ニコニコしているママの姿、見せたい

吉田愛

セーリング

セーリングの聖地”は静かだった。梅雨明け間近の江の島。
本来ならば、1964年の東京オリンピック以来、半世紀ぶりの祭典を控え熱気を帯びているはずの海の上に吉田愛はいた。

ペアを組む吉岡美帆とともに、2018年の世界選手権、セーリング女子470級で日本女子初の金メダルを獲得。2021年の東京オリンピックをメダル候補として迎える。

「いまは大会がなくて目標が無い状態だが、金メダル獲得のための道のりをしっかり考えて進んでいきたい」

現在、39歳。4回目となるオリンピックを競技人生の集大成と位置づけていたベテランにとって心身共に重くのしかかるはずの延期を、吉田は前向きに受け止めていた。 その理由。6月に3歳になったばかりの長男、琉良(るい)くんの存在だった。

「ことしの開催だと、なかなか将来、覚えていてくれないかなと思っていたが、東京オリンピックが1年延びたら、琉良が4歳になっているんだと思った。4歳だったら、覚えていてもらえるかなと思って」

新型コロナウイルスの影響で外出自粛を余儀なくされた期間、自宅でできるスクワットや腕立て伏せなどのトレーニングを、子守を兼ねて琉良くんを抱きかかえながら行った。「ろくな器具も無い状態で自粛生活に入ってしまって、重りがほしいと思ったときに琉良の体重が15キロでちょうどよかったので」と吉田はくすりと笑った。 海外を転戦するシーズン中には難しかったかけがえのない時間だった。

「息子にとって印象に残るような大会にしたいという強い思いがわき上がってきた。ニコニコしているママの姿、そして金メダルを見せてあげられたらいいな」

そう話す吉田のまなざし、は母として初めて迎えるオリンピックを見つめていた。

セーリング