休場するときは辞めるときという思いだった

大相撲

平成17年春場所の初土俵から、令和3年初場所まで休まず続いた出場は1090回。現役力士では、昭和以降3番目(当時)の記録。勢は、まさに“鉄人”とも言える土俵人生だった。
身長1m90cmを超える体格を生かした四つ相撲や、土俵際の小手投げが持ち味で、10年近くにわたって幕内で活躍した。
多くの相撲ファンは、関取での姿が印象に残っているかもしれないが、実は新十両まで5年以上も幕下での土俵が続いていた。

「勝てないときでも、腐らず、諦めずという気持ちで自分なりにここまでやってきた。体も細かったので大きくするために稽古して食べて…。今となっては幕下時代のいろいろな思い出がよみがえる」

一番の思い出は、ふるさとの大阪で行われた平成29年春場所。横綱 白鵬との取組で前に出続けて寄り倒し、金星を挙げたことだ。

「地元が盛り上がっていて、あの歓声は忘れられない。前に出ていくいい相撲だった。出しきった」

土俵の外でも人気を集めた勢は、テレビ番組やイベントなどで角界随一とも言われるプロ顔負けの歌唱力を披露してきた。

「歌うことは好きなので、気分転換やストレス発散としてこれからも歌っていきたい」

最後の土俵は、十両13枚目で迎えた令和3年初場所の14日目、大翔鵬との一番。その後、左手親指付近の脱臼骨折がわかり2回の手術を受けた。

「出たかったが出られる状況じゃなかった。最後の最後で休んでしまったが諦めずに、腐らず、よくここまでやってこれたと思う。16年間、全うすることが出来た」

“休むときは辞めるとき”と固く心に決めていたが、休場した千秋楽のあとも2場所すべて休んだ。およそ150日を要した引退発表までの間、葛藤し続けていたのかもしれない。

引退した勢は、年寄 春日山を襲名し、部屋付きの親方として後進の指導にあたる。

「心も体も丈夫な決して諦めない強い力士を育てていきたい」

頑丈な体と心で、長く第一線で相撲を取り続けた勢。最後は再び土俵に上がることを選ばず、信念を貫き通して土俵人生を終えた。

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