“鬼メニュー”ができれば自信に

一山麻緒

陸上

東京オリンピック、女子マラソンで最後の代表切符をつかんだ一山麻緒。
その代名詞となっているのが厳しい練習だ。福士加代子などを育てた、実業団屈指の強豪ワコールの「名将」永山忠幸監督が作るトレーニングメニューを一山は「鬼メニュー」と名付けた。
一山は決して「エリート」ではない。全国高校総体の出場経験はあるが、永山の門をたたき5年、そこで鍛えられたことで日本を代表するトップランナーに上り詰めた。
オリンピック代表になった24歳の今も、その「鬼メニュー」はさらに進化している。
一山は、ほほえみながら語る。

「今は“鬼・鬼”メニューぐらいはいってますかね。毎回、毎回の練習がちょっと恐怖との戦いというか、怖いですねやるのが」

鹿児島県出身の一山いわく、永山監督は「京都にいるお父さんみたいな感じ」。練習中に声を荒げることはなく淡々とタイムを読み上げ、アドバイスも必要最小限のことばしか伝えない。

ただ、練習内容は他の実業団の指導者も舌を巻くほど。一山が「鬼」と呼ぶのは間違いないようだ。

開幕まで3か月となり取材を申し込んだ私たちに対し、永山監督は、大会本番に向けてギリギリまで体を追い込む大切な時期のトレーニングの撮影を許可した。取材の日のメニューは5キロ走を5本。注目すべきはそのペースだ。1キロを3分15秒。一山自身「これまでやったことがない」という過酷なものだった。

スタート直後、一緒に走る男子のコーチに離される。 5分の休憩を挟みすぐに再びスタート。 強風のため距離は途中から3キロになったが、1キロ3分15秒のペースは決して落とさない。この時期の追い込んだ練習が「スピードを持続できる力」につながると考えるからだ。 食らいついた一山。永山監督の「鬼・鬼メニュー」をなんとかやり遂げた。

「メニューができたらさらに次やる時は、ちょっと厳しさが増しているんですよね。そのメニューができたら1番自信にもなるし、毎回チャレンジしています」

一方の永山監督。みずからが課す厳しいトレーニングの意味を説明してくれた。

「きょうは彼女にとっては鬼メニューだと思います。ただ、僕にとってはまだまだ鬼メニューではないです。強くなりたいんだったら、今までやったことのない練習の内容に挑戦するしかないんですよ」

その厳しさの裏には「100点満点の状態でスタート地点に送り出したい」という親心がある。取材の3週間後に行われたオリンピックのテスト大会。同じコースで行われたハーフマラソンに一山は出場した。

万全の体調ではなかった一山だが、終始先頭でレースを進めて、ほかの2人の代表選手を抑えて優勝。タイムは練習してきた1キロ平均3分15秒を切って自己ベストをマークした。 初のオリンピックに向けて自信をつかむには十分だった。

「ビビらずに積極的に走るっていうのが私のスタイル。1番はワクワクしながらスタートラインに立ちたいなって思っています」

「鬼メニュー」の先に、一山は強豪のアフリカ勢に肩を並べ、その一角に食い込むみずからの姿をしっかりと描いている。

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