どん底に落とされてもまた登ることができる

杉浦佳子

パラ自転車

東京パラリンピック、自転車ロード種目で2つの金メダルを獲得した杉浦佳子。2人の子どもを育てる母親でもある杉浦は、趣味のトライアスロンを続けていた5年前、自転車のレースで転倒。記憶力などが低下する「高次脳機能障害」と右半身のまひが残った。
事故のあと1週間の記憶がなく、退院する時に医者から「もう自転車には乗れない」と告げられたが、リハビリのために再び自転車に乗ると奇跡的に回復。恐怖心を少しずつはねのけ、“楽しみ”に変えてきたという。

「障害や年齢に関係なく、成長できることを証明したい」

よくとしの2017年からはパラ選手として本格的に競技に取り組み始めた杉浦。
トライアスロンで鍛えた持久力を武器に、ロードの世界選手権は2年連続で優勝。2018年には国際競技団体からその年に最も活躍した選手に選ばれるなど成績を残しパラリンピック出場という新たな夢につなげた。

「どん底に落とされてもまた登ることができる。そこから新しく歩む道はある。私を見て運動しようと思ってくれたら、健康寿命が伸びて80歳になっても『体は20歳です』という日本人がいっぱい増えてくれたらうれしい」

東京パラリンピックで2つめの金メダルは9月3日。女子個人ロードレース運動機能障害のクラスで、3日前のロードタイムトライアルでみずからがつくった日本選手のパラリンピックでの金メダル獲得の最年長記録を更新した。

「私が50歳というのはみんなわかっているから、もう年齢のことは言わなくていいからね」

大会の1年延期を追い風にしてパワーをつけることができたと勝因を話したが、何よりも原動力となったのはふだんからの前向きな姿勢だろう。

「ゴールの向こうには栄光が待っている」
「きょうは年齢は忘れた」
「最年少記録は二度と作れないけど最年長記録は作れる」

レースで力を使い果たし、その場に倒れるほどになっても大きな瞳を輝かせて彼女が発する言葉には年齢を感じさせない力があった。

パラ自転車