自分の心の中にあるものを知ってもらうことは、私にとっては本当に健康的なこと

クロエ・キム

スノーボード

スノーボード女子ハーフパイプのアメリカ代表クロエ・キム。ピョンチャンと北京でオリンピック連覇を果たした21歳だ。
会心の演技を見せた北京大会の決勝のあとキムが振り返った。

「最初の滑走に入る前のあの大きな精神的な戦いを乗り越え、それをやり遂げることができた自分のことを誇りに思う」

彼女が「精神的な戦い」と語ったのには、ひとつの理由があった。
韓国人の両親のもと、アメリカ・カリフォルニア州で生まれ育ったキムは、4歳の時にスノーボードを始めた。
わずか14歳で世界のトッププロが集まる大会、「Xゲーム」で優勝するなど早くからその才能を開花させ、17歳で初出場を果たしたピョンチャンオリンピックでは女子ハーフパイプで金メダルに輝いた。

しかし、その裏では長年、SNSによるヘイトクライムに悩まされてきたことを告白している。

「チームにいる白人のアメリカ選手からメダルを奪うのはやめろ」といった差別的なメッセージが寄せられたり、人前でつばを吐きかけられたりしたという。

金メダルを獲得したあとも変わらない差別やひぼう中傷に失望し、衝動的に金メダルをゴミ箱に捨てたこともあったと明かしている。

そのオリンピックのあと、キムはメンタルヘルスの問題からスノーボードを離れ、ふつうの若者として生活することを望んで、アメリカの名門、プリンストン大学に入学した。

「完璧であることを期待されるのは不公平だし、私は何一つ完璧ではない。でも、前回のオリンピックの後、常に完璧でいなければいけないというプレッシャーを自分にかけてしまった」

アスリートへのひぼう中傷やメンタルヘルスの問題は、現代のスポーツ界にとって避けられない課題だ。
テニスの全仏オープンの大坂なおみや、東京オリンピックでの体操女子アメリカ代表のエースシモーネ・バイルズなど、トップ選手が訴えたことで広く知られるきっかけになった。

それについてキムはー
「誰もがメンタルヘルスと闘っていて克服するのは簡単なことではない。彼女たちがしたことは、それが普通なんだということを人々に示すことだと思う」

そしてこう続けた。
「前回のオリンピックのあと、私が学んだ最大の教訓は、可能なかぎりオープンであること。正直なところをすべてを吐き出して、自分の心の中にあるものをみんなに知ってもらうことは、私にとっては本当に健康的なこと」

再びスノーボードの世界に戻ってきたキムは、2回目のオリンピックでも難しいエアを次々と決めた。
決勝では94.00の高得点でオリンピック連覇を果たし笑顔を見せた。

「いつか、小さな女の子が私の話を聞いて『嫌なことがあってもいいんだ。諦めないで頑張ろう』と思ってくれたらいい。そうすれば、前に進むことができて、最後にはよりよい場所にたどりつくことができる。それが私の目標」

若き金メダリストの新たな目標もすぐにかなえられるに違いない。

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