自分が積み重ねてきたものは、なくならない

堀島行真

スキーフリースタイル

2022年2月5日。北京オリンピック男子モーグル決勝。
無数のこぶが設けられた250メートルのコースが、30台以上の照明で明るく照らされていた。
気温は-16.4度。堀島は4年間のすべてをぶつけようとスタートした。

ひざ元が赤く染まったウエアで巧みにこぶを乗り越えて、華麗なエアを決めていく。24秒にも満たない滑走を終えると、会場のスクリーンには80点を超える高得点が表示された。
北京大会で日本選手第1号のメダル、銅メダルを獲得した瞬間だった。

「やってきたターン、エアの技術を本当に評価してもらえた。4年間準備してきたものを出せた」

ホッとした様子で笑みを見せた。しかし、ここまでの道のりは決して平たんではなく、大きな挫折を乗り越えて得た銅メダルだった。

前回のピョンチャン大会はメダル有力候補と期待されながらまさかの転倒。すべてをかけて臨んだ大舞台で屈辱的な敗戦を喫し、11位に終わった。
「競技を続けるか迷った」というほど落ち込んだ。

「4年に1回のチャンスを逃してしまったことが悔しくて。失敗の経験が大きなダメージになってしまった」

想像以上のショックからモチベーションの上がらない日々が続いた。
ただそれと同時に「失敗したまま終わってもいいのか」と引き下がれない思いも抱いていた。

気持ちの整理がつかない中で、モーグルに生かそうと取り組んでいた他の競技が、堀島にもう一度チャレンジする心を呼び覚ました。
体操、トランポリン、フィギュアスケート、パルクール。「モーグルのターンやエアの技術向上につながれば」と始めた競技だったが、新たな技ができるようになると小さな達成感があった。

「小さな目標を達成していくことで『自分はできる』という感覚を取り戻すことができた。気持ちがプラスに変化していった」

ピョンチャン大会で打ち砕かれた自信を少しずつ取り戻していき、再び世界を目指して厳しいトレーニングを重ねた。
もう二度と悔しい思いはしたくないという強い覚悟が、彼を成長させた。

「オリンピックがどう転ぼうと、どんな状況になろうと、自分が積み重ねてきたものはなくならない」

北京大会。芽生えてきた絶対的な自信は滑りにあらわれ、堀島は銅メダルを獲得。それでも結果に100%満足していたわけではなかった。

試合後のセレモニー。メダリスト3人は用意された大会公式マスコット「ビン・ドゥンドゥン」を銅メダリストから順に手に取ることになった。
堀島は並べられた3つのうち、真ん中を選んでつかんだ。

「今度は表彰台の真ん中に立ちたいと思ったので」

理由を明かした堀島。4年後の頂点を目指し、心は早くもスタートしていた。

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