明日も野球を好きでいる

藤平尚真

野球 #やっぱ好きだなぁ

2022年8月21日、楽天の藤平尚真は仙台で行われたロッテ戦に先発し、6回途中を無失点の内容で勝利投手になった。

実に4年ぶり、本拠地ではプロ6年目で初となる白星だった。

「長かったですね。正直、本当に勝てないんじゃないかなって思う時もありましたし、
何をやっても、うまくいかない時間もあったので」

6年前(2016年)の夏の全国高校野球。横浜高校のエースだった藤平は、最速152キロの本格派ピッチャーとして甲子園球場を沸かせた。

近い将来、自分はどうありたいか。甲子園での活躍後、ドラフト会議で楽天から1位指名を受けた18歳は、NHK仙台放送局の番組に出演した際、この質問に対し次のことばを色紙に書いた。

「明日も野球を好きでいる」

プロの舞台で打たれたり苦しんだりすることもあるかもしれないが、そんな時も野球が大好きという気持ちを忘れずにい続けたい。新たなスタージでの道しるべとして掲げた。


プロ入り後は順風満帆ではなかった。

1年目に3勝、2年目には4勝をマークしたが、周囲のさまざまなアドバイスに耳を傾けるうちに自分を見失った。気づけば投げ方さえ分からなくなっていた。
3年目以降は勝利から遠ざかり、去年は1軍で投げることすらなかった。

「もうマウンドには上がれません。自分がマウンドに上がってもチームに迷惑をかける」

チームのトレーナーにこう漏らすこともあったと言う。
うつむくことの多い時間。それでも、あのことばを見失う瞬間はなかった。

「野球自体はずっと好きでいました。一日一日、どうにかして、きょうをむだにしないように、しっかり練習して、しっかり1軍で投げられるように、それだけを考えていました」

悩み抜いてことし、たどりついたのが、目の前の一球に純粋に向き合う姿勢だった。
試合前に必ず行うルーティンを見直した。

ブルペンに左足で入る。

マウンドに上がってから遠いところを見つめる。
かつてはルーティンが20個くらいあったという。

「客観的に自分を見られるようになってきて、“そんなんじゃバッターと勝負できないな”と、やっと気付けたんです」

よけいなものをそぎ落とすと、迷いなく腕が振れるようになった。

今シーズン、ストレートの球速は平均147キロで、3年前より7キロ上がった。持ち味のストレートを取り戻し、新しい決め球のチェンジアップにも意欲的に取り組んでいる。

「やっと1軍のレベルのスタートラインに立てたかな。期待に一つ一つ応えていけるようなピッチングができたらいい」

〝明日も野球を好きでいる〟

藤平は原点を忘れず、これからも投げ続ける。

野球 #やっぱ好きだなぁ