2023年3月30日
IT アメリカ

画像生成AIは新たなアート? それとも著作権侵害? 最前線に迫る

文章で指示するだけでプロも驚きの画像を生み出す「画像生成AI」。

膨大なデータを学習し新たな画像を短時間で生成しますが、アメリカではアーティストから自分の作品を元にして勝手に画像が作られたとして訴訟に発展するケースも出ています。

AIの画像生成は、著作権の侵害にあたるのか、アートやビジネスの可能性を広げるものなのか。
波紋が広がるアメリカの現場を取材しました。

(ロサンゼルス支局記者 山田奈々)

AIで画像生成やってみた

アメリカでは「画像生成AI」をいち早くビジネスに取り入れる動きが広がり始めています。

訪れたのは、ニューヨークで、写真やイラストなどの画像素材を提供する大手の「シャッターストック」。この会社は、1月から「画像生成AI」を活用した画像提供サービスを始めました。

使い方は、インターネット検索と同じように、ホームページの検索バーに作りたい画像の説明を文章で打ち込むだけです。

例えば「金髪の女の子の髪を三つ編みにする美容師」と入力するとこのような画像に。10数秒で一度に4枚の画像が生成されます。

特定のアーティストの作風の指定も可能です。「ゴッホの作風のサグラダ・ファミリア」と入力すると・・・。

「ファミリア」を「ファミリー」と理解したのか、サグラダ・ファミリアの建物の前に子どもとその親が描かれた絵などが生成されました。

入力する言葉をより詳細にしたり、文字の順番を変えたりしたところ、想像していた画像ができあがりました。

この会社によると、AIは膨大な画像データを学習することでオリジナルの画像を作り出すため、学習するデータが増えれば増えるほど、不具合はなくなるということでした。

この会社の担当者がみずから生成したという、魔法使いのような猫の画像はアート作品そのもので、とてもAIが描いたとは思えない完成度の高さに驚かされました。

「画像生成AI」が学習する画像の扱いは?

この会社が活用する「画像生成AI」ソフトは、世界中で話題になっている対話式AI「ChatGPT」を開発したベンチャー企業「オープンAI」と提携して開発されました。

では、「画像生成AI」が学習する画像データは一体どのように扱われているのか。

「シャッターストック」では、作者が明確な画像をAIに学習させる場合は、その作品のアーティスト1人1人に許可を取る作業を行っていると説明しています。作品の提供に応じてくれた場合、AIが学習する作品の量に応じて、使用料を支払っているということです。

「シャッターストック」 ポール・ヘネシーCEO

ヘネシーCEO
「AIはクリエイティブな業界の可能性を広げてくれると考えています。このテクノロジーを人々がどこまでどのように使うのか、まだよく分からないところもありますが、早い段階で積極的に使っていくことは大事だと思うのです。画像生成の機械学習に必要な作品を提供してくれたアーティスト、AIによって生成された画像を使う顧客、双方をきちんと守る仕組みが重要だ」

勝手にAIに画像を学習された!

しかし、様々なスタートアップ企業が公開している「画像生成AI」をめぐっては、AIに許可なく自分の作品を学習させているとして反発を呼んでいるケースもあります。

1月には、「画像生成AI」のサービスを提供する複数の企業に対し、インターネット上の作品を勝手に学習させ、それを元にした画像を生成することは、著作権の侵害にあたるなどとして、損害賠償などを求める集団訴訟が引き起こされる事態も起きています。

訴訟を起こした1人、サンフランシスコ在住のアーティスト、カーラ・オーティスさんを取材しました。

人気映画に登場する人物の衣装デザインなどを手がけることで知られるオーティスさん。インターネット上でも自身の作品を数多く販売してきました。

アーティスト カーラ・オーティスさん

ある日、AIによる画像生成に自分の作品が使われたことに気づきます。この画像生成AIソフトには、画像の生成に使われた作品名やアーティスト名の一覧が表示されることになっていて、そこに自分のフルネームがたびたび含まれていることにあぜんとしたといいます。

「画像生成AI」では、どんな画像を生成してほしいかといった内容だけでなく「作風」も指示できます。オーティスさんの作品をあらかじめAIに学習させておけば、「森の中にたたずむ少女をカーラ・オーティスの作風で描いて」などと作風をまねた作品を作ることができます。

オーティスさんによると、アメリカではAIに画像を学習させ元の作品に似た画像を作ることが、法律で著作権の侵害にあたるのか、まだルールも整備されてなく、明確ではないということです。

オーティスさん
「私や知り合いのアーティストの作品が勝手にAIに機械学習され、生成された画像に使われていることは、何かを侵害されていると感じました。作品は私のアイデンティティーで、それを盗まれたような感覚に陥ったのです。懸念の1つは、これまでAIによるこうした作品のデータ利用の是非を判断する前例がないことです。こうしたケースを想定した特定の法律もありません。そのため、集団訴訟に参加することにしました。私たちは、前例を作りたいと思っています」

アートを守る~対策ソフトの開発も

「画像生成AI」による思わぬ弊害からアーティストを守ろうという動きも出ています。シカゴ大学のベン・ジャオ教授は、学生たちとともに、AIの勝手な学習に対する対策ソフトを開発しました。

シカゴ大学 ベン・ジャオ教授(左上)と学生

名付けて「Glaze(グレイズ)プロジェクト」。グレイズは英語で陶磁器の表面をガラスで覆うために塗る薬品などを指し、「表面を加工する」という意味合いがあります。このソフトを使えば、その名の通り、アーティストの作品の表面に盗作を防ぐための加工を施すことができるというわけです。

アーティストは、自分の作品をネット上に掲載する前に、対策ソフトで作品を加工し、人間の目には判別できないほど微細な変更を加えます。向かって左がオリジナルの作品、向かって右がグレイズで加工済みの作品ですが、見た目には変更がわからないので、加工済みであっても、作品の購入を検討する顧客の判断に及ぼす影響はほとんどありません。

「画像生成AI」が、この加工済みの作品を学習すると、本来のアーティストの作風とは異なる、誤った表現を学習することになります。「画像生成AI」ソフトの利用者から「カーラ・オーティスの作風をまねして作成して」と指示されても、意図したオーティスさんの作風とは全く異なるテイストの画像が生成されます。

ジャオ教授
「20年といった長い年月をかけて築き上げてきた作風が一瞬にしてAIにまねされてしまい、それによって職を失うアーティストがいたり、一生懸命アートを学んでも意味がないと若い世代が芸術の学校から退学したりしているという話を聞き、不公平だと感じました。この対策ソフトを上回る技術が生まれる可能性もあるため、グレイズは永久的な解決策ではありませんが、作風をまねできないという点では、AI利用のためのルール作り、法整備が進むまでの時間稼ぎとしては使える対策だと思っています」

テクノロジーの宿命?向き合い方は

取材中に、ジャオ教授に「AIは私たちの敵なのか?」と聞いてみました。

「AIは私たちの生活を良い方向に変えることができる力を持っているが、問題はいつも、テクノロジーが先行していち早く市場に出てしまうことだ」との答えが返ってきました。

どんな負の側面があるのかきちんと理解しないまま技術が表に出てしまうと、そうした時期に最も危険なことが起きるリスクが高いと指摘したのです。

シカゴ大学 ベン・ジャオ教授

さらに、ジャオ教授は、企業は利益を優先し、新しい技術に慎重であればあるほど他社に出遅れてしまうおそれがあるため、先行して技術を出してしまおうという圧力がかかってしまうと分析していました。 テクノロジーがルールの先を行くのは宿命と言えるかもしれません。

しかし、そのテクノロジーをどう使うのか、正しい使い方とは何なのか、新しい技術が出てくるそのたびにその活用の仕方にきちんと向き合う必要があるのだと感じました。

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