自分の可能性を信じてどこまでいけるかチャレンジしたい

鈴木聡美

競泳 #迷っているとき

競泳の日本代表、鈴木聡美、32歳。
ことし7月、出身地の福岡県で開催された水泳の世界選手権に6年ぶりに出場した。
日本競泳陣が獲得したメダルは銅2つにとどまり、来年のパリオリンピックに向けて暗雲が漂うなかで、希望の光となったのが鈴木だった。

鈴木はこの大会、2つの個人種目で自己ベストを更新。
日本代表の女子選手では最年長の鈴木がかつての輝きを取り戻した裏には“まだできる”という強い思いがあった。

21歳で初出場した2012年のロンドンオリンピックでは3つのメダルを獲得し、続く、リオデジャネイロオリンピックにも出場。
もう一度、メダル獲得をと臨んだ自国開催の東京オリンピック。
新型コロナウイルスの感染拡大で異例の1年延期が決まり、鈴木は、気持ちの整理がつかなかったという。

「どんどん負の連鎖に陥ってしまって、まったく水泳に向き合えない時期が続いてしまった。半分、目標を見失ったような感じだった」

代表選考会で結果を残すことができず、鈴木は、東京の舞台に立つことはできなかった。
引退も頭をよぎるなか、再び競技に向き合うきっかけになったのは、大学時代から14年間、練習を見続けた監督のひと言だった。

「“聡美ならまだいける”という言葉をかけてくれて、より自分を信じられるようになった。自分でも、“トレーニングもできている、泳ぎもできている、問題がないのに逃げるわけにはいかない”と、踏みとどまることができた」

さらに、高校まで過ごした福岡県で行われる世界選手権は、何よりのモチベーションになった。30歳を超えて、10歳以上も年齢の離れた男子学生たちと同じ練習メニューで追い込んできた。

「絶対に出たい、何が何でも福岡の世界選手権に出たい。その思いで頑張った」

世界選手権出場をかけて臨んだことし4月の日本選手権。
鈴木は女子50メートル平泳ぎの決勝で5年ぶりに自己ベストを更新。
世界選手権の切符をつかんだ。

「一番、自信につながったレースだった。30歳を超えても“私はまだできるんだ”って、自信を持てることができた。“まだやれるんだ”って自分自身が思い起こされた」

そして迎えた今回の世界選手権では、女子100メートル平泳ぎの予選で14年ぶりの自己ベストとなる1分6秒20をマーク。

「ようやく自分の記録を超えられた。これまでやってきたことは間違いではなかった」

鈴木は決勝まで進み、この種目では8位となった。
続いて鈴木は、オリンピック種目ではないが、本命と位置づける50メートル平泳ぎでも4月の日本選手権を上回る30秒29の自己ベスト。
100メートルに続き決勝進出を果たし7位に入った。

「水泳人生の中で、こんなにも楽しく自分のやってきたことを、最大限の力を発揮することができた大会だった」

大会を終えた鈴木は来年のパリオリンピックに向け、オリンピック種目の100メートルと、今回出場できなかった200メートルの平泳ぎ2種目に狙いを定めていた。

「もう1年を切っているが、相当ハードなトレーニングを積み重ねていけば、今の私なら耐えられると思うし100メートルに加え、200メートルも泳げるような体力・コンディションづくりをしていきたい」

海外勢は若手が台頭し、差は広がっている。メダルは難しいかもしれない。
それでも鈴木は最後に語った。

「自分の可能性を信じてどこまでいけるかチャレンジしたい」

32歳、勝負はこれからだ。

競泳 #迷っているとき