感動や勇気を与えるのが私の使命

瀬立モニカ

パラカヌー

本当なら瀬立モニカは、2020年9月5日、東京パラリンピック、カヌーの決勝の舞台で地元応援団の大歓声を浴びているはずだった。
東京 江東区出身の瀬立。カヌーですでに東京パラリンピックの代表に内定している地元期待の選手だ。しかし、新型コロナウイルスの影響でその舞台は1年後にお預けとなった。

「延期が決まって自分がやっている練習がどこにつながっているのか、目標を置けない環境が自分の中でつらかった」

それでもトレードマークの笑顔を取り戻すのに時間はかからなかった。秘けつは、1日、1週間、1か月先の目標を立てること。直近の目標を次々と掲げることで視界がクリアになったという。胸から下の筋肉が動かない瀬立。それならと筋力が残されている上半身を徹底的に鍛えあげた。
そして、体をカヌーに固定するシートを以前より堅いものに変えた。バランスを取りづらくはなるが、強化した筋肉から生み出される推進力をより効率的に水に伝えようというチャレンジだ。

2020年8月上旬、4か月ぶりに開かれたレースでは向かい風の難しいコンディションながら、200mを59秒台の好タイムでフィニッシュ。成長を実感した。

「スポーツが本当に楽しめる状況になったときに、感動や勇気を与えるのが私の使命だと思う」

9月の日本選手権。瀬立は55秒を目標に掲げて臨んだが、10秒以上遅いまさかの1分5秒超。レースのあと、瀬立は右胸の肋軟骨を疲労骨折し、痛め止めを飲んで出場していたことを明かした。当面は治療に専念し、年内は大会には出場しないことに-。それでも瀬立の表情は明るかった。

「調子が悪い中の大会は今までなかったので、本当にいい経験になった。来年、一番大切な東京パラリンピックでそういうことがないように前に進む」

オリンピックのカヌー選手も痛めることが多いという胸の疲労骨折。同じくらい練習が積めている証しだと「誇りに思っている」と笑う瀬立はどこまでも前向きだ。

2020年夏、瀬立がそっと、でも、力強く話してくれた一言を思い出した。

「私、本当に金メダルとりますから。期待して、見ていてくださいね」

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