
アメリカのトランプ前大統領は、2年後の2024年に行われる大統領選挙に立候補すると表明しました。
これまでも、何かと注目を集めてきたトランプ氏。
ところで、そもそもトランプ氏とは?わかりやすく解説します。
(国際部記者 岡野杏有子)
そもそもトランプ前大統領とは?
第45代のアメリカ大統領です。2017年1月から2021年1月まで大統領を務めました。アメリカは、民主党と共和党の二大政党制で、トランプ氏は共和党の大統領でした。
「Make America Great Again」(アメリカを再び偉大に)、「Drain the Swamp」(既得権益を一掃せよ)といったスローガンなどで人気を集め、事前の予測を覆して2016年の大統領選挙で、民主党のヒラリー・クリントン氏を破りました。
前回2年前の大統領選挙ではバイデン大統領に敗れましたが、世論調査では退任後も共和党支持者の間で高い支持があります。

もともと何をしていた人?
実業家や司会者で、大統領に就任するまで政治経験は全くありませんでした。
30歳の時に父親の不動産業を引き継ぎ、実業家としてのキャリアをスタート。マンハッタン中心部の高級ホテルの改修事業などで成功を収め、カジノやゴルフ場など次々と事業を拡大させて「不動産王」と呼ばれるようになりました。

その後、実業家としての知名度を活かし、全米で2000万人以上が見たと言われる人気リアリティー番組「アプレンティス」の司会を務め、「You’re Fired!(お前は首だ!)」という決めぜりふで、お茶の間の人気者となりました。
年齢は? 家族は? 好きなものは?
1946年生まれの76歳で、2回の離婚歴があり、現在の妻メラニアさんは3人目の妻です。子どもは5人、孫は10人います。

兄をアルコール依存症で亡くしたこともあり、酒は一切飲まず、タバコも吸いません。一方で、無類のファストフード好きで、ハンバーガーが大好物です。ステーキも好物の1つです。そして、ダイエットコーラはペットボトルを1日12本飲んでいるとも言われています。
ゴルフも大好きで、安倍元総理大臣ともたびたびゴルフを通じて親交を深めました。
在任中はどんな大統領だったの?
型破りな手法で注目を集めました。ツイッターのみずからのアカウントを使って、昼夜関係なくさまざまな投稿をして、話題を呼んだり物議を醸したりしました。
中でも、CNNなど大手メディアに対しては、ツイッター上で「フェイクニュース」だと投稿して、報道のあり方に疑問を投げかけて激しく批判しました。
側近の登用や更迭、北朝鮮のキム・ジョンウン氏(金正恩)との会談の呼びかけといった重要な発表もツイッター上で行い、世界中が驚きました。

また、政策面では、中南米からの不法移民対策を看板政策の1つとして掲げ、メキシコとの国境沿いに「壁」を建設し、白人保守層から支持を集める一方、人道危機だとして批判も受けました。
さらに、2017年には中東やアフリカからの人の入国を制限する大統領令を出し、連邦最高裁判所が政権側の申し立てを部分的に認め、一定の条件を満たす人を対象から除いた上で執行されました。しかし、この大統領令は、イスラム教徒を狙った差別的なものだとして国内外で波紋を広げました。
新型コロナウイルスに関しては、患者への治療方法をめぐり「消毒液を注射してみてはどうか」などと発言し、医師や専門家から「危険だ」として批判する声が相次ぎました。
トランプ氏が再選を目指した2020年の大統領選挙まで1年というタイミングでは、民主党に不利となる情報を得るためにウクライナに圧力をかけたとされる「ウクライナ疑惑」をめぐり、議会下院で弾劾訴追されました。
退任後も注目を集めたの?
2020年の大統領選挙で敗北したトランプ氏ですが、その選挙について今も「不正があった」と主張し続けています。
2021年1月には、選挙結果に反発したトランプ氏の支持者らがアメリカの連邦議会に乱入するという前代未聞の事件が起きました。

その責任をめぐってトランプ氏は、議会下院に再び弾劾訴追され、歴代大統領としては初めて2度弾劾訴追されることになりました。
また、この事件をめぐっては、議会下院の特別委員会がトランプ氏に対して証言を求める召喚状を出しましたが、トランプ氏は南部フロリダ州の裁判所に証言を拒否するための訴えを起こしました。
さらに、トランプ氏がホワイトハウスから機密文書を持ち出した疑いなどがあるとして、FBI=連邦捜査局は、2022年8月にトランプ氏の自宅「マー・アー・ラゴ」を捜索。

最高機密を含む複数の機密文書を押収したとしています。
こうしたこともあり、退任後も注目を集めているんです。
今も支持を集めているの?
共和党の支持者の間では、今も高い評価を受けています。共和党の支持者が求める大幅な減税や規制緩和といった公約を果たしたからです。
また、民主党を支持していた人たちを、新たな共和党の支持層として取り込むことにも成功しています。
その支持層の1つが、白人労働者層です。特に「ラストベルト(さびついた工業地帯)」と呼ばれる、ミシガン州、ウィスコンシン州、ペンシルベニア州などは、かつては鉄鋼業をはじめとした重工業や製造業で栄え、そこで働く労働者の多くは民主党を支持していました。

しかし、中国をはじめ国際的な競争の中で次第に衰退していき、労働者が不満を募らせていた中、「アメリカ第1主義」を掲げるトランプ氏が登場。中国からの鉄鋼製品などの輸入品に高い追加関税をかけたり、国内の雇用確保に努めたりしたことで、労働者の支持を集めました。
また、トランプ氏はヒスパニック系の市民からも人気があります。ヒスパニック系にはカトリック信者が多く、トランプ氏の保守的な政策に賛同する人が多いことや、経済政策を支持する人も多いとみられています。
中間選挙ではどんな役割を果たしたの?
自分の息のかかった共和党の候補者を送り込み、次の大統領選挙を見据え、影響力を見せつけようとしたとみられています。
しかし、ニュースサイト「アクシオス」によりますと、トランプ氏が支持した候補者のうち、上下両院や知事選で接戦が予想されていた候補者の勝敗は16勝11敗と勝敗が分かれているということです(11月12日時点)。

こうした中、トランプ氏は、自身が支持する共和党の上院議員候補の落選が確実になったアリゾナ州について「不正があり、選挙をやり直すべきだ」とソーシャルメディアに投稿しました。
共和党内からはトランプ氏の影響力を疑問視する見方も出てきていて、前下院議長のライアン氏は、トランプ氏が2年後の大統領選挙で、共和党の候補者となることに、否定的な見解を示しました。
大統領選挙に向けた動きは?
共和党内には、トランプ氏の他にも有力な候補者がたくさんいます。
トランプ氏の次に支持が高いのが、フロリダ州のデサンティス知事です。強硬で保守的な政策を掲げ、“ミニ・トランプ”とも言われてきました。今回の中間選挙で行われた知事選挙では、民主党候補に約20ポイントの差をつけて圧勝。さらに注目が高まっています。

その人気を牽制するかのようにトランプ氏はデサンティス氏を批判し始めています。
トランプ氏
「(彼が大統領選挙に向けて立候補したら)あまりよくないことを明らかにする。おそらく彼の妻以外では、私は彼のことをほかの誰よりも知っている」
半ば脅迫ともとれるような発言をしたと、現地メディアで報じられました。
このほか、ペンス前副大統領、バージニア州のヤンキン知事、女性候補としてサウスダコタ州のノーム知事、共和党内で唯一の黒人上院議員のスコット氏といった人たちの名前が候補者として取り沙汰されています。

2024年の予備選挙で、正式な候補者が選ばれることになり、そこに向けて2023年から本格的な活動が始まります。アメリカではすでに、候補者選びの行方に高い関心が集まっています。
そうした中、2年後の大統領選挙に立候補すると表明したトランプ氏。今後の動向も、引き続き注目されることになりそうです。