
「世界で1番おいしい朝食とは何ですか?」と尋ねると「地域や文化、個人の好みも影響するため、世界で1番おいしい朝食は決まりきった答えがないと言えます」と大人な回答が。
これは、記者の私とAIとの対話ソフトChatGPTの会話の一部です。
画面上に質問を打ち込むだけで、まるで人間が書いたような自然な文章を即座に回答。
論文や小説、プログラミングもすぐに手がけてしまう、まるで映画に登場するようなAIが世界で話題になっています。
一方で、使い方によっては偽造や詐欺、コンピューターウィルスの作成に悪用されてしまうリスクも。
“すごすぎる”対話AIの光と影を追いました。
(ロサンゼルス支局記者 山田奈々)
AIが「宿題やりました」と告白
アメリカ・中西部ミシガン州にあるノーザン・ミシガン大学。

哲学を教えるアントニー・オーマン教授がイスラム教の国で使われている女性用のベール、ブルカを着用禁止にする動きについて500字以内でまとめなさいというエッセイの宿題を学生たちに出しました。

オーマン教授
「ある学生が提出したエッセイが完璧すぎておかしいなと思ったんです」
そして、教授はそのエッセイをコピーして、ChatGPTに『これはあなたが書いたものか?』と聞いたところ、「99.9%の確率で対話AIソフトが書いたものだ」という答えが返ってきたというのです。
いとも簡単に完璧に宿題を仕上げてしまい、また、それを自分でやったことも「完璧に」答えてしまうこのAI対話ソフト。
去年11月に無料公開が始まり、ロイター通信によりますと公開から2か月ほどで月に1回以上サービスを利用した人が1億人に達し、TikTokやインスタグラムを抜いて最速のユーザー数拡大を記録しているといいます。
ChatGPTってどんなもの?
このAIとの対話ソフトを提供しているのはアメリカのベンチャー企業「オープンAI」です。
2015年に、起業家で電気自動車メーカー、テスラのCEOも務めるあのイーロン・マスク氏や、電子決済大手、ペイパルの創業者、ピーター・ティール氏らの寄付で設立され、その後、IT大手のマイクロソフトも出資しています。

大量のテキストデータを学習することで、回答を自動で作成(生成)できるAIのモデルです。
最大の特徴は、これまでのAIには難しいとされてきた、まるで人間が書いたかのような自然な文章の作成。同じ質問を投げかけても、毎回オリジナルな回答を即座に生み出すことができます。
ラブレターもお手の物
私も実際に使ってみました。
名前やメールアドレスを登録すると無料で利用できますが、ようやく登録が済んでも、アクセスが殺到しているタイミングでは「需要が高まっています、問題の解決を図っています」と表示され機能しないことも。
辛抱強く何度もトライしてみると・・・。
「バレンタインデーにぴったりのラブレターを書いて」
とお願いすると
「どのようなラブレターをご希望ですか?ご希望に沿った内容を書きます」
と聞き返してきました。
「まだ好きだと伝えていない人に初めて好きだと伝える手紙です」
と伝えると
「あなたに出会ってから何日も過ぎましたがますますあなたにひかれています」
などと「初めての手紙」と理解したうえで「心のこもった」文章を書いてくれます。

これだけではありません。
「日本にも、グーグルやアマゾンのようなビッグテックが誕生するためには何が必要でしょうか?」
と尋ねると
「新しい技術やサービスを提供する創造的なアイデアが必要、トップクラスの技術者が必要、需要のある製品やサービスを提供することが重要」
などと必要なことを箇条書きにしてわかりやすく提示してくれました。

できるがゆえの欠点も
一方で「できる」がゆえの欠点もあります。
十分に学習できていない分野については間違った答えを事実のように回答するケースがあります。
存在しない「○△理論について、教えて」と聞くと、それっぽい答えをつくってしまうのです。一見すると人間らしい回答であるため、誤りに気がつきにくいといった課題があります。
現時点ではインターネットにリアルタイムでつながっていないため、最新の出来事は把握しておらず、2021年までのデータしか学習していないのです。

このため、たとえば2022年の2月に始まったロシアによるウクライナへの軍事侵攻について尋ねても、2014年のクリミア併合のことを答えてしまう、といった弊害があります。
教育現場の苦悩
そして、今、この対話ソフトをめぐって大きく揺れているのが教育現場です。
冒頭に紹介したアメリカ・中西部ミシガン州にあるノーザン・ミシガン大学。学生が書いたエッセイが、実はこのソフトを使って書かれていたことはオーマン教授にとって大きな衝撃でした。
オーマン教授は、さらに完璧すぎるエッセイにならないよう、「文法の間違いを含んだ形で書いて」と頼むこともできるとして、実際にその様子を見せてくれました。
すると、ところどころに赤い下線が。
たとえば議論を意味するArgumentsのsがzになっているなど、スペルミスを含んでいます。いかにも人間が間違えたかのような印象を与えるエッセイに仕上がっています。

こうした“できすぎる”AIとの対話ソフトを教育現場で使えないようにする動きも出始めています。

ニューヨーク市の教育委員会は、2023年1月、質問に即座に答えてくれるChatGPTの利用は、子どもたちがみずから考え、問題を解決する力を養う妨げになるおそれがあるとして、ChatGPTの使用を禁止すると認めました。
シアトル市の公立学校も1月、ChatGPTを学習に活用すべきか否か、議論がなされているさなかだとしたうえで、現時点ではそれぞれの教員に利用を制限するか決める権限を与える方針を示しています。
学習に使いたい学生が大半
一方、学生たちはどのように考えているのでしょうか。
ノーザン・ミシガン大学のオーマン教授は、今後、学習に使用すべきか否かを決定する前に、学生たちの意見を聞いてみようと思い立ち、授業でディスカッションを行うことにしました。
ちょうど取材に訪れた日がディスカッションの日で、取材させてもらえることに。

30人ほどの学生たちがグループごとに分かれて議論。
手放しで使用をOKにする、一定のルールを設けて使用する、使用を完全に禁止する。
学生たちからは「自分できちんと考えたエッセイの原案を授業中に書いて、自宅に帰ったら、ChatGPTを使っていいのではないか、自分の意見を固めるために使うのはいいかもしれない」といった意見や「このソフトの使用は全く問題ない。AIとの対話ソフトはなくなることはないのだから、不正とするのではなく使っても問題ない方法を編み出すべきだ」といった意見も。
クラス全体ではぜひ使用したいという意見が多数を占める結果となりました。

オーマン教授
「ChatGPTを使うことにワクワクしている学生が多くて驚きました。当初は利用を規制する方針でしたが、学生の多くは規制してほしくないということなので、今後、最初の課題はひとまず、好きなように使って良いことにしてみます。どれだけ問題が起きるか、見てみましょう」
使用禁止は解決策ではない
AIの最新の動向に詳しい専門家も使用を禁止することは解決策にはならないのではないかと指摘しています。

エツィオーニCEO
「長期的に見て、AIとの対話ソフトを禁止することは解決策にはならないと思います。学生たちは、抜け道を探すでしょう。電卓を数学の授業で使えるのと同じようにどうやったら学習に使えるか、学習要領を見直す必要があります。適切な使い方を学ぶ必要があるのです」
インターネットの“新時代”か
この新しいテクノロジーにアメリカのIT大手も積極的に乗り出しています。
オープンAIに出資するマイクロソフトは、この技術を活用して自社のネット検索エンジンBingにAIチャット機能を搭載することを2023年2月7日、明らかにしました。

するとこれに対抗するかのように検索エンジンで世界トップのグーグルはChatGPTによく似た「Bard」というAIとの対話ソフトを発表、ネット上の最新の情報を回答に反映できるとしています。

インターネットの大きな変革期、地殻変動だと呼ぶ専門家もいて、新しい時代の入り口にたっている可能性があるのです。
世の中で使ってもらって改良を
開発したオープンAIのCEOは欠点もある、AIとの対話ソフトの未来を次のように語ります。

アルトマンCEO
「インパクトの大きさを考えると、徐々に変化を与えていったほうが良いと考える。まだ不完全なシステムを出し、年々改良していくのだ。私たちはこのソフトが本当に人々のために役立つものになってほしいと思っている。もし、実験室の中だけで作り、世の中でどう使われるのか検討しないようだと、人々の期待に応えられない
AIは、どんどん進化を続け、すでに一部は私たちの日常生活にも入り込んでいます。
犯罪などにも使われるおそれがあると指摘される一方、どのように使えば有意義なのか、人間とAIの模索が続いています。