負けて得るものもあるけれど、勝つことのほうがもっと得るものがある

久保英恵

アイスホッケー

北京オリンピックで、初めて決勝トーナメントに進んだアイスホッケー日本代表「スマイルジャパン」。

長年、チームを背中で引っ張ってきたのが最年長の39歳、久保英恵だ。抜群のシュート力で中学生のころから日本代表に選ばれ、エースとして活躍。日本が4大会ぶりに出場した2014年のソチ大会は全敗に終わったものの、続くピョンチャン大会でオリンピック初勝利に貢献した。
それでも久保は歩みを止めなかった。

「試合を重ねるごとに『もっとできる』『結果を残したい』と思わせてくれた。オリンピックが次の目標を作ってくれた」

集大成として臨んだ北京大会。
経験を重ねて若い選手も育った日本は開幕から2連勝したが、久保は出場時間が限られ、得点をあげられない。
体力の限界も感じながら、ひと振りのシュートにかけていた。

予選リーグ第3戦に敗れ、第4戦は決勝トーナメントへ1位での突破をかけたチェコとの試合。延長戦でも決着がつかず、勝負はペナルティーショット・シュートアウトにもつれ込んだ。

前の試合もシュートアウトで敗れた日本。
その際に1人目で失敗した久保は、この日は監督にこう伝えていた。

「2人目だったら、必ず入れます」

長年の経験で、ゴールキーパーの癖を見極められればシュートを決められる自信があった。
さらに、みずからにプレッシャーをかけて集中力を研ぎ澄ませた。
1人目への対応を見て「相手は前に出てくる」と判断した久保。
一瞬のフェイントをかけてキーパーを前に引き出してから、鋭く股下を狙った。

止められたかに見えたが、転がったパックはわずかにゴールラインを越えた。

「得点をあげて、最後まで『氷上のスナイパー』だったと印象づけたかった」

ここぞという場面で見せたベテランの意地が、日本の劇的な勝利を引き寄せた。続く準々決勝は、銅メダルを獲得したフィンランドに大差で敗れたが、日本は今大会でまた一歩前進した。
次こそは、“メダル”。
その思いは若い世代に託した。

「負けて得るものもあるけれど、勝つことのほうがもっと得るものがある。勝ちにこだわって結果を残せば、絶対次に何かがある。あと4年、さらに成長してメダルを目指せる強いチームを作ってほしい」

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