骨の髄まで鍛えられた。そこにオリンピックの価値がある

石川佳純

卓球

東京オリンピックの代表を確実にした後の2019年12月、久しぶりに見せるリラックスした表情と裏腹に口から出たことばは、石川佳純のオリンピックへの歩みがいかに厳しかったかを物語っていた。

「何をやっても、うまいくいかない時も終わりは来る、光は来るんだと自分自身が教えられた」

2019年、石川は崖っぷちに追い込まれていた。
1年間の国際大会の結果で決まる東京オリンピックの女子シングルスの2つの代表枠。長く、厳しい代表争いは最後の最後までもつれた。伊藤美誠が早々と代表入りを確実にする中、石川は残り1枠をかけて、平野美宇を追いかける状態が続いていた。
しかし、ランキングが下の選手に敗れる大会が続き、思うような結果を残せない日々-。

「今までで一番つらかった。
絶対できると思っていた昔が懐かしいと思うぐらい、自信がなくなっていた。
卓球を始めて20年たつが、初めて卓球をやめようかなと思った」

27歳で東京オリンピックを迎える石川。伊藤や平野など10代の選手たちが活躍する中、世代交代もささやかれた。そんな代表争いのさなか、石川は思い切った決断をする。これまでの確実性を重視したミスの少ない戦い方から、リスクを負ってでも果敢に攻める攻撃的なプレースタイルへの変更だった。

「今のままではだめ。変えないことには勝てない」

オリンピック2大会連続メダルの石川でさえ、進化しなければシングルスの切符をつかめない厳しい現実。その後も結果を出せない試合が続いたが、決意は揺るがなかった。

「ミスをもったいないと思うようにはしたくない。
どんどん挑戦して新しいスタイルを作っていきたい」

練習場では、ミスをしても果敢に厳しいコースを狙って打ち続ける姿があった。
残り1枠の争いは12月までもつれ、石川と平野が直接対決したカナダの国際大会の決勝が事実上の代表決定戦となった。
勝った方がシングルスの代表入りに大きく近づく大一番。
硬さの見えた平野に対し、石川に迷いはなかった。

「このチャンスがあることさえ、自分にとってはありがたいと思えた。
オリンピックに出たいなとか、出られないかなとか、自分の中で
もやもやしていたものが無くなって、やっと吹っ切れた。
だめならだめで仕方がないと思えた」

苦しみ抜いた1年間の思いをぶつけるように石川は、腕を振り抜き、攻め続けた。
ゲームカウント4対2で平野に勝利。

しれつな代表争いを勝ち抜き、シングルスの代表に内定した。
1年に及んだ代表争いを石川が振り返った。

「骨の髄まで鍛えられた。
そこにオリンピックの価値がある」

東京オリンピックは1年延期が決定した。
日本卓球協会は、厳しい競争を勝ち抜いた選手たちを評価し、いち早く、内定選手を変更しない方針を決めた。

「1年後、さらにレベルアップした自分でコートに立ち、2021年の東京オリンピックを笑顔で迎えられるように1日1日努力する」

もがき、苦しんだ経験を糧に石川は3回目のオリンピックでどんなプレーを見せるのか。挑戦は続く。

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