アスリート×ことば

スタート台に立ったときには、誰が金メダルか決まっている

スタート台に立ったときには、誰が金メダルか決まっている

瀬戸大也 競泳

2019年6月。世界選手権を前に瀬戸大也は遠征先のフランスで静かに、そしてはっきりと語った。

「スタート台に立ったときには、
誰が金メダルか決まっている」


確信を持って言い切ったのには理由がある。
4年前のリオデジャネイロオリンピック、男子400m個人メドレー。
予選を2位で通過した瀬戸は勢いで勝てると思っていた。
しかし、決勝のスタート台に立った瞬間、その思いが揺らいだ。

「勝つのは自分ではない」

予感は的中した。金メダルを手にしたのは、同い年のライバル、萩野公介だった。

この4年間、瀬戸は自分がなぜ金メダルを手にできなかったのかを問い続けてきた。

「やれる事は、すべてやる」

そう誓い、終盤の持久力強化のために「水泳をやめたくなる」ほど泳いだ。
苦手な泳ぎ込みも、こみ上げてくる吐き気を抑え込んで向き合った。
栄養管理も徹底。生活のすべてを見直し競技に打ち込んだ。

2019年、夏。瀬戸は世界選手権で個人メドレー2冠を達成し、東京オリンピックの代表に内定。それでも瀬戸は挑戦をやめなかった。
10月には短水路の日本選手権に出場。400m個人メドレーで世界新記録更新をみずからの目標にかかげたのだ。
しかしこの時は、わずか100分の3秒及ばず記録更新はならず。
オリンピックへの強い思いが口から出た。

「”油断するな”という神様からの伝言かもしれない。
100分の何秒で金メダルを逃すことがないように」

短水路日本選手権の2か月後。
瀬戸は、アメリカのライアン・ロクテが持つ世界記録を大幅に更新する。

瀬戸にとって『勝利』とは何かを尋ねたことがある。
答えは明快だった。

「自分にとっての『勝利』は東京オリンピックの金メダル。
毎日のように自分に金メダルがとれるのか不安になったり、自信をつけたりを
繰り返しているけれど、苦手なものに向き合い、克服すれば、自信をもってスタート台に乗れる。そうなったら絶対に負けない」

2020年最初のレースで瀬戸は200mバタフライの日本記録を更新した。
ただ1つの『勝利』を手にするため、練習に裏打ちされた自信を手にしたその時、瀬戸大也に死角は無い。