2022年12月13日
アメリカ大統領選挙2024 トランプ前大統領 アメリカ 注目の人物

トランプ氏への“決別”宣言 アメリカ保守派重鎮が語る

「われわれは君のことが好きだった。でもその日々はもう終わったんだ」

アメリカの共和党の政策に絶大な影響力を持つNRA=全米ライフル協会の元会長デビッド・キーン氏は中間選挙のあと、NHKとのインタビューでトランプ前大統領についてこう述べました。

選挙最終盤には共和党に勢いがあるという見方も広がる中、選挙期間中からトランプ氏の影響力に懐疑的な見方を示していたキーン氏。
選挙のあと語ったのは、トランプ氏との“決別”でした。

デビッド・キーン氏とは

1970年代、ニクソン政権で副大統領をつとめたアグニュー氏の政治アドバイザーとしてワシントンでのキャリアをスタートさせたデビッド・キーン氏。

ニクソン元大統領(左)とデビッド・キーン氏(右)

レーガン氏の選挙戦で地域の責任者となったほか、1980年のブッシュ氏の選挙戦では政策責任者に。一番長く務めたのが保守派集会「CPAC」を運営する政治団体の代表。その後、オバマ政権時代にはNRA=全米ライフル協会の会長もつとめました。

選挙前の10月「みんな前を向いていきたいのにトランプ氏は過去を見ている」とその影響力に懐疑的な見方を示していたキーン氏。トランプ氏が早々に大統領選挙への立候補を表明した今の状況をどう見ているのか、オンラインでインタビューしました。

※以下、デビッド・キーン氏の話

なぜ共和党は予想よりも苦戦したのか?

理由はいくつかある。

1つはトランプ氏だ。投票日まで残り2週間となった時に積極的に自分の選挙活動を展開しはじめ、それによってトランプ氏の話ばかりになった。そのため、この国が直面している本当の問題から注意がそれてしまった。

トランプ前大統領

多くの激戦州では資金面の課題もあった。ここ数年、民主党のほうが選挙資金が豊富になっている。さらには経験のない新人候補が多かったことも大きかった。彼らは選挙終盤で間違いを犯し票を失った。特に上院選では候補者の質が影響した。

また、最近の選挙では期日前投票の割合が増えていて“投票日”ではなく“投票シーズン”になっていることも理由の1つとしてあげられる。

例えばペンシルベニア州では半分以上の票は候補者による討論会の前に投じられた。ほかの州でも同じで民主党はそれをうまく利用した。一方で共和党は“投票日”であるべきという考え方が強く期日前投票はあまりしなかった。

リベラルな地域で善戦したところもあったのはなぜ?

主要な都市部、いわゆるブルーシティー(民主党地盤の都市)では犯罪率が上昇している。こうした地域に住む最もリベラルであるはずの住民も問題に対して反応を見せ始めていて、ロサンゼルス市長選挙やニューヨーク州知事選挙では投票行動に表れた。

ニューヨーク・タイムズスクエア

彼らは「もうたくさんだ」と言っている。反発が現実のものとなり始めているのだ。もし民主党が今回反発を免れることができたから大丈夫と思っているとしたら、それは間違いだ。今後の選挙で苦しむことになるだろう。

今回はこうしたリベラルな地域での活動量をこれまでよりも増やした。勝てるほどではなかったが、例えばニューヨーク州知事選挙では予想よりもはるかにいい戦いをした。

この国が党派的なイデオロギーによって分断されているかぎり、転換は起こりうる。民主党のように世界がどうあるべきかについて話すのもいいが、人々は日々の問題に直面しているのだ。

大統領選挙に向けて立候補表明したトランプ氏に支持は集まるか?

2016年の大統領選挙の時のように共和党の候補者争いに複数が名乗りを上げた場合、少なくとも序盤にはかなり優勢になるだろう。なぜなら共和党員の30%が支持をしているからだ。1対1の戦いだと30%の支持率は少ないが、例えば6人になると大きな割合となる。そしてあの時と同じようにトランプ氏はほかの候補を排除し、支持を集めようとするだろう。

しかし、徐々に彼への支持が弱まってきている。最近のある世論調査をみると、フロリダ州のデサンティス知事と対決した場合、トランプ氏はフロリダ州、ニューハンプシャー州、アイオワ州をはじめ複数の州で負けると出ている。彼は以前ほど強くない。今回は候補者選びに勝つのは簡単な道ではないと思う。

フロリダ州 デサンティス知事

彼には強固な支持基盤があり、ほかの候補者よりも頭1つ抜けているとは思うが、支持を伸ばすことができるかは疑問だ。

2016年は無理だと言われながら候補になった。なぜ今回は難しいのか?

あのころはみんなワシントンの家具(=既得権益)を壊してほしいと思っていたが、トランプ氏は家具だけでなくあらゆるものを壊した。われわれはそこまでは求めていなかった。さらに今や彼は将来性のある候補ではなく過去の人としてみられるようになっている。

また、これまでトランプ氏を支持してきた人たちも彼が2年後の大統領選挙で勝てる候補ではないと分かったら彼を支持しないかもしれないということに、ほかの有力な候補者たちが気づいている。だから彼が思うよりも難しい状況にあると思う。

共和党が分裂しているようにも見えるが今後どうなるのか?

共和党内で闘いが起きるだろう。広い意味での闘いだ。

まずはトランプ氏の存在。そして彼によって変わった党の外交政策や経済政策などをめぐる闘いもある。こちらのほうがトランプ氏が好きか嫌いかよりももっと重要で長く続く闘いになるかもしれない。まさに戦争だ。この結末がどうなるかは私も分からない。ただ、彼が共和党の大統領候補になるとは思えない。

トランプ氏を批判している人たちは、彼と一緒に働いてきたというだけでなく、彼を好きで政策を支持してきた人たちだ。そういう人たちがいま「あなたには問題がある。われわれは選挙に勝ち、国を治めなければならない」と言っているのだ。

共和党内のほかの有力な候補者は誰か?

トランプ氏に代わる強力な候補者はデサンティス氏だ。

デサンティス氏と妻

フロリダ州ではいま知事を辞職しなくても大統領選挙に立候補できるよう法律を変えることを検討している。つまり、大統領選挙に負けたとしても彼は知事であり続けることができるのだ。これはデサンティス氏が立候補を真剣に考えていることの表れだと思う。それに彼は野心家だ。

ほかにはヘイリー元国連大使、ポンペイオ前国務長官。

ヘイリー元国連大使(左)ポンペイオ前国務長官(右)

クルーズ上院議員もまた立候補を検討するかもしれない。さらに反トランプ派ということでメリーランド州のホーガン知事もありえる。

クルーズ上院議員(左)メリーランド州 ホーガン知事(右)

少なくとも6人くらいは真剣に立候補を検討していて、戦略を考えているところではないか。

大統領選挙に向けて今後どのような展開があると思うか?

本心なのかは分からないし、ほかの候補者に手を挙げさせないよう怖がらせているだけかもしれないが、トランプ氏は、もし候補者選びに負けたら、無所属で立候補するかもしれないということを示唆している。そうなると民主党の勝ちだ。

そうしたければすればいいが、これも彼の弱さの表れだと思っている。共和党のリーダーや支持者がトランプ氏のことを疑っているのは、彼が党や国のことよりも自分自身にしか関心がないと思っているからだ。このようなことを示唆することは彼の問題を表している。

NRA=全米ライフル協会 デビッド・キーン元会長

これは国の将来についての話だ。国の将来のほうが、個人的な恨みを晴らすことより大切であり、野心よりも重要だ。われわれは、これ以上民主党政権を放置し状況を悪化させることを許してはならず、有権者にとって魅力的な候補者を選ばなければいけない。そしてその動きはもうすでに始まっている。

みんな冷淡にみていて「ドナルド、われわれは君のことが好きだった。でもその日々はもう終わったんだ」と言っている。

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