栄光の架橋を超えて優勝したい

萱和磨

体操

2020年12月、全日本選手権で初優勝を決めた直後のインタビューで、萱和磨は、会場に向けてこう宣言した。

「日本の体操のレベルは確実に上がっていて、絶対に勝てると思っている。中国やロシアは強いが、来年の東京オリンピックまで、選手だけが勝つと思うのではなく、皆さんも日本が勝てると思って応援して欲しい」

そのことばには、体操男子の軸として、東京オリンピック、団体金メダルへの強い覚悟がにじみ出ていた。

萱にとってオリンピックは特別な場所だ。萱が体操を始めるきっかけとなったのは、2004年のアテネオリンピック。当時、まだ小学生だった萱は、団体で金メダルを決めた冨田洋之の鉄棒の演技に夢中になった。
「自分もオリンピックで記憶に残る演技がしたい」と、体操選手を目指すことを決めた。

12年後、萱はリオデジャネイロオリンピックの会場にいた。だが、演技をすることはなく、補欠として日本が団体金メダルを獲得した瞬間を会場のスタンドで眺めていた。
その時の悔しさもバネに萱は練習を重ね、日本代表の中でしだいに存在感を増し、2019年には代表の軸として活躍するまでになった。

初優勝を目指した2020年の全日本選手権。予選でトップに立った萱を、高校生の北園丈琉などが高得点をマークして追い上げを見せた。僅差での争いとなったなか、残すは萱の鉄棒の演技のみ。ひとつのミスが順位に大きく関わるプレッシャーのかかる場面だった。
それでも、萱は落ち着いていた。

「ここでうまくできなければ、オリンピックでもできるわけがない」

手放し技、そして最後の着地を決め、優勝を果たした。

直後のインタビューで「日本は絶対に勝てる」と宣言した萱は、その後の記者会見でみずからの体操の原点を踏まえ、目標を語った。

「どこかで栄光の架橋、アテネオリンピックを超えて優勝したいというのがある。オリンピックの団体金メダルは、それくらい思わないと、ただ金メダルを取りたいと思うだけでは、銀メダルになりそうな気がしている。最終演技者で最後に鉄棒を任されて、決めなければいけない場面で決めて勝つのが、僕の夢でもある。東京オリンピックで記録にも記憶にも残るような演技をしたいと思っている」

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