2023年10月13日

イスラエル軍 2014年にガザへ地上侵攻 激しい市街戦も

イスラエル軍は、パレスチナのガザ地区に対する地上侵攻を含む大規模な軍事作戦を近く実行に移すものとみられ、情勢がいっそう緊迫しています。

イスラエル軍がガザ地区に最後に地上侵攻したのは2014年。
侵攻はどのような経緯で始まったのか。そして、停戦はどうやって実現したのか。

当時、エルサレム支局長として現地で取材をし、現在はロサンゼルス支局長の佐伯敏記者が解説します。

(ロサンゼルス 佐伯敏支局長)

2つの事件で関係悪化が決定的に

アメリカのオバマ政権が仲介したイスラエルとパレスチナの和平交渉が行き詰まり、双方の関係が悪化の一途をたどるなか、対立は2つの事件によって決定的になりました。

そのひとつが6月、パレスチナのヨルダン川西岸で起きたイスラエル人の少年3人の誘拐殺人事件です。イスラエル側はハマスによる犯行だとしてヨルダン川西岸に軍を投入し、ハマスの幹部を含む大勢のパレスチナ人を拘束しました。

こうしたなか、7月2日、今度はパレスチナ人の少年が暴行を受けたうえで火をつけて殺害される事件が発生。イスラエル人の若者3人が逮捕されました。

双方で憎悪の感情が渦巻くなか、ガザ地区のハマスなどがロケット弾でイスラエルを繰り返し攻撃するようになり、一部は工場に着弾するなど具体的な被害が出るようになりました。

イスラエル軍は7月8日未明、「市民への脅威を取り除くため」としてガザ地区への本格的な空爆作戦の開始を発表。およそ50か所を一斉に攻撃しました。

攻撃停止措置の直後に地上戦に突入

空爆作戦でイスラエル軍は、ハマスの幹部の自宅や軍事施設を爆撃するとともに、予備役の兵士の招集を進め、ガザ地区との境界線近くに地上部隊を着々と集結させるなど圧力を強めました。

ガザ地区との境界線付近に集結したイスラエル軍(2014年7月11日)

一方、ハマスなどは従来より攻撃能力を大幅に向上させていて、ロケット弾による攻撃は最大の商業都市テルアビブや聖地エルサレムにも及びました。

この間、エジプトをはじめ各国が停戦の仲介を試みましたが、ハマスは同意せず、7月16日、イスラエル軍はガザ地区北部と東部に住む住民に自動音声の電話で避難を呼びかけました。

翌日の17日、イスラエル軍とハマスは国連の求めに応じて、午前10時から5時間、人道的な措置として一時的な攻撃停止に応じ、ガザ地区では避難していた住民が生活必需品などを取りに戻りました。そして5時間の攻撃停止措置が終わり、夜に入った17日午後10時30分、イスラエル軍は「ガザ地区での地上部隊による作戦を開始した」と発表し、ガザ地区に侵攻したことを明らかにしました。

この日の早朝には、ハマスの戦闘員が、地下に秘密裡に掘っていたトンネルを通ってイスラエル側に侵入を試みたことが明らかになっていて、ネタニヤフ首相は声明文で「ハマスによる終わりのない攻撃とイスラエル領土への危険な侵入を踏まえ、市民を守るための措置を取らざるをえなくなった」として、地下トンネルの破壊が作戦の目的だと説明しました。

この時点で双方の死者はイスラエル側では1人、ガザ地区では231人。ガザ地区では砂浜でサッカーをしていたこどもたち4人をイスラエル軍が誤爆するなど大勢の市民が犠牲になっていました。

激しい市街戦に

ガザ地区との境界線沿いに設けられたフェンスのゲートを開けて侵攻したイスラエル軍は、序盤、境界線から1キロ以内の地点に数千人の兵力を投入し、ガザ地区への砲撃を強めました。これに対してハマス側はイスラエルとの境界付近に準備していた地下トンネルを使い、イスラエル軍への奇襲攻撃を繰り返しました。

イスラエル軍は、地下トンネルは空爆では破壊できないとして、7月20日にはガザ地区北東部のシュジャイヤ地区まで前進し、市街地でのゲリラ戦術をとるハマスなどとの間で激しい戦闘になりました。

戦闘が市街地にも及ぶなか、ガザ地区北部で住民の避難所になっていた国連機関の学校に砲弾が着弾し、16人が犠牲になったのをはじめ、公園や病院も攻撃を受け、国際社会から停戦を呼びかける声が相次ぎました。

こうした公共の場での市民の被害をめぐっては、ハマス側が「イスラエルの攻撃によるもの」と主張し、イスラエル軍も「ハマス側の攻撃が失敗した結果」だと主張するなど情報戦が繰り広げられました。

8月1日にはアメリカと国連などによる外交努力の結果、イスラエルとハマスが、現地時間の午前8時から72時間の停戦に入りました。しかしガザ地区南部ラファで起きた銃撃戦をきっかけに停戦は開始直後に破られ、この日の戦闘ではイスラエル兵1人がハマス側に連れ去られ、イスラエル軍による極めて激しい攻撃の結果、数時間で100人を超えるパレスチナ人が死亡しました。

イスラエルのメディアはのちに、このときは兵士が捕虜になるのを防ぐため、その安全にかかわらず敵を集中攻撃する「ハンニバル指令」と呼ばれる命令が出されていたと報じ、物議を醸しました。

停戦へ

8月5日に双方はエジプトの仲介で再び72時間の停戦に入り、イスラエル軍はハマスが建設したトンネルの破壊を終了したとして、地上部隊すべてをガザ地区の外に撤退させました。

エジプトの首都カイロでは、イスラエルと、ハマスを含むパレスチナの代表団の間で間接的な協議が行われ、停戦期間の延長が模索されました。

カイロで行われた停戦協議のパレスチナ側代表団

協議ではイスラエル側がガザ地区の非武装化を、ハマス側が経済封鎖の解除などを求めて合意できず、72時間の期限をもって双方は攻撃を再開しました。

このあとも時間を限った停戦と戦闘の再開が繰り返されたのち、8月26日、隣国エジプトの仲介のもとで期限を決めない長期的な停戦期間に入ることで合意しました。

ハマス指導者 ハニーヤ氏(2014年8月27日)

ガザ地区の中心部ではハマスの大規模な集会が開かれ、戦闘の間、所在が分からなかった、指導者ハニーヤ氏が姿を現し、「この戦いで血を流し犠牲になった人々が勝利の原動力となった」と演説して、経済封鎖の部分的な緩和を実現したと主張しました。

イスラエル ネタニヤフ首相(2014年8月27日)

一方、イスラエルのネタニヤフ首相は27日、国民向けに演説を行い、「ハマスはかつてない大きな打撃を受けた。私たちはハマスの要求に何一つ応じなかった」と述べ、軍事作戦の成果を訴えました。

イスラエルが軍事作戦を開始してから停戦までの50日で、双方の犠牲者の数は、パレスチナ暫定自治区のガザ地区で市民を中心に2200人、イスラエル側で兵士を中心に70人に上りました。

のちの検証

2015年6月、イスラエル政府はガザ地区への軍事作戦について独自の調査報告書を発表し、▼ハマスがイスラエルの市民に対する無差別のロケット弾攻撃を行ったことや▼ガザ地区の人口密集地を拠点に攻撃を行う「人間の盾」戦術をとったことが国際法違反にあたるとして批判しました。

そのうえでイスラエル軍は、空爆などの攻撃目標について、市民の犠牲を避けるため、事前の情報に基づいて検討を重ねたとして、多数の根拠となる資料を示して攻撃を正当化しました。

一方、国連人権理事会の調査団は、イスラエル政府の1週間後に報告書を公開し、イスラエル軍による空爆がおよそ6000回、砲撃が5万発に上り、742人が住居への攻撃で犠牲になったとして、攻撃が政府の高いレベルで容認されていたのではないかと指摘しました。

一方、ハマス側も6500発を超えるロケット弾などを発射するなど、イスラエルの市民を恐怖に陥れる狙いがあったと推測されるとして、双方が戦争犯罪を犯した疑いがあると結論づけました。

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