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2022年11月21日
アフガニスタン

「ずっと一緒のはずだったのに」塾を襲った爆弾テロ 学びも友も奪われた

「いつも隣に座っていました。これからも、ずっと一緒にいるはずでした」

アフガニスタンの18歳の女子生徒は、親友と写った写真を手に、つぶやきました。

でも、もう2人の写真が増えることはありません。

学校に通うことも許されず、親友の命まで、奪われました。

(イスラマバード支局長 松尾恵輔)

大学進学を目指す2人の女子生徒

「この写真は、親友が誕生日プレゼントでくれたんです」

アフガニスタンの首都カブールの住宅。ここに住む18歳のバシラさんは、親友のホマイラさん(18歳)と撮った写真を見せてくれました。

母(左)の隣で写真を見せてくれたバシラさん(右)

イスラム教徒の女性が身につけるヒジャブをかぶって、カメラの前でほほえむ2人。

小学1年生の時からの親友で、お互いの家を行き来して遊び、学校ではいつも隣の席に座っていました。

アフガニスタンでは、20年ほど前まで、旧タリバン政権下で女性への教育が禁止されていましたが、政権が崩壊すると、女性も大学に進学できるようになりました。

バシラさんとホマイラさんも、勉強を続け、将来は一緒に大学に進学しようと考えていました。

機械いじりが好きなバシラさんの将来の目標はエンジニア。

ホマイラさん

ホマイラさんは、まだ医療の水準が低いアフガニスタンで、病気の父親や、困っている人たちを助けたいと医師を目指していました。

奪われた学び 支えは学習塾

状況が一変したのは、2021年8月。

イスラム主義勢力タリバンが、アフガニスタンで再び権力を掌握しました。

タリバンは「女子生徒が通学する環境が整っていない」などと主張し、日本の中学校と高校にあたる中等教育で、女子生徒の登校ができなくなりました。

2人も学校に通えなくなりました。

男の子は学べるのに、どうして女の子は学んではいけないのか。女性が学ぶことが出来なくなって、社会はよくなるのかー。

バシラさんは憤りを覚えました。

勉強する場所を奪われたバシラさんとホマイラさん。

そのとき、2人を救ってくれたのは近所にある学習塾でした。中等教育を受けることができなくなっても、個人が開く塾や、大学には女性も通うことができます。

塾で勉強を続ければ、大学を受験し、夢をかなえられるかもしれない。

2人とも決して裕福な家庭出身ではありませんが、家族も通うことを許してくれました。

大学の受験勉強を教えてくれる塾は、地域に一つしかありません。そこには、2人と同じように、学校に通えなくなった女子生徒が集まっていました。

 バシラさんとホマイラさんが通っていた塾

一緒に勉強するだけでなく、仲良くなって家族のような雰囲気だったといいます。熱心な講師たちも、やる気を与えてくれました。

「とても楽しかったです。勉強だけでなく生き方まで教わった気がします」(バシラさん)

塾がない日も、2人はバシラさんの家に集まって一緒に勉強しました。

「この本読んだ方が良いよ」「ちゃんと復習した?」

面倒見のよいホマイラさんは、バシラさんにいつもアドバイスをくれました。

夜中の2時ごろまで勉強する努力家のホマイラさんを、バシラさんは尊敬していました。

突然響き渡った銃声

ところが、大学入試を2週間後に控えた2022年9月30日。悲劇が起きました。

この日は塾で最後の模擬試験の日。

「この試験が終われば、次はいよいよ本番だ」

バシラさんはやる気に満ちていました。朝6時半すぎにホマイラさんと待ち合わせをして一緒に教室に入り、いつものように隣どうしの席に座りました。

試験が始まっておよそ30分後、バシラさんが数学の問題を解き終わったとき、外から突然、銃声が聞こえてきました。

異変に気づいた塾の職員が慌てて教室に飛び込んできて、生徒たちを守ろうと、教室のドアの鍵をかけようとしました。

しかし、職員は銃で撃たれ、銃を持った男が中に入ってきました。

いったい何が起きているのか、分からなかったというバシラさん。

突然の出来事に動けなくなっていました。

「バシラ、伏せて」

隣の席に座っていたホマイラさんがささやき、バシラさんの手をつかんで、床に伏せさせました。

銃声が聞こえ、周りに座っていた女子生徒たちが撃たれたのが分かりました。

殺されるかも知れない。

そう思った次の瞬間、大きな爆発音がして、バシラさんは意識を失いました。

爆弾テロの被害を受けた塾

目を覚ますと、そこは病院でした。

バシラさんは、肩をけがしていて、クラスメートたちが搬送してくれたのです。

ホマイラさんが亡くなったことを知ったのは、その日の夜。

左胸と頭に深い傷を負っていたといいます。

「ホマイラもきっと生きていると信じていました。『もうホマイラは私たちと一緒にはいないんだよ』と告げられ、胸が張り裂けそうでした」(バシラさん)

53人の死、多くの女子生徒が巻き添えに

国連のまとめでは、この爆発の犠牲者は53人、けが人は110人に上ります。

犠牲になった人のうち、少なくとも46人は女性だったといいます。

およそ600人が学ぶこともあったという教室の屋根は、半分が吹き飛び、爆発の大きさを物語っていました。

治安維持を担うタリバン暫定政権の話では、犯人の男は塾の門のところにいた警備員に向けて発砲し、教室に入って、身につけていた爆弾を爆発させたとみられています。

教室に座っていた、たくさんの女子生徒たちが犠牲になりました。

誰が、なぜ、塾を狙ったのか。タリバンの捜査幹部は、犯行に関わったとして過激派組織IS=イスラミックステートのメンバーを事件からおよそ3週間後に殺害したと明らかにしました。

ISは今も、アフガニスタン国内でテロを行い、中でも、爆発が起きた地域に多く住むイスラム教シーア派の少数民族「ハザラ人」を敵視して、テロを繰り返してきました。

バシラさんやホマイラさんもハザラ人です。タリバンの幹部は「たくさんの人たちを殺害し、混乱を引き起こそうとしている」と非難します。

『安心して学べる環境はない』

「あの日、ホマイラが私を助けてくれたんです」

バシラさんはそう振り返ります。

2人で一緒に勉強する日々は、もう戻ってこない。バシラさんは、親友を失ったショックから塞ぎ込むようになりました。

ホマイラさんと当日までやりとりしていたSNS。たわいない会話も見返すことができません。

「私たちには、実現できなかった夢がたくさんあります。一緒に大学に行って、一緒に勉強して、ずっと友情が続くはずでした。ホマイラが、私ひとりを残していなくなってしまうなんて、思ってもいませんでした。受験に向けて、ずっと頑張ってきたホマイラの努力が、実らなくなってしまったのがとても悲しいです」(バシラさん)

バシラさん自身も、ずっと目指してきた大学入試を受験できなくなってしまいました。

爆発の影響でけがをした肩が日増しに痛むようになり、受験の数日前、医師から受験をあきらめて治療に専念するよう勧められたのです。

バシラさんはアフガニスタンを離れ、医療水準が比較的高い隣国のイランに向かうことになりました。

「受験も出来なくなり、感情を抑えられず、涙が出てきました。勉強自体はこれからも、絶対に続けたいです。でも、イランで治療を終えて帰ってきたときに、私はどうなっているのでしょうか。勉強は続けられるのか、夢をかなえられるのか、分かりません」(バシラさん)

疲れ切った表情で、悔しさと将来への不安を口にしたバシラさん。私たちに、こう訴えました。

「アフガニスタンは、もう安心して勉強を続けられる状況ではなくなっています。国際社会には、私を含むアフガニスタンの若者が安心して勉強できるように、海外での奨学金制度などを提供してほしいのです」(バシラさん)

タリバンの復権から1年以上がたっても、女子生徒の中等教育が認められない状況が続くアフガニスタン。

さらに爆弾テロで、最低限の安全さえも守られないー。

いつまでこうした日々が続くのか、女子生徒たちは追いつめられています。

ホマイラさんの墓

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