負けたくない、もっとうまくなりたい。その気持ちだけ忘れなければ必ずうまくなっていく

坂本勇人

野球

2020年11月8日。東京ドームで行われたシーズン最終戦。球場に詰めかけた3万人を超えるファンの期待に応えるように、巨人の坂本勇人は第1打席で史上53人目の通算2000本安打を達成。これは31歳10か月の史上2番目の若さであった。

「本拠地で決めたいとか、当初はまったく思っていなかったが、ファンのきょう決めてくれ、本拠地で決めてくれという期待感を感じていた。僕はちょっとそのプレッシャーに負けそうになった。個人的に、この試合でヒットを1本出さなきゃいけないということはなかなかないので、すごく緊張した」

坂本は高校卒業2年目から全試合に出場。プロ14年目を迎えた巨人の看板選手を突き動かしてきたのは負けん気と向上心だった。

「僕は常に負けたくない、もっとうまくなりたい、その2つがすごく強かった。今でもそうだが、その気持ちだけ忘れなければ、必ずうまくなっていく」。

大きな転機となったのが、巨人と大リーグのヤンキースで活躍した松井秀喜の指導だ。2013年から3シーズン、坂本は打率が2割6分台から7分台に低迷した。さらなる飛躍のため、打撃の根本という軸足の使い方を修正する決断をした。

「4、5年くらい前のキャンプの時、僕の感覚では、まったく想像もしていないような感覚でバッティングをしていたという話を聞いたので、それを試してみたらバッティングは軸足すごく大事だと。それは今でも僕のバッティングの中ですごく大事なところ。バッティングの根本を変えるというのはすごく怖いことなので、いいタイミングで変えられた。もう一つ上のレベルに行きたい、そういう気持ちから、大きく変えてみたのはよかった」

変化を恐れない姿勢は、通算2000本安打を達成した打席でも見られた。左右の手を少し離してバットのグリップを握っていたのだ。

「これも引き出しの1つ。きょうは普通に自分の感覚で打てないだろうというのがあった。思い切って1打席目からやったのが、ああいう結果になった。変える勇気、変化させる勇気をこういう試合で出せたのはよかった」

通算2000本安打を達成した次の打席、坂本は2001本目に19号ツーランホームランを打った。周囲からはすでに、過去、張本勲しかいない通算3000本安打の達成を期待する声も聞こえる。坂本もはっきりともう1つ上のステージを見据えていた。

「次の打席が大事だと思って打席に入った。今後もどんなにヒットを重ねようと『打ちたい』という気持ちは常に持ってやらないといけない。3000本という数字はもちろんあるが、まだまだ何も実感のわかない数字なので、2500本という数字をまずは次の目標にして1本1本やりたい」

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