも、少年院か少年刑務所、どちらで過ごすかというところの影響度の方が大きいんですか?

私はそう思います。

結局は行きつくところが違うというのが大きく違うのかなと。

有期刑の上限が大人と同じ30年に

今回の改正少年法では、18歳と19歳の少年を「特定少年」と位置付けたり、「原則逆送」の範囲が拡大した点以外にも変更がありました。

今回の改正で他に変わった点は何ですか?

有期刑の上限が懲役15年から大人と同じ30年に引き上げられたんです。

有期刑というのは、「あなたは懲役何年ですよ」と期間が決まっている刑のことです。

逆に決まってないのは無期懲役とか死刑です。

15年と30年じゃ全然違いますね。

これなんかはまさに厳罰化と言えますね。

あと変わったのは、これまでは、事件を起こしたわけじゃないけど、放っておくと事件を起こしてしまうようなぐ犯少年を家庭裁判所で保護処分にできたんですが、今回の改正で18歳・19歳はぐ犯の対象から外れることになりました。

18歳・19歳の心配な子に関われなくなるということです。

関われるとしたら、実際に事件を起こしたときからになりました。

大学に入るような時期ですよね。

いろいろ自由や行動範囲が広がる年齢なのに、大人の側から“おせっかい”ができないということですね…

これは民法の成人年齢引き下げの影響が大きくて、自立した大人として捉えられる存在、18歳・19歳を、そんな“おせっかい”の対象とするのは過剰な介入ではないかと。

実際に18歳・19歳が自立しているかどうかは別として、民法上で大人とみなすとなった以上は、“おせっかい”はすべきではないだろうという考え方になったんです。

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