クリントン氏 初の女性大統領目指す

クリントン前国務長官が指名受諾演説を行い、共和党のトランプ氏を厳しく批判して初の女性大統領を目指す決意を強調しましたが、候補者選びで争ったサンダース上院議員の支持者らとの融和が課題として残りました。

外交戦略「同盟国とともに協調を」

クリントン氏は「われわれが脅威と混乱に直面しているのは明らかだ」としたうえで、「イラクのバグダッドやアフガニスタンのカブール、フランスのニースやパリ、ブリュッセル、さらには、カリフォルニア州サンバーナディーノやフロリダ州オーランドで、わわれれは、打倒すべき敵と戦っている。人々は不安を抱き、安心を求めている。同盟国とともに協調すればアメリカは強くなれることを知っている安定したリーダーを人々は求めている。アメリカの安全を守り、そのために働く人たちに敬意を払うことが、私の最優先事項だ」と述べて、大統領として安全保障政策は重要な課題だと述べました。

そして、「NATO=北大西洋条約機構の同盟国とともに、ロシアを含む脅威に立ち向かえることを誇りに思う」と述べて、NATOを批判した共和党のトランプ氏を念頭に、立場の違いを強調しました。

さらに、テロとの戦いについて、「過激派組織IS=イスラミックステートを打倒するため、ISの拠点を空爆し、地上軍を支援し、攻撃を防ぐために情報収集能力を強化し、インターネットを通じてアメリカの人々を過激化させようとする動きを断ち切る」と述べて、ISを打倒する決意を表明しました。

そのうえで、共和党の大統領候補のトランプ氏について、「トランプ氏は、自分は軍人よりもISのことをよく知っていると言ったが、それは違う。大統領選挙の選挙戦さえも運営できていないトランプ氏に、最高司令官としてのふさわしい気質があると思いますか? ホワイトハウスの執務室で本当の危機に直面しているトランプ氏を想像してみてください。ツイッターでからかえるような相手は、安心して核兵器を委ねられるような人ではない」と述べて、トランプ氏は大統領にふさわしくないと批判しました。

そして、「アメリカの強さは攻撃することではなく、賢明に、冷静な判断で、力を的確な戦略で行使することだ。私はそのような最高司令官になることを誓う」と述べて、自分こそが大統領にふさわしいと訴えました。

貿易協定はアメリカの利益を最優先

貿易について、「不公平な貿易協定を結ぶべきではないと思うなら、中国に対抗すべきだと思うなら、そして、国内の製造業者や鉄鋼業者、自動車メーカーを支えるべきだと思うなら、私を支持してほしい」と述べて、TPP=環太平洋パートナーシップ協定について反対は明言しなかったものの、貿易協定については、アメリカの利益を最優先する考えを強調しました。

また、共和党の大統領候補となったトランプ氏について、「トランプ氏は『アメリカ第1主義』を掲げているが、なぜ、トランプ氏のブランドとして売られているネクタイはコロラド州ではなく中国で製造され、背広はミシガン州ではなくメキシコで製造され、家具はオハイオ州ではなくトルコで作ろうという発想になるのだろうか。アメリカを再び偉大にしたいと掲げるなら、まずはアメリカでものを再び作り始めるべきだ」と述べて、トランプ氏の訴えている貿易政策には矛盾があると批判し、アメリカの産業を守れるのは自分だと支持を呼びかけました。

ニュース画像

初の女性大統領目指す決意

クリントン氏は「今夜、私たちはより完全な国を目指す道のりのなかで、記念すべきときを迎えた。主要政党が初めて女性を大統領候補に指名した。母として、娘として、この日が来たことがとてもうれしい。男性にとっても、喜ばしいことだ。なぜなら、障害が取り払われると、すべての人に道が開かれるからだ。天井が破られると、見えるものは空だけだ」と述べて、民主党が主要政党として初めて女性を大統領候補に指名したことをたたえました。

そして、「アメリカのすべての女性と少女がふさわしい機会に恵まれるまで進んでいこう。社会保障を強固にし、女性が自分の健康保険を決められる権利を守りたいのなら、そして、あなたの働く母親や、妻、姉妹や娘が平等な賃金を得るべきだと思うなら、ともに歩んでいきましょう」と述べて、初の女性大統領に就任し、女性の権利保護のために尽力する決意を表明しました。

トランプ氏を繰り返し批判

クリントン氏は受諾演説の中で、先週、共和党のトランプ氏が行った受諾演説の内容を繰り返し取り上げ、トランプ氏を批判しました。

クリントン氏は「先週、共和党の全国党大会で、私たちはトランプ氏の考えを聞いた。トランプ氏は、私たちを引き裂き、世界からも引き離そうとしている。トランプ氏は共和党を明るい朝から暗闇の夜中に連れ込もうとしている。トランプ氏は私たちに未来を恐れさせ、お互いを恐れさせようとしている」と述べました。

そのうえで、「私たちは恐れない。これまでのように課題に立ち向かう。私たちは壁を築く代わりに、仕事を求める人たちがきちんと仕事を得られるような経済を作る。私たちはアメリカに貢献する意思のある多くの不法移民が国籍を取得できる道筋を作る。宗教を禁止せず、アメリカのすべての人たち、そして、同盟国とともに、テロとの戦いに挑む」と述べて、メキシコとの国境に壁を築くなどと主張しているトランプ氏を厳しく批判しました。

さらに、クリントン氏は「トランプ氏は、自分1人で世の中を立て直すことができると言ったが、本当にできるのか。トランプ氏は、前線で戦っている軍や、危険に立ち向かっている警察官や消防士、医師や教師など、多くの人たちのことを忘れている。アメリカ人は自分1人で立て直すことができるとは決して言わない。私たちは共に立て直すことができると言うのだ」と述べて、「私しか世の中を立て直すことができる人はいない」と述べたトランプ氏を非難しました。

また、クリントン氏は「トランプ氏は70分以上もしゃべったが、何1つ解決策は示さなかった。トランプ氏は自分の政策を語ることが好きではないことが分かる。気づいている人もいると思いますが、私は自分の政策を話すことは大好きですけどね」と述べて、トランプ氏が長時間にわたって演説を行ったにもかかわらず、具体的な政策を何も示さなかったと批判しました。

サンダース氏の健闘たたえる

クリントン氏は「選挙戦で経済格差などの問題を前面に掲げ、多くのアメリカ人、特に若者の関心を高めた」と述べて、サンダース氏の健闘をたたえました。

そのうえで、サンダース氏の支持者に対し、「全米のサンダース氏の支持者に知ってもらいたい。私は皆さんの声を聞いていた。あなたたちの目標は私たちの目標でもある。アメリカは皆さんのアイデア、エネルギー、そして、情熱を必要としている。一緒に行動してこそアメリカが前に進み、真の変化をもたらすことができる」と述べ、支持を訴えました。

さらに、サンダース氏が訴えてきた大学の学費の無償化について、「サンダース上院議員と協力して、中間所得者層に対して大学の学費を無料にすることを目指す。また、すでに学費の借金を抱えている人たちを解放する」と述べて、これまでサンダース氏を熱狂的に支持してきた若者たちに支持を訴えました。

銃規制の強化を目指す

銃による犯罪が相次いでいることについて、「職務中の警察官などが銃による犯罪によって死亡している事実を見聞きしているのに、何もせずにいられるだろうか。これまで何十年もの間、銃規制の問題は解決するのがとても難しく、政治的にとても触れづらい問題だとされてきた。アメリカの安全を守ることを真剣に考えているなら、銃規制に消極的な団体とつながりのある大統領を選んではならない」と述べ、銃規制を実現するため、クリントン氏への支持を呼びかけました。

一方で、クリントン氏は「銃を所持する権利を剥奪しようとしているわけではない。所持している銃を取り上げるつもりもない。銃を所持するべきではない人たちに皆さんが撃たれてほしくないだけだ」とも述べ、銃を販売する際に購入者に対して犯罪歴の有無などの事前審査を徹底するなど、さらなる銃規制を目指す姿勢を示しました。

雇用問題を最優先に

雇用問題について、「大統領としての私の重要な任務は、アメリカ国内でよりよい雇用と機会を作り出し、賃金を引き上げることだ」と最優先で取り組んでいく考えを示しました。

そのうえで、「大統領に就任してから100日以内に、第2次世界大戦以降、最大の投資を実現する法案を民主・共和両党と協力して通過させ、賃金の高い、新たな雇用を創出する」と述べ、さまざまな投資を通じて、中間所得層の安定した収入と暮らしを守る考えを強調しました。

特に、インフラ投資については、「雇用を生み出すだけでなく、将来の雇用の基礎を築くことになる」と述べて、促進する考えを示しました。さらに、若者の雇用については、「4年制の大学への進学だけが、よい雇用への唯一の道となるべきではない。より多くの人が働くために必要な技術や取り引きの方法を学べるよう手助けしていく」と述べて、若者の職業訓練を充実させ、格差の是正を目指す考えを示しました。

医療保険制度改革の成果強調

オバマ政権が推進してきた医療保険制度改革について、「新たに2000万人の国民が保険に加入できたが、オバマ政権は、その成果に対する正当な評価を得ていない」と述べ、これまでの改革の成果を強調しました。そのうえで、「アメリカのすべての男性、女性、子どもが健康保険に入る権利があると考えている人たちは、私たちに加わってください」と述べて、クリントン氏への支持を呼びかけました。

「深まる分断を癒やさなければならない」

クリントン氏は「銃規制だけでなく、人種や移民などの問題についても、深まる分断を癒やさなければならない。組織的な人種差別に直面し、命を軽く見られていると感じている黒人やヒスパニック系の若者の気持ちに思いをはせてみよう」と述べて、人種問題に取り組む姿勢を強調しました。

さらに、白人の警察官が銃撃される事件が相次いだことに関連し、「毎日、出がけに愛する家族にあいさつをして危険な任務に向かう警察官たちの気持ちを考えてみよう」として、警察官に敬意を表しました。

その一方で、「刑事捜査の在り方などを改革し、警察官と地域の間の信頼関係を回復する」と述べて、人種差別に基づく捜査が行われないよう、対策を強化する考えを示しました。

包括的な移民制度改革を

移民問題について、「国境に壁を築くのではなく、人々がよい仕事に就けるような経済を築いていく」と述べて、移民を否定的にとらえるのではなく、肯定的にとらえるべきだと強調しました。

そのうえで、「懸命に働く多くの不法移民労働者がアメリカ経済に貢献しているのに、彼らを強制送還することは自滅的で、非人道的な行為だ。包括的な移民制度改革を進めれば、私たちの経済は成長し、移民の家族たちがともに暮らせるようになる。これこそが正しいことだ」と強調し、移民の流入を防いだり、強制送還を徹底したりするよりも移民制度の改革に取り組むべきだという姿勢を示しました。