一番大事なのは自分がどれだけラグビーってスポーツを楽しめるか

姫野和樹

ラグビー

2019年のラグビーワールドカップ日本大会。ボールを奪う”ジャッカル”で名を馳せた姫野和樹。今や日本代表の「顔」の1人でもある。

2021年、彼は大きな挑戦をした。ラグビーの本場、ニュージーランドでの武者修行だ。世界最高峰のスーパーラグビー、ハイランダーズの一員として2月に海を渡り、3月に試合デビュー。4月には初先発し5月にニュージーランドの国内大会で新人賞に輝いた。順調に結果を残していた…ように見えた。
しかし、人知れず大きな危機を迎えていた。

「新人賞を獲得したときに、ちょうどチームメイトの部屋から1人暮らしに移行したときだった。メンタル的に落ち込んでしまってモチベーションが上がらなくて。あっち行ったら絶対言わんとこって思ってたことばがあって、その“帰りたい”ってことばをポロッと言ってしまって。相当メンタルやられてるなと思った。新人賞を取れたという目に見える形で結果を残せた安堵感などが一気に来てしまって、メンタルが本当に落ち着かなくて、日本に帰りたいと思った」

その背景にはみずからに課したプレッシャーがあった。

「自分が結果を残さなければ今後、日本人がニュージーランドでプレーすることはない」
「今後の日本人としての価値が自分の結果で変わってくる」

自分が失敗すれば日本への評価が失墜する。”強すぎる”ともいえる覚悟が次第に自分を追い詰めていったという。そこで立ち返ったのが原点だった。

「『ラグビーを純粋に楽しもう』というメンタルに変えて。どれだけ結果が悪くても、そんなのもういい。一番大事なのは、自分がどれだけラグビーってスポーツを楽しめるかということにフォーカスして、この環境を楽しもうって。結果は見ずに、自分自身でラグビーっていうスポーツを楽しもうっていうメンタルに持って行ったら、そのあとはすごく楽しくて。すごく生き生きしながらラグビーができた」

日本代表の姫野ではなく、いちラガーマンとしてラグビーを楽しむことが導き出した答えだった。そして、7月から次の代表招集の9月までのオフ期間。姫野はニュージーランドでの経験を生かしてメンタルを整えることに注力していた。

「いったん全部切らないと代表へのモチベーションが上がらないと思ったので、とりあえず何もせずに自分の過ごしたいように日々を過ごした。自分自身のモチベーションのところにフォーカスして気持ちを作った。ニュージーランドでメンタル的なキャパシティーが大きくなった状況に応じて必要なものを理解して、メンタルを変えられたのは、一番大きな成長した要因、要素だなと思っている」

10月23日、国内では2年ぶりとなるテストマッチでの強豪オーストラリアとの対戦。敗れはしたが、姫野はボールを奪いにいく得意のプレーで相手の反則を誘うなど食らいつく姿勢を示し続けた。

「自分は4年前、オーストラリア戦で日本代表としてデビューした。4年間でどれだけ成長したかがわかるような試合で自分としては満足しているが、チームとしては悔しい」

強豪相手の試合でも柔軟で強じんなメンタルを手に入れたことを実証してみせた27歳。確かな手ごたえをつかみ2年後のワールドカップフランス大会に向けて再び前進しようとしている。

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