
10月29日の夜、ソウルの繁華街イテウォン(梨泰院)で156人が死亡した事故。
韓国警察庁の長官は11月1日の記者会見で、「事故発生の前から危険性を訴える通報が多数あったことを確認した」と明らかにした上で、それに対する対応は不十分だったという認識を示しました。
長官は、事故の4時間ほど前から韓国の緊急通報「112」には危険性を訴える通報が11件あったとしていて、その内容が公開されました。記録には、事故の前の現場の切実な状況がつづられています。通話記録の詳細です。
注:個人情報など、一部省略したり、伏せ字にしたりしているところがあります。記載時刻は、通報があった時間です。
(ソウル支局・大谷暁)
通報時系列
①午後6時34分
警察官:緊急通報112です。
通報者:ここ、イテウォンのメインストリートに入るところです。
警察官:イテウォンのメインストリートです、はい。
通報者:もしもし、クラブに行く途中のホテルの路地に、●●(店の名前)があるじゃないですか。
警察官:ホテルの路地にある●●ですね。
通報者:はい、その路地を人々が上り下りしていますが、とても不安なんです。人が降りられないのに、ずっと押し寄せてくるから、圧死しそうです。やっと抜け出したんですが、人出が多すぎるので整理していただかないといけないと思います。
警察官:うまく通行できず圧死、転びでもしたら大きな事故になりそうだ、ということですよね?
通報者:はい、今とても鳥肌が立っています。とても狭い路地なんですけど、イテウォン駅で降りる人が全部上がってくるんですけど、出てくる人と混ざって、その次にクラブに入る列と混ざっているんですよ。上がってくる人を止めて、はい、止めると降りてくる・・・
警察官:クラブに並ぶ列と、立っている人たちと列に並ぶ人たちと・・・
通報者:はい、その次にメインの通りから来る人たちと、イテウォン駅の1番出口からみんな出てきて、その路地に全部入ってくるんです。
警察官:イテウォン駅から出る人たち、イテウォン駅から抜け出す人たち、そこから路地から抜け出す人たちと混ざって・・・
通報者:はい、今、誰も整理しないんです。警察が立って整理して人を減らした後に、その次に、あそこに入るようにしないと。出られなくて人があふれているんです。
警察官:わかりました。警察官が出動して確認してみます。

②午後8時9分
警察官:はい、緊急通報112です。
通報者:警察署ですよね。
警察官:はい。
通報者:ここイテウォンなんですけど。
警察官:はい。
通報者:人がとても多くて渋滞してて、押しあって大変で、転んで大変な状態でケガをしているんですよ。
警察官:はい。
通報者:これちょっと、どうにか取り締まりをしてもらわないといけないと思います。
警察官:人が多すぎて転んだりケガをしたりする、その場所はどこですか?
通報者:イテウォンの●●(建物の名前)、3番出口の向かい側です。
警察官:イテウォン駅3番出口の向かい側?
通報者:はいはい。
警察官:道の向こう側ですか?
通報者:はい、道を渡って。
警察官:分かりました。こちらで一度確認してみます。
通報者:はい、お願いします。ありがとうございます。
警察官:はい。
③午後8時33分
警察官:はい、緊急通報です。
通報者:イテウォンの●●(店の名前)の前なんですけど。
警察官:●●(店の名前)ですか?
通報者:はい、●●(店の名前)の前のそこの三差路です。
警察官:はいはい。
通報者:ここに今、人がすごい集まっちゃって。
警察官:はい。
通報者:人々が今、道で倒れて、これ事故になりそうなんです。危ないんですけど。
警察官:人々が倒れたですって?
通報者:はい、倒れて今これが整理できていません。この道が三差路が詰まって・・・
警察官:はい(通報内容を入力中)。
通報者:ここちょっと大変なことになりそうなんですけど。
警察官:あ・・・そうですか。
通報者:はい、今深刻なんです、本当に。
警察官:あ・・・
通報者:私が映像を撮ったのありますが、送る方法ありますか?
警察官:112にショートメッセージで送ってください。
通報者:あ、はい、今送ります。
警察官:はい、出動して確認してみます。わかりました。
通報者:はい、ショートメッセージで112に送ればいいですか?
警察官:はいはい。
通報者:私のものからでいいですか、それとも他の友達のものでもいいですか?
警察官:まあ、友達のものでもいいと思います。
通報者:はいはい(隣の人に『112に送って』)。分かりました。
警察官:はい。

④午後8時53分
警察官:はい、緊急通報112です。
通報者:こんにちは。ここは今・・・(雑音)なんですけど。
警察官:もしもし? (電話の音がよく聞こえない)
通報者:ここはイテウォン、イテウォンなんですけど。
警察官:電話がよく聞こえませんね。
通報者:人が多すぎて・・・圧死しそうなので、私たち、●●(店の名前)というところです。・・・お願いします。
警察官:えっ、何ラウンジですか?
通報者:はい、●●(店の名前)です。
警察官:どうしたんですか、今?
通報者:今、人が多くて・・・ちょうど私が・・・(雑音)
警察官:はい? 位置を追跡します。
通報者:・・・(雑音)多くて、人が圧死してますよ、ほとんど。
警察官:圧死しているって?
通報者:人が多すぎるからです。・・・(雑音)お願いします。
警察官:ハロウィーンパーティーのせいですか?
通報者:はいはい、そうです。修羅場です、修羅場。
警察官:修羅場ですって?
通報者:はい、本当に半端ないんです。(隣の人に『分かった、分かった』)。
警察官:すみませんが、もう一度つづりを教えてください。
通報者:はい、ここが●●(店の名前)ですが・・・(雑音)半端ないです、イタ電じゃないです。
警察官:あ、●●(店の名前)のことですよね?
通報者:●●(店の名前)じゃなくてその後ろです・・・(雑音)
警察官:あ、●●(店の名前)の裏通りですか?
通報者:はいはい。
警察官:その道進めばいいですか?
通報者:はいはい。
警察官:はいはい、警察出動します。
通報者:はいはい。
⑤午後9時
警察官:緊急通報112です。
通報者:ここイテウォンなんですけど。
警察官:はい。
通報者:今ここに人出が多すぎて、大事故が起きる一歩手前です。みんな押されて、ここに来て整理しないといけないと思うんですが。
警察官:位置はどの辺ですか。
通報者:今「●●(場所の名前)」って打ったら出てきませんか?
警察官:あ、私が位置追跡します。
通報者:はい、今すぐ来ないといけませんよ。
警察官:イテウォン駅の方ですか?
通報者:(通りすがりの通行人に)今ここはどこですか?●●(店の名前)の隣です。今人でいっぱいです。
警察官:●●(店の名前)?
通報者:はい、●●(店の名前)です。緊急出動しないといけないと思うんです。
警察官:あ、人が多すぎるんですか?
通報者:はい、詰まっちゃって、大事故の寸前です。
警察官:今、ハロウィーンイベントのせいですよね?
通報者:はいはい。
警察官:わかりました。
通報者:人が今、ずっと押されています。私は今救助されました。
警察官:はい、分かりました。●●(店の名前)の前ですよ。
⑥午後9時2分
警察官:はい、緊急通報112です。
通報者:はい、あそこイテウォン通りなんですけど。
警察官:はい。
通報者:今、人出が多すぎて。
警察官:はい。
通報者:道でみんな押されてるんですよ。このままじゃ本当に事故になりそうです。みんな大騒ぎなんですよ。イテウォンのあの、中央路の、イテウォン。
警察官:どこの店の前ですか?
通報者:(独り言『ここ、店、名前なんだ?』)
(隣の人に聞く『この店の名前は何ですか?』)
通報者:ちょっと待ってください。●●(店の名前のつづり)ですか。
警察官:分かりました。通報を受け付けます。
通報者:ここ、ここ本当に、道をなんとかしてください。本当に人は死にそうです。
警察官:はい、分かりました。

⑦午後9時7分
警察官:緊急通報112です。
通報者:もしもし。
警察官:緊急通報です。
通報者:はい。イテウォンの上のハロウィーン通りです。
警察官:はい。
通報者:●●(店の名前)って飲み屋の方なんですけど。今人が多すぎて圧死しそうな、危険なんですよ。
警察官:そこの位置を照会してもいいですか。通報者の方、位置を照会していいですか?
通報者:ここの位置を追跡してください。ここ、●●(店の名前)という飲み屋。
警察官:●●(店の名前)という飲み屋?
通報者:はいはい。
警察官:はい。分かりました。出動します。
通報者:ここに来て・・・(音小さく確認不可)してください。みんな一方通行できるように整理をお願いします。
警察官:はい。了解しました。
通報者:はい。ありがとうございます。
⑧午後9時10分
警察官:緊急通報112です、もしもし。
通報者:はい、ここはイテウォンのXX(聞こえない)なんですけど。
警察官:はい、はい。
通報者:はい、今ここの人みんな圧死しそうです。
警察官:人が多すぎですって?
通報者:圧死しそうですと。お祭り中なのに。
警察官:はい、はい。
通報者:ああ、あの、あの、何だ、なんて言うんだろ、ハロウィーンフェスティバル中なんだけど、深刻な状態です。奥の人たちが圧死しそうです。
警察官:だから位置はどこですか、位置はどこ・・・
通報者:ハロウィーンフェスティバル会場、ハロウィーンフェスティバル会場、イテウォ駅。
警察官:店の名前、店の名前を言ってください、なんかお店の名前を。
通報者:店じゃなくて、通り全体がそうだと、今。
警察官:通り全体に人が多いんですか?
通報者:はい、通りの・・・
警察官:だから、圧死しそうな、人が多い場所がイテウォン駅の何番出口か、ちょっと具体的には・・・
通報者:あ、ですから・・・
警察官:はい。
通報者:だからあそこ、ここ何だ、あ、ここ何のホテルだ? あ、あ、ここはどこのホテルだろう?
警察官:警察官の出動が必要な位置。
通報者:●●(店の名前)?あ、●●(店の名前)の前です。
警察官:はい。
通報者:はい、はい、今ちょっと深刻なんです、状態が。
警察官:●●(店の名前)?イテウォン?
通報者:はい、イテウォン駅、●●(店の名前)。
警察官:分かりました。警察官出動します。
⑨午後9時51分
警察官:緊急通報112です。
通報者:はい、●●(店の名前)の前です。
警察官:●●(店の名前)ですか?
通報者:はい、イテウォンの●●(店の名前)の前です。ここは人が多すぎて、人数を整理してもらわないといけないんですけど。できれば早く出られますか?
警察官:ちょっと待ってください。
通報者:今すごく危険な状況だと思うんですよ。今ここ。
警察官:●●(店の名前)のことですか?
通報者:はい、●●(店の名前)です。
警察官:はい、分かりました。 今そちらに・・・
通報者:早く来て・・・はい、早く来てください。
警察官:人が多すぎるということですか。
通報者:はいはい、ここに来て人数統制をしなければならないようです。早く来て・・。
警察官:はい、分かりました。
通報者:はい。

⑩午後10時
警察官:緊急通報112です。
通報者:あ、くそっ、通報しようと。ここイテウォン、おい、英語で何だ。
警察官:位置を追跡してみますよ、通報者の方。
通報者:はい、位置を把握して。
警察官:はい、位置を把握します、どうしたんですか?
通報者:(隣の人『●●(店の名前)の前』)●●(店の名前)の前の路地なんですが。
警察官:●●(店の名前)の前の路地ですね、はい。
通報者:ここイテウォンのせいで人が多いじゃないですか。でも、そこから路地から降りるのが。押して圧死しそうなので、整理してくださいよ。
警察官:人々は道路に出ていますか?
通報者:はい。
警察官:わかりました。位置を追跡してみます。
通報者:(隣の人に)行こう。もう電話を切ってもいいんですよね?
警察官:はい、出動してみます。
通報者:はい。
警察官:電話を切っても結構です。
⑪午後10時11分
警察官:はい、緊急通報112です。
通報者:ここ圧死しそうです。みんな大騒ぎです。
警察官:どこですか?
通報者:もしもし?
警察官:はい、圧死
通報者:・・・●●(店の名前)の前です。
警察官:え?
通報者:●●(店の名前)の前です、112ですよね?
警察官:はい。 ●●●ですか?
通報者:●●(店の名前)、ここの人たちみんな。
警察官:位置を追跡します。はい、そちらヨンサン駅の近く、イテウォン駅の近くでしょうか?
通報者:あ~(悲鳴)あ~(悲鳴)、イテウォンの裏道です、イテウォンの裏道
警察官:はい、はい、警察そちらに出動します。

異変はいつから?
通報内容を読み解くと、午後6時半すぎの時点で、「圧死」という言葉が出てきています。事故が起きたとされる時刻の4時間ほど前から、すでに警察には切実な声が寄せられていたことがわかります。
現場で起きていたことは?
その後も、「大変なことになっている」「修羅場だ」「一方通行に規制してほしい」など、警察への対応を求める通報が相次いでいたことになります。
ただ、この11件の通報に対して、実際に警察が出動したのは、4件にとどまっていたということです。

今後の対応は?
対応が不十分だったと認めた韓国警察庁は、警察の対応なども含めた事故についての事実関係を調べるための組織を、警察庁の中に設置することになりました。今後、検証を進めた上で、責任の所在を明確にするとしています。