アスリート×ことば

スポーツは平和なくしては成り立たない

スポーツは平和なくしては成り立たない

国枝慎吾 車いすテニス

2020年1月。車いすテニス界の第一人者は、さらりと言い切った。

「今の自分がキャリア史上1番強い」

四大大会のシングルス優勝回数は20回以上、パラリンピックでは単複合わせて3つの金メダル獲得。積み上げてきた輝かしい成績の数々でさえ、30代半ばを過ぎてなお通過点でしかないという。

“打倒・国枝”を掲げるライバルたちとの切磋琢磨により、この10年で車いすテニスの競技レベルは一気に高まり、以前のように勝ち続けることは難しくなった。

「昔は何が何でも勝てばいいと思っていた。
今は『負けを受け入れ、どう勝ちにつなげるか』を楽しんでいる」

得意なバックハンドの大改造、使い慣れた車いすの見直し。
常にアップデートを怠ることなく、厳しい戦いに身を投じることに誇りを抱いている。

2020年最初の四大大会、全豪オープン。国枝は10回目の優勝を果たし“今”が1番強いことを証明した。
しかし新型コロナウイルスの影響により東京パラリンピックは延期に。5回目の大舞台へ順調なステップを踏んでいるそのさなかだった。

「体も気持ちも力が抜けた」

延期の決定から3週間がたった4月15日、ありのままの心境を初めて明かした。
落胆の色は隠せない。
だが、それ以上に、世界が直面する危機を受け止め、スポーツの価値をかみしめていた。

「スポーツは平和なくしては成り立たないんだな、とこの数か月の間に本当に痛感している。
人を明るくするし、アドレナリンも出るし、ポジティブな感情をもたらしてくれる。
スポーツを見る機会が限りなく少なくなったからこそ感じている」 

ここ数年、国枝はテニスのテーマに「リラックス」を掲げてきた。
抜く時は抜き、必要な時に緊張の糸を張る。
その心の備えが未知のウイルスとの戦いを乗り越えるすべになっているという。

「今は、ある程度、自分の電源を切っている。それでいいんじゃないかな。
この問題が収まれば、おのずと気持ちも『よし、やるぞ』となる。
ウイルスが終息した後に、みんながスポーツの価値を改めて感じる機会がやってくると期待したい。
そうなったら、僕自身も熱くなるような試合をまたやりたい」