挑戦しないで終わるほうが私は後悔する

成田真由美

パラ競泳

パラスポーツの世界で成田真由美と言えば、正に「レジェンド」と呼ばれるにふさわしい選手だ。これまでにパラリンピック5大会に出場し、獲得した金メダルの総数は、日本選手最多の15個。「水の女王」とも称される。
しかし、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で「競技人生の集大成」と位置づけた東京パラリンピックの延期には、弱音が出た。

「毎日、苦しい練習をするじゃないですか。
でも1年後、私はもう選手じゃないって思えていたから頑張れていた部分があったんです。
この苦しい練習を、もう1年、やらなきゃいけないのかと」

理由の1つが年齢との戦いだ。成田は49歳。
多いときに1日4000m泳ぐなど、トレーニングの量はむしろ増えているが、疲労からの回復のスピードは徐々に遅くなっていることを実感しているという。

さらに成田は、新型コロナウイルスによって命の危険にさらされるリスクが高い。
中学生で脊髄炎を発症して下半身が動かなくなり、さらにその後、交通事故でけい椎を損傷したことで呼吸機能に影響が出ているからだ。
肺年齢は94歳と診断され新型コロナウイルスによる肺炎にかかれば、重症化しやすい。
それでも、延期が発表された直後の週末、成田の姿はプールにあった。
自分を追い込み続けるいつもの成田だった。気持ちを切り替えた理由をこう説明してくれた。

「挑戦できることが目の前にあるんだったら、挑戦しないで終わるほうが私は後悔すると思ったんです。
挑戦できることって生きている中で幸せなことですし、目の前にあるチャレンジできるものをチャレンジしないで終わるのは一生後悔すると思った」

その後、練習拠点がある神奈川県には緊急事態宣言も出され、プールは使えなくなった。
それでも自宅でできるトレーニングを続ける。

「私にとっては選手生活が東京パラリンピックで終わると思っている。
とにかく毎日毎日、苦しい練習を乗り越えて、悔いのない納得いくようなレースをして終わりたい」

東京パラリンピックの招致にも携わったレジェンドは、年齢に抗いながら、そして、命の危険と向き合いながら再びパラリンピック出場を目指している。
この苦難を乗り越えて50歳で開幕を迎える地元開催のパラリンピックで輝く姿を今から思い描いている。

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