自分の自信がパートナーの自信になるということに気付くことができた

保木卓朗・小林優吾

バドミントン

2021年12月に行われたバドミントンの世界選手権で、男子ダブルスでは日本勢として史上初の金メダルを獲得した保木卓朗と小林優吾の2人。“ホキ・コバ”と呼ばれるペアは、2021年シーズン、ツアー大会の「ワールドシリーズ」でも年間チャンピオンとなり、文字どおり「世界一」の称号をえた。

この最強ペア、東京オリンピックには代表の基準を満たすことができず出場できなかった。その後、東京大会代表のペア4人のうち3人が引退し。その穴を埋める形で遠征メンバーとして日本代表に入った。
当時は2人に対する風当たりが強かったという。日本代表の関係者からは「男子ダブルスが心配」と実力を不安視する声も聞かれていた。

保木卓朗
「遠征に入る時、周りの人には、男子ダブルスが日本代表の“穴”だと思われていた。見返してやりたいという悔しい気持ちがあった」

2人はともに福島県富岡町の同じ中学校出身。ペアは中学生のころから組んでいる。中学校の卒業式の直後に東日本大震災の津波が発生し、ふるさとがすべて津波にのみ込まれるさまを目の当たりにした。

被災者となった2人は「世界でタイトルを取って、見ている人の勇気や希望になりたい」と心に固く誓い、その思いを力に変えてきた。

ペアの特徴は、強打を持ち味にした攻撃的な戦術だが、大きな課題は小林の守備力だった。2020年シーズンは小林のレシーブミスが多く出て勝負どころで持ち味を発揮することができなかった。
それでも今回の世界選手権に挑む2人には揺るぎない自信があった。

小林優吾
「以前は自分が攻められて決められてしまうと、保木が自分をカバーしなければならず、それがプレッシャーになってしまいうまくいかなかった。海外遠征に向けて、毎日毎日、1時間くらいレシーブだけを居残りで練習し、自信をつけることができた」

小林が確かな成長を実感しながら臨んだ2021年12月の世界選手権。決勝は中国のペアとの対戦となった。過去6戦してわずか1勝と非常に分の悪い相手。
それでも小林は鍛え抜いたレシーブで、何度も何度も攻撃をはね返した。
決勝点は相手の鋭いショットをレシーブで返し、そのまま相手コートに落として決めた。お荷物とも言われかねなかったペアが、地道な努力で課題を克服し日本初の快挙を成し遂げた瞬間だった。

保木卓朗
「周りを見返したいという気持ちを小林と共有できたからこそ2人の思いが合わさって、この結果が生まれた。レシーブでも世界と戦える所まで来たことで、守備からでも攻撃からでも試合を組み立てることができて、相手に合わせて戦術を変えることができるようになった。研究されてもその上を行くことができた」

小林優吾
「金メダルが決まった瞬間は、今まで味わったことのない気持ちよさで最高の気分だった。保木にはずっと実力があったのに、自分はその実力に見合ってなかった。自分の自信がパートナーの自信になるということに気付くことができた。これからは追われる立場になるが、現状に満足せずに2人で頑張っていきたい」

中学生の時に経験した震災をきっかけに世界一を誓った2人。あれから10年余りにわたって苦楽をともにし、お互いの信頼を深めてきたからこその強さもある。
2024年、世界中の注目を集めるパリオリンピックの舞台で金メダルを手にした“ホキコバ”の2人が、多くの人たちの希望になる姿を想像してやまない。

バドミントン