2022年11月3日
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「プーチン氏はウクライナで勝てない」元国防長官 断言のワケ

ロシアによる軍事侵攻が始まって8か月余り。ウクライナはまもなく厳しい冬に入ります。

「プーチン氏は結局、ウクライナで勝てない」
こう断言するのが、アメリカのオバマ政権時に国防長官やCIA長官を務めたレオン・パネッタ氏です。

一方で、追い詰められたロシアが「汚い爆弾」や核兵器を使う可能性があるとも指摘。

アメリカの国防政策の中枢を担ってきたパネッタ氏が見据える、“プーチンの戦争”の行方とは。

(聞き手:ワシントン支局長 高木優)
※ 以下、パネッタ氏の話

ウクライナ軍の最近の勢いは?

ウクライナは、力を集中させて、非常に効果的な攻撃を行っていると思います。

彼らは、ウクライナ東部で1000平方マイルの土地を取り返しましたし、いまは南部の都市ヘルソンを奪還する勢いです。

ウクライナ側は、武器、能力、そして兵力のいずれにおいても、ロシアに対する強力な軍事作戦を行う力を持っています。

ロシアはいま、著しい戦力の減退を招いています。彼らは兵力を失い、作戦指令や補給、武器システムにおいて問題に直面しています。そしてプーチン氏の予備役の兵士の招集はうまくいっていません。

いまこそ、ウクライナは、非常に強力な攻撃を行って、できればロシア軍をウクライナの土地から完全に追い出さなければならない時だと思います。

4州の一方的な併合、結局プーチン氏自身を追い込んだ?

プーチン氏がウクライナで大変な状況に追い込まれていることは間違いありません。そしてウクライナ側がこの戦争に勝利しようとしていることもです。

独裁者やいじめっ子を窮地に追い込んだら、彼らはそこから抜け出すため、なんらかの方法で攻撃するでしょう。

演説するプーチン大統領 2022年9月 モスクワ 赤の広場

核兵器を使用するのか、できもしないのにウクライナの一部を併合したふりをするのか、何らかの手段です。

ところが現実は、そうした地域の支配などできていないのです。いくら戒厳令を出したところで現実は支配などしていないのです。

プーチン氏は言いたいことを言うでしょうし、やれることは何でもやるでしょう。だたし、結局のところ、彼はウクライナで勝つことはできないということを認識しなければなりません。

アメリカとその同盟国、そしてウクライナは、いまこの瞬間、結束し、強い姿勢で臨まなければなりません。私たちがやってはいけないのは、主権国家を侵略することは許さないという決意において、足並みの乱れや弱さを見せることです。

戦況の悪化が与えるプーチン氏への影響は?

プーチン氏はいま、2つの戦いに直面しています。

1つはウクライナ国内、そしてもう1つはロシアの首都モスクワでの戦いです。

モスクワの人々は、この戦争がうまくいっていないと気づいていると思います。

モスクワ 2022年10月

私が目にした最新の推計では、ロシア軍の死傷者は8万人にのぼっており、このうち1万5000人から2万人が戦場で命を落としています。このことはロシアに残された家族に衝撃を与え、プーチン氏への批判を呼び起こしています。

自分たちが始めた戦争が成功していないことで、ロシア国内ではプーチン氏の辞任を求める声があがっています。

プーチン氏は、この戦争は間違った戦争なのだと認識した自国民との戦いと、ウクライナでの戦いという2つの戦争に直面しているのです。

彼は非常に困難な状況に立たされています。そして率直に言って、そのことが彼をより危険な状態に追い込んでいます。

ただ、プーチン氏は交渉して、この戦争を平和的に終わらせることを明らかに望んでいません。彼はこの戦争を続け、無実の人々を殺し続けようとしています。

なぜなら彼は、成功するかしないかに関わらず、ウクライナとアメリカ、そしてその同盟国の結束を引き裂くことができるかどうかを見ているのです。

だからこそ、私たちは、強くあり続けなければならないのです。

プーチン氏が核兵器を使用する可能性は?

われわれの諜報活動によれば、プーチン氏は一か八かの賭けを続けています。

ウクライナを破壊して、罪のない男女や子どもたちを殺害するだけでなく、核兵器を使用するという脅迫を繰り返しています。

プーチン氏のような人間を窮地に追い詰めれば、そこから抜け出すために、何だってやるでしょう。いままさに、彼は核兵器の使用をちらつかせることで、それをやっているのです。

私たちはこのことを深刻に受け止めなければなりません。彼は、それ以外の手段をあまり持ち合わせない状況にいますから。

もしプーチン氏が交渉に前向きな人間であれば停戦交渉を進めるチャンスもあるでしょうが、彼は交渉を望んでいません。

だから、ロシアが核兵器を使用するおそれは、依然としてかなりあると思います。

「汚い爆弾」の使用は?懸念すべき事態は?

※「汚い爆弾」=内部に粉末状の放射性物質などが詰め込まれた兵器。爆発によって放射性物質が広い範囲に拡散、放射能を帯びた爆弾の破片でけがをするおそれがある。

完全な形の核兵器よりも威力は小さいかもしれませんが、使用されることを懸念しています。なぜなら、「汚い爆弾」の使用は、次に核兵器を使用する足がかりになるからです。

誰かが放射性物質を武器として使用し始めれば、ほかの者が核兵器を使う可能性を増幅させます。そしてそのことが、核兵器を実際に使用する危険性をさらに高めてしまうのです。

ロシアによる大陸間弾道ミサイル「ヤルス」の発射実験 (2022年10月26日公開)

最も考えられるシナリオは、特定の戦場に限定した核兵器の使用です。ミサイルや潜水艦、爆撃機に搭載するような核兵器ほど強力ではありませんが、より狭い地域に限定した使われ方です。

しかし私が言い続けてきたのは、核兵器をひとたび使用すれば、それは、その大きさに関わらず、放射性物質をまき散らすということです。無実の人たちにどれだけの影響を及ぼすのか、確たることはわからないのです。

こうした武器の使用は一線を越えることを意味します。この21世紀において、いかなる国も核兵器を使用してはなりません。

ロシアが「汚い爆弾」や核兵器を使用したら、どう対応?

私たちはプーチン氏に非常に強いシグナルを送らなければなりません。もしプーチン氏が核兵器を使用すれば、越えてはならない一線を越えたことを意味します。

そうなれば、アメリカは同盟国とともに、プーチン氏の打倒に向けて、ウクライナ国内で通常兵器を使用することになるでしょう。

演説するバイデン大統領 (2022年10月 ホワイトハウス)

バイデン大統領は、もしプーチン氏が核兵器を使用すれば、それはすなわち「アルマゲドン」(最終戦争)になる可能性があり、極めて破壊的な結果を招くことになると明確に示しています。

プーチン氏がそうした兵器を使用することは許さない、という態度で臨むことが大事です。もし私たちがそうした対応ができなければ、プーチン氏に対して、ウクライナで失った地域を取り戻すためには、こうした兵器を使うことが有効だという動機を与えるだけです。

ですので、ウクライナとアメリカ、そしてNATOの同盟国が、プーチン氏に対して、核兵器を使用すれば深刻な結果を招き、ロシアの敗北を確実にするだけだという断固たるメッセージを送ることが重要です。

私たちは、もしも無実の男女や子どもの生命を脅かすようなことをすれば、確実にロシアに大きな代償を払わせるために、あらゆることをすることになるでしょう。

米ロの国防相が電話会談、停戦に向けた交渉への意思は?

米 オースティン国防長官(画面左)、露 ショイグ国防相 (右)

プーチン氏がロシアでの自分の立場を守るために、また経済制裁で崩壊の危機にあるロシアを守るため、この戦争から抜け出す方法を探ろうとすることは合理的なことです。

だから各国に接近し、交渉するかどうかの判断をすることはありえます。

しかし、私たちはだまされたりはしません。

プーチン氏は戦争が始まって8か月がたっても、停戦をして戦争を終結させるために、一度たりとも本気で交渉する意向を見せたことはありません。

ですから私たちは、仮に関係者を※G20に送り込んできたとしても、だまされたりしてはいけません。

外交において、会って話をすることに一定の意味はあります。

しかしはっきり言えば、プーチン氏の決断に影響を与えうるのは『軍事力』だけです。

それゆえに、アメリカと同盟国はウクライナからロシアを撃退し続け、この戦争に勝たなければなりません。究極的には、それが、プーチン氏を何らかの形で解決に同意させる唯一の方法なのです。

※プーチン大統領は10月27日の会議の演説で、11月にインドネシアで開かれるG20の首脳会議に高官を派遣すると述べた。

“プーチンの戦争”の終結は?何が必要?

レオン・パネッタ氏

いま季節は冬に向かっていて、その質問に答えることができる人はまずいないでしょう。

ウクライナで冬期に戦闘を続けるのは困難です。それはすなわち、双方ともに戦場で本格的に支配地域を拡大することはできないということです。

この戦争は長く続くことになるでしょう。

おそらくこれから何か月かは、いまウクライナで起きているような攻防が続く可能性が高いと言えます。

ウクライナは継続して支配地域を広げ、勝利を重ねるでしょうし、ロシアは支配地域を失い続けるでしょう。しかし、そのことは、ロシアが最終的に敗北するよりも前に戦闘をやめるということを意味しません。

第2次世界大戦の教訓は明確です。

私たちはドイツのヒトラーを完全なる敗北に追い込むまで、戦争を終結させることはできなかったのですから。

ウクライナと同盟国は、ロシア軍をウクライナから追い出し、この戦争に勝利し続けなければなりません。それが、最終的にプーチン大統領を何らかの解決策に同意させる唯一の方法です。

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