どん底があっての今だと思う

ケンブリッジ飛鳥

陸上

2020年、3年ぶりに100mの自己ベストを更新し“復活”を果たしたケンブリッジ飛鳥。苦難を乗り越えたその表情には笑顔が戻っていた。
ケンブリッジの名が世界にとどろいたのは、2016年のリオデジャネイロオリンピック。男子400mリレー決勝でアンカーを務め、隣を走るジャマイカのウサイン・ボルトに続いてフィニッシュラインを駆け抜けた。アメリカもイギリスも抑えての歴史に残る銀メダルだった。

テレビで何度も流されたのは、ボルトが隣を走るケンブリッジとの距離を確認するように思わず視線を送ったシーン。ボルトの驚いた表情とともに多くの人の記憶に刻まれた。
日本短距離界のスターに駆け上がったケンブリッジ。その後、順調に記録を伸ばすと思われたが、度重なるけがの影響で伸び悩んだ。

期待されていた100m日本選手初の9秒台は桐生祥秀に先を越され、2019年の日本選手権では決勝で最下位という屈辱まで味わった。
ケンブリッジはかつての輝きを完全に失い、悩み、自分自身と戦っていたことを取材で明かした。

「どうやったら良かったときの自分の走りに戻れるのだろう」

ケンブリッジは東京オリンピックを意識して、みずからの走りを大胆に見直した。新たなトレーナーと基礎から体作りに取り組み、これまであまり意識してこなかった体のバランスに重点を置いた。例えば片足でのスクワット、地味でつらいトレーニングだが片足で行うことでバランス感覚が鍛えられ、走りに生かせる筋肉も増えた。
こうした地道な努力が、走りの安定だけでなく、これまで決して得意とはいえなかったスタートの改善にもつながった。

2020年8月福井の大会で実に3年ぶりに自己ベストを更新。そのときに出した10秒03は、2020年の国内最速のタイムで、オリンピック代表の有力候補に再浮上した。
このレースの直後、グラウンドに寝転がって空を見上げたケンブリッジは思った。

「やっと自己ベストを更新できるまで戻ってこられた。悔しい期間があってこその今なんだな」

シーズン終了後、改めて1年を振り返ってもらった。

「久しぶりにベストを更新できて心の底から走るのが楽しいと思えた1年だった。どん底の時期もあったけど、もがきながらやってきて、自分を信じてきて本当に良かった」

苦難を乗り越えようやく戻ってきたケンブリッジ。笑顔に満ちたその顔は来年の東京オリンピックをしっかりと見据えていた。

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