プレッシャーも力に変えて

張本智和

卓球

東京オリンピックの1年延期が決まった直後の2020年4月。張本智和はプレー中の強気な姿勢からはかけ離れた意外なことばを口にしていた。

「東京オリンピックの代表と言われることがまた1年間続くんだな」
「早く東京オリンピックをやって楽になりたかった」

10代にして世界のトップレベルへといっきに駆け上がり、急に追われる立場になった2019年以降。張本は国際大会だけでなく、国内の大会でも「打倒・張本」で向かってくる相手の勢いに押されて守りに入り、取りこぼす試合が続いていた。
そんな中でのオリンピックの1年延期だった。

その日から1年余りたった2021年6月。
張本にオリンピックの開幕まで1か月を切った心境を聞くと、1年前とは全く違ったことばが返って来た。

「去年はプレッシャーが大きかったり、結果を残せるのか不安が大きかったりしたが、1年たって、それが当たり前だと思うようになった。プレッシャーが自分の責任だとも思う」

こう言い切れるようになった背景には、団体のチームメートとして東京オリンピックをともに戦う14歳年上の水谷隼の存在があった。

水谷は、世界選手権や全日本選手権といった注目が集まる大会で思うような結果を残せない張本を見て「オリンピックという一番大きな舞台で、彼のパフォーマンスが落ちてしまうのではないかという不安をすごく持っていた」と言う。
全日本選手権では史上最多、10回の優勝を誇り、オリンピックでも前回のリオデジャネイロ大会でシングルスと団体で2つのメダルを獲得。ここぞという大舞台で結果を残してきた水谷は、自らの経験を基に張本に伝えた。

「オリンピックは4年に1回の試合が30分ほどで終わってしまう。だから、相手の選手はとにかく必死で向かってくる。相手もそうだが、自分とも戦わないといけない。苦しくなるが、そこから逃げないで平常心でプレーしないといけない」

先輩のことばに張本は-

「自分もそういう覚悟を持って戦わないとオリンピックの舞台では勝てないと思った。去年はオリンピックに対する覚悟が足りなかったし、このままじゃだめだと気づいた」

水谷に背中を押されて張本の心は決まった。

「調子がいい、悪いとかではなく、オリンピック本番で1試合でも多く勝つんだという気持ちが今はある。言い訳のないように、全部を出し切りたい。プレッシャーも力に変えてオリンピックを戦いたい」

その覚悟を見せられるのか。
張本にとって初めてのオリンピックが始まる。

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