Q.国産ワクチン 開発の現状は?

A.
国内の企業も国産のワクチンの開発を進めていて、これまでに5社が人に投与して安全性などを確認する臨床試験を始めていますが、最終段階の臨床試験を完了して承認申請まで進んだケースはまだありません。

塩野義製薬

大阪に本社がある製薬大手、塩野義製薬は2020年12月16日に214人を対象に「組み換えたんぱく質ワクチン」の臨床試験を始めました。

その後、2021年8月からは新しい製剤を使って60人を対象に初期段階の臨床試験を行ったところ、安全性に大きな問題はなく、ウイルスの働きを抑える中和抗体の値が上昇したことが確認されたということで、10月20日には国内でおよそ3000人を対象に大規模な臨床試験を始めました。

2021年のうちに最終段階のさらに大規模な臨床試験を始め、2021年度内の実用化を目指すとしています。

第一三共

製薬大手の第一三共は、2021年3月22日、初期段階の臨床試験を始めました。

開発しているワクチンは、国内で接種されているファイザーやモデルナのワクチンと同じく、ウイルスの遺伝情報を伝える「メッセンジャーRNA」=「mRNA」を使うタイプで、142人を対象にした初期段階の臨床試験で安全性や免疫の働きを確認できたと2021年10月に発表しています。

この後、11月には改良した製剤を使って次の段階の臨床試験を行った上で2021年度内に最終段階の臨床試験を予定し、2022年中の実用化を目指すとしています。

ファイザーやモデルナなどのワクチン接種が進む中、新たなワクチンの効果を臨床試験で評価するのが難しくなっているのを受け、会社側はすでに別のワクチンを接種した人と開発中のワクチンを接種した人で抗体の値などを比較して差がないことを確認する「非劣性試験」という手法で最終段階の臨床試験を行う考えを示しています。

KMバイオロジクス

熊本市に本社があるワクチンメーカーのKMバイオロジクスも2021年3月22日、210人を対象に臨床試験を始めました。

ワクチンは、ウイルスを加工して毒性をなくした「不活化ワクチン」で、季節性インフルエンザなどのワクチンと同じタイプで、初期の臨床試験の結果、一定の有効性や安全性が確認できたとしていて、2000人を対象にした次の段階の臨床試験を始めました。

さらに、2021年中にもすでに既存のワクチンを2回接種した人に接種する「追加接種」の臨床試験を始め、有効性と安全性を確認し、2022年度中の実用化を目指すとしています。

アンジェス

大阪のバイオベンチャー企業、アンジェスが開発しているのは遺伝子ワクチンの一種の「DNAワクチン」で、人工的に合成したDNAを投与して、ウイルスを攻撃する抗体を体の中で作る仕組みです。

この会社は、2020年6月30日に国産のワクチンとしては初めて臨床試験に入りましたが、期待する効果が得られなかったとして2021年8月からは薬の量を増やすなどして改めて初期段階の臨床試験を進めています。

VLPセラューティクス・ジャパン

創薬ベンチャーのVLPセラピューティクス・ジャパンは、遺伝情報を伝えるmRNAが投与したあと一定の期間だけ体内で増殖する新しい仕組みを使った「次世代mRNAワクチン」を開発していて、2021年10月12日から45人を対象に初期段階の臨床試験を始めたと発表しました。

2022年中の実用化を目指すとしています。

IDファーマ

バイオベンチャー企業のIDファーマは、「ウイルスベクターワクチン」の開発を進め、動物実験を行うなどしていて臨床試験の実施を目指しています。

海外メーカーのワクチン供給も

一方、国内の製薬会社などが、海外のメーカーが開発したワクチンの臨床試験を行い、供給を担う動きも出ています。

武田薬品工業

製薬大手の武田薬品工業は、アメリカの製薬会社、モデルナが開発した「mRNAワクチン」について国内での臨床試験を行い、すでに国内での承認を受けて供給を担っています。

さらに、武田薬品工業はアメリカのバイオ企業、ノババックスが開発している「組み換えたんぱく質ワクチン」についても国内で臨床試験を行っていて、国内の工場で製造し供給を行うとしています。

中国の大学のワクチン

長崎大学などのグループは、中国の四川大学が開発を進める「遺伝子組み換えたんぱくワクチン」について、国内でも2021年8月、臨床試験を始めました。

田辺三菱製薬

製薬大手の田辺三菱製薬は、カナダの子会社が開発している遺伝子を含まない、ウイルスによく似た形をした粒子の「VLPワクチン」について、2021年10月、国内で臨床試験を始めました。

海外メーカーも国内で臨床試験

海外の製薬会社で、日本国内で臨床試験を行うところもあります。

アメリカの製薬大手、ジョンソン・エンド・ジョンソンは「ウイルスベクターワクチン」の臨床試験を行っていて、厚生労働省に対し承認申請をしています。

また、フランスの製薬大手、サノフィは「遺伝子組み換えたんぱく質ワクチン」の国際的な臨床試験を日本国内でも進めています。

国内の臨床試験に課題

日本国内でワクチンの実用化を目指す臨床試験を行うには課題があります。

課題として挙げられているのは、欧米や南米などと比べて、感染者の数が少なく、臨床試験に参加した人が感染する可能性が低いことや、すでに効果が高いワクチンの接種が進み、正確にワクチンの効果を確かめるのが難しいこと、それに有効なワクチンがある中で、新たに開発されるワクチンの利点を示す必要があることなどです。

このため医薬品の審査を行うPMDA=医薬品医療機器総合機構は、最終段階の臨床試験ではすでに実用化されている同じタイプのワクチンと比べてウイルスの感染を防ぐ中和抗体の値が同等以上であれば有効性を判断できるとする新たな考え方を公表しています。

(2021年11月10日時点)