安心 キケンのない社会をつくろう足がついても溺れる?~マスクで水辺に近づく危険~ 【改訂版】

2021年9月10日事故 子ども

秋になっても汗ばむ陽気の日は、子どもと水遊びすること、ありますよね。

でも、公園の池など足がつく浅い場所でも、溺れる危険があることを知っていますか?

どんな点が危険なのか、何に気をつければ良いのか。

幼い子どもがいる2人の親が調べました。

(NHK事件記者取材note編集部 黒川ちえり/ネットワーク報道部記者 藤島新也)

一瞬で溺れる

コロナ禍が続き、相変わらず外出する時はマスクをつけていることが多いと思います。

そのマスク、水辺に近づく時にうっかりつけたままだと、いつも以上に命の危険があると指摘している人がいます。

各地の水難事故について調査・分析している水難学会の会長で、長岡技術科学大学大学院の斎藤秀俊教授です。

先生、マスクをつけたままだと具体的にどんな危険があるんですか。

もし、マスクを着用したまま水に落ちると、マスクをしていない時より溺れて命を落とす危険性が高まります

斎藤教授

斎藤教授が見せてくれたのはある実験の写真です。

➀大人の男性がウレタン製のマスクをつけて水の中に落ちた想定です。

➁男性は落水したあと、すぐに顔を上に向けて浮く姿勢を取りました。

➂ところが、顔は水面に出ているのに呼吸が全くできませんでした。この後、すぐに立ち上がってしまったそうです。

この男性は、長年、水難事故を防ぐための教室を開いている、いわば水に浮くスペシャリスト。その男性でも浮いていることができなかったそうです。

そして、斎藤教授によると、その原因はマスクにあるということです。

マスクをしたまま水に落ちてしまうと

斎藤教授
『水面から顔を出しても水の中にいるのと同じに』

マスクが濡れると水を吸収して顔と密着します。その時、マスクと顔の隙間にも水が入り込みます。こうなると、顔が水面に出ていても、水の中にいるのと同じ状態になってしまいます。

ですから呼吸をしようと思っても、それは水の中で息をしようとしているのと同じなんです。不織布など他のタイプのマスクでも同様のリスクがあります。

なるほど。よくわかりました。

でも、先生、ちょっとくらいなら水を吸い込んでも大丈夫なんじゃないかと思ってしまいます。

長岡技術科学大学大学院 斎藤秀俊教授

斎藤教授
『呼吸に1回失敗するだけで溺れてしまうリスク』

多くの人がそう考えているのではないかと思いますが、実は、呼吸に1回失敗しただけで溺れて亡くなってしまうことがあります。

最初に息を吸い込もうとした瞬間、マスクと顔の間の水や、マスクにしみこんだ水を一気に吸い込んでしまい、気道に水が入ります。すると、咳き込んでしまって呼吸どころではなくなります。パニックにもなり、呼吸できなくて溺れます。

たとえ、足がつく場所でも、最初の呼吸に失敗すれば溺れる危険があると覚えておいてください。

実は公園にも危険が…

ここまで話を聞いてきて、私(黒川)はヒヤッとしました。

去年の夏、子どもたちと一緒に水辺で遊んでいたんです。マスクをつけたまま。

場所は海でも川でもなく、家のすぐ近所にある公園です。

ママ友の間では「じゃぶじゃぶ池」と呼ばれるちょっとした水辺が、都内の公園などには結構あります。

暑い日にはこうした場所で子どもたちを遊ばせる機会が増えます。

さらに、夏に限らず通年で遊べる水上アスレチックのある公園もあります。

こうした場所は休みの日は親子連れで賑わいますが、マスクをつけたまま遊ぶ子どもたちの姿も多くみられます。

公園の入り口には「マスクを着用しましょう」という貼り紙も。

先生、子どもたちの足がつくくらい水深が浅い場所でも危険はあるのでしょうか?

斎藤教授
『マスクをしたとたん、水辺は危険に』

マスクをしていなければ、なんてことない水辺であっても、マスクをしたとたんに危険な水辺になります。そもそも子どもは水深が浅い場所でも溺れて亡くなるケースは後を絶ちません。その上、マスクをしていれば、溺れてしまう危険性が増すことを理解して欲しいです。

確かに過去には家庭用のプールや公園の噴水など、水深が浅く足がつくような場所でも、子どもが溺れてしまうケースが相次いで起きています。

安全に楽しむためには?

では、どんな点に気を付けて水遊びをしたら良いのでしょうか。

斎藤教授
『見守るのでなく“一緒に遊ぶ”』

大事なのは「目を離さない」ではなく「一緒に遊ぶ」こと。子どもが水の中に入ったり水辺で遊んだりするときには、一緒に遊んでください。

小学校入学前の子どもの場合は絶対に。小学校低学年くらいでも安全な遊び方がわからない子もいるので、子どもの事情に合わせて、一緒に遊ぶように心がけてください。

斎藤教授
『水に入るときは必ずマスクを外す 外せないときは近づかない』

どんなに水深が浅くても、水に入って遊ぶときは必ずマスクを外してください。水に入るつもりがなくても、子どもは動き回っているうちに誤って落ちてしまうこともあります。

ですから、水辺に近づくときにはマスクをしないのが本当は良い。でも、新型コロナウイルスの関係で、周辺に人がいて密のような状態になり、マスクを外せないこともあります。その場合には、水辺には近づかない、という判断もあると思います。

でも先生、全く水辺に近づかないのも難しい気がするのですが?

斎藤教授
『お子さんに危険性を知らせ、万一に備えてライフジャケットを』

まずは、マスクをしたまま落水したら危険があると知ること。そして、子どもに、もし水に落ちたらすぐにマスクを外すように伝えることが大切です。

また、万が一に備えて、水辺で遊ぶ時にはライフジャケットをつけるように徹底してください。

休みの日に、川沿いのお散歩や、釣りなどで水辺に近づくような機会もあるかと思います。

生活の一部となったマスクですが、そのまま近づくと危険があることを、覚えておいてほしいと思います。

  • NHK事件記者取材note 編集部 黒川ちえり 9歳と6歳のやんちゃな男児の母
    事件や事故から子どもを守るヒントを知りたい

  • ネットワーク報道部 記者 藤島新也 2009年入局
    盛岡局、社会部を経て現職
    災害報道やデータ分析を担当
    4歳になる娘との散歩が楽しみ

  • 安心 キケンのない社会をつくろう

    歩道での“自転車の危ない”をなくしたい事故

    歩いているとき自転車にヒヤッとしたことはありませんか?歩行者のすぐ横を通り抜けていったり、バランスを崩してぶつかりそうになったりする自転車を見かけたことは?実は自転車と歩行者による事故の4割以上が歩道で起きているんです。

    2021年2月25日

  • 安心 キケンのない社会をつくろう

    ”危険なバス停” 全国で1万か所以上も事故

    横断歩道や交差点の近くにあり、交通事故の危険性があるバス停を国土交通省がまとめたところ、全国で1万か所に上ることが分かりました。

    2021年4月2日

  • 安心 キケンのない社会をつくろう

    重さ100キロのタイヤが突然外れて事故に… あなたの車大丈夫ですか 事故

    道を歩いていたら、車に乗っていたら、突然重さ100キロの黒い物体が迫ってくる。それは走行中の車から外れたタイヤです。過去には命を奪われたケースも。

    2021年3月12日

  • キャンプでテント あなたはどこに張りますか 事故

    これからの大型連休、そして夏休み。「キャンプに行きたい」という人も多いのではないでしょうか。そんな中、神奈川県のキャンプ場で痛ましい事故が起きました。木が根元から倒れてテントに直撃し、中にいた女性が亡くなったのです。雨や日差しを遮ってくれる木ですが、思わぬ危険も潜んでいます。キャンプをするとき、危険な木をどう見分けるか。どこにテントを張ればいいのでしょうか。取材しました。

    2023年4月20日

  • “凶器”になった自転車~加害者にならないために 知っておきたいルールは事故 生活

    散歩が日課だった母。車には人一倍、気をつけていました。自転車の相手も、まさか命を奪ってしまうなんて想像さえしなかったかもしれません。車と同じように、ときには凶器へと変わってしまう自転車。その交通ルールを学ぶ機会はほとんどありません。被害者にも加害者にもならないように、知っておいてもらいたいことがあります。

    2023年2月20日

  • 妊娠6か月 “私はつえでたたかれた” 車を止めただけなのに生活

    去年8月、長野県のスーパーの優先駐車場に車を止めた妊娠6か月の女性が、高齢の男性から注意を受け、つえで何度も足元をたたかれました。優先駐車場の利用ルールなどについて調べました

    2023年2月17日