2023年2月20日
プーチン大統領 ロシア ヨーロッパ 注目の人物

ロシアは「弱体化する」エネルギーの権威が語る資源大国の今後

制裁で体力を奪われているロシアは、今後、世界のエネルギー市場で「弱体化していく」。

エネルギー分析の世界的権威、ダニエル・ヤーギン氏はこう断言します。

本当に制裁は効いているのか? ウクライナ侵攻で世界のエネルギー情勢はどう変わるのか?
ヤーギン氏にインタビューしました。

(聞き手:ワシントン支局 小田島拓也)

ダニエル・ヤーギン氏とは

ダニエル・ヤーギン氏は、エネルギー問題の専門家で、ピュリッツァー賞を受賞した「石油の世紀」などの著者として知られています。

エネルギー問題の専門家 ダニエル・ヤーギン氏

2020年9月に刊行された著作「世界資源の地図」は、アメリカでベストセラーとなり、その後、ウクライナ侵攻を決めたプーチン大統領のエネルギー戦略に迫る洞察が大きな反響を呼びました。

アメリカでベストセラーとなったヤーギン氏の著作「世界資源の地図」

※以下、ヤーギン氏の話

ロシアの侵攻がエネルギー市場に与えた影響は?

ウクライナ侵攻は、世界のエネルギー情勢に劇的なインパクトをもたらしました。

石油市場が分裂し、ロシア産の石油はもはや欧米の主要国には行き渡らなくなり、ロシアの主な顧客は中国とインドに変わりました。

ロシアとドイツを結ぶパイプラインの施設(ドイツ ルブミン)

天然ガスも行き場を失い、今後、ロシアはエネルギーの市場としても経済全体でも中国への依存を強めていくことになるでしょう。

プーチン大統領のエネルギー戦略とは?

プーチン大統領は、他国の政治指導者とは異なります。

なぜなら、彼は政治指導者であるだけでなく、ロシアというエネルギー会社のCEO、もしくは社長のような存在だからです。エネルギー業界に対する深い知識と理解を持っています。

ロシア プーチン大統領

彼はサンクトペテルブルクの副市長を務めたあと、エネルギーについて学び始め、地元の研究所で論文を書き上げました。そして、エネルギーはロシアにとって政治的な力の源泉であり、大きな富をもたらすことに気付いたのです。

それ以降、彼はエネルギーにのめり込み、そのすべてを極めて強くコントロールするようになりました。

なぜヨーロッパはロシアに依存を深めたのか?

例えばヨーロッパのドイツとロシアとの関係は、半世紀前のソビエト時代にまで遡ります。

ソビエトはヨーロッパに隣接していたため、エネルギーにおいて関係を深めることは理にかなったもので、冷戦の緊張を和らげ、関係を改善する1つの手段と考えられていました。

ロシアの政府系ガス会社「ガスプロム」のパイプライン施設(サンクトペテルブルク)

そしてソビエト、その後のロシアは「我々は信頼できるエネルギー供給者であり、政治問題がエネルギーに影響を与えることはない」と言ってきました。実際に50年間、ソビエトとロシアはその約束を守ってきました。

しかし、プーチン大統領がその約束を破ったのです。

その結果、ヨーロッパがロシアのエネルギーに過度に依存し、エネルギー安全保障に十分な注意を払っていなかったことが明らかになりました。

経済大国アメリカはどう変化したのか?

この10数年間で世界のエネルギー情勢に起こった最も劇的な変化の1つは、アメリカが世界最大のエネルギー輸入国から世界最大の石油・ガス生産国に変貌したことです。

そして、その石油とガスは日本やヨーロッパにとって非常に重要な安全保障の源になっています。

アメリカ ニューメキシコ州の原油採掘施設

アメリカの石油の生産量は2023年に1日あたり80万バレル増加すると予想しています。また、今後3年間でLNG=液化天然ガスの生産量を増やす計画も多くあります。

バイデン大統領は、気候変動対策に非常に重点を置いていました。実際、彼は選挙期間中に、石油やガスの掘削を止めるべきだと発言していました。

アメリカ バイデン大統領

しかし、今、バイデン政権は石油・ガス会社に増産を要請し、バイデン大統領自身もヨーロッパへのLNG輸出を増やすと約束しています。これは大きな変化です。

ロシアによるウクライナ侵攻という現実がそうさせたのです。

ウクライナ侵攻を続けるロシアの資金源を抑え込むため、EU=ヨーロッパ連合はロシア産の原油について原則、輸入をやめ、G7=主要7か国などは国際的な取り引きに上限価格を設けるなど、資源大国ロシアに対し、エネルギー関連の制裁を科している。しかし、中国やインドがロシア産の原油の輸入を大幅に増やしており、制裁の抜け道になっているとも指摘されている。

ロシアへの制裁は効いているのか?

制裁は大きな効果が表れています。

ロシア産の石油は世界市場で取り引きされている他の産地の石油よりも3割から4割安い価格で販売されています。

ロシアはこの制裁が自国の収入に及ぼす影響を心配し始めています。戦費の調達に直結するからです。

(中国やインドが輸入を増やし効果がないという見方については)実はそこが重要なポイントなのです。

価格の上限設定の目的は、ロシアの収入を減らすことですが、同時にロシア産石油の流通を維持することでもあるからです。世界市場で供給不足が起きないようにしているのです。

ロシア産の石油は、インドや中国が買っていますが、とても安い値段で購入しています。

石油の85%を輸入に頼るインドにとっては、経済的に大きなメリットがある一方で、この制裁は、ロシアの収入を確実に減少させています。

資源大国ロシアはどうなるのか?

ロシアは、制裁を受けながらも、石油生産を維持できています。エネルギー産業で働く人々がいるからです。

しかし、時間が経てば、ロシアの石油生産量は減少していくと思います。西側諸国からの投資に頼ることができず、採掘技術などにアクセスできなくなるからです。

ロシアから中国へ天然ガスを供給する東シベリアのガス田

また、天然ガスは石油のようにタンカーに積めばいいというものではありません。ガスの運搬にはパイプラインの建設が必要だからです。

ロシアと中国が天然ガスの新しいパイプラインを建設中ですが、完成までに5年ほどかかると言われています。ロシアのエネルギー部門は今後も大きな存在であり続けるでしょうが、弱体化していきます。

これまでのような経済力は保てなくなり、ロシアのエネルギー部門が世界の産業と結びついていた過去30年間とは、全く違う時代を迎えることになるでしょう。

ロシアのウクライナ侵攻から何を学ぶべきか?

ロシアの侵攻が示したものは、エネルギー安全保障の重要性だと思います。

ヨーロッパは気候変動対策を優先するために安いロシアのガスに頼ってしまい、エネルギーの安全保障の重要性を忘れてしまいました。

ですので日本は、エネルギーの多様化を図り、多様な供給源を確保するための努力を続けていくべきだと考えています。

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