使命感と責任を持ってピッチに立つ

田中碧

サッカー

サッカー日本代表の窮地を救ったのは、23歳の田中碧だった。
2021年10月に行われたワールドカップカタール大会、アジア最終予選第4戦のオーストラリア戦。試合前の時点で日本の成績は1勝2敗。ワールドカップ出場権獲得圏内の2位と勝ち点差は6。「崖っぷち」の状況だった。
田中は、この大事な試合で中盤の一角として先発を任された。
最終予選は初出場。それでも落ち着いていた。

「緊張したけど、やることは変わらず自分の力を出すことが大事。自信を持ってプレーした」

前半8分、田中は左サイドの南野拓実からのパスを、ペナルティーエリア内で受け、右足で蹴り込んで先制ゴールを奪った。精力的に動き回って守備にも貢献。精度の高いパスも供給して攻守で存在感を示した。
周囲からの高い評価とは裏腹に、本人はみずからのプレーには全く満足していなかった。

「勝ったからよかった、僕のプレーがよかった、ってなっているのかもしれないけれど、じゃあ何回、ボールの奪い合いで勝ったかと言うと、自分は全然勝てていないんですよ。周りの選手のおかげで自分は点を取ったり、プレーはできましたけど、もっと自分を見つめ直してもっと成長しなきゃいけないと感じた」

田中が自分を厳しく評価する理由。それは、2021年夏からプレーするイツ2部のデュッセルドルフで思うように結果を残せていないからだ。公式戦は11試合に出場(11月22日時点)も“壁”にぶつかっていると言う。

「Jリーグで優勝とかも経験してきたけれど、自分ができていたことは同じくらいの体格、スピード、強さの相手でしかできなかったんだと感じた。何ひとつ通用している感覚はない」

以前、在籍していたJ1の川崎フロンターレでは中心選手として活躍し、圧倒的な成績で優勝に導いたが、身長1m80cmの田中はドイツでは小柄な方。体格差のある相手との球際での勝負が今、感じている課題の1つだ。

「彼らは体が大きいので、体をぶつけることをちゅうちょなくやってくる。その中で自分がどうやってボールを失わずにプレーするか。逆にボールを奪いに行くときに 今までは足を伸ばせば取れたものが体をぶつけに行かないと取れない」

課題を克服するため、日本にいたときより筋力トレーニングの量を増やし、体幹の強化にも取り組んでいる。

「(海外の選手とは)筋肉も骨も違うし、同じことをしていても勝てない。そういうトレーニングだったりで、彼らとの差を埋めていかないといけない」

そのうえで求められているのがゴールやアシスト。ペナルティーエリア内に入る頻度を増やすため一瞬のスピードで走り込む「スプリント」の回数を多くしたいと走力強化のメニューを率先してこなしているという。

「自分がどうやって世界と戦うのかを常にイメージしながら、そのために何をしないといけないかを試行錯誤している段階」

ワールドカップカタール大会の開幕まで1年を切る中、最終予選で日本は2位まで盛り返してきたが、7大会連続出場に向けて、依然として予断を許さない状況が続く。
主力としての覚悟も芽生えつつある23歳は、ドイツでの経験を糧に日本代表を押し上げる決意でいる。

「ワールドカップに出て当たり前という空気の中、最終予選はプレッシャーや強度、緊張感が今まで経験してきたものと1回りも2回りも違う。この厳しい戦いを乗り越えてワールドカップ出場を続けていくことが日本サッカーの発展につながるし、先輩方の今までの積み上げを無駄にしてはいけない。使命感と責任を持ってピッチに立ちたい」

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