共和党 政策綱領〜妥協の産物の側面も〜

共和党の事実上の公約となる政策綱領では、トランプ氏が掲げてきたメキシコとの国境に壁を築くべきだという主張は盛り込まれた一方、TPP=環太平洋パートナーシップ協定からの離脱については、党内の意見も反映させ、直接の言及を避ける形となりました。トランプ氏の主張が反映される一方で、党主流派の意見も取り入れられ、妥協の産物という側面もにじませています。

外交・安全保障政策

オバマ政権は「弱腰外交」

外交・安全保障政策について、「民主党の最高司令官が軍に対し、8年近くにわたって、戦略的、観念的な制限を行ったことで、敵はつけあがり、アメリカの安全保障は大きなリスクに直面している」として、オバマ政権の政策を「弱腰外交」だったと強く批判しています。

特に、ヨーロッパでのミサイル防衛計画を抜本的に見直したことは「ロシアの機嫌をとった」としているほか、ロシアと結んだ核軍縮条約「新START」は実効性に乏しく、「アメリカが核弾頭数を減らす間にロシアは増やした」と主張しています。

また、南シナ海での中国の海洋進出やウクライナ問題を巡るロシアへの対応、そして、過激派組織IS=イスラミックステートへの対策などが不十分で、事態を悪化させたと批判しました。

そして、アメリカは「世界のリーダーとしての本来の役割を再び担うことが求められている」としたうえで、「アメリカが弱くなると、暴政や不正な行為が横行する。共和党は、アメリカ軍を地球上で圧倒的に最強の軍隊に立て直す。危機に直面しているとき、アメリカはよみがえる」としています。

具体的には、敵国の利益になる軍縮条約を廃止し、アメリカのミサイル防衛を強化するほか、空軍や海軍の規模が縮小されて十分ではないとして、オバマ政権が進めている国防費の削減も見直す方針を示しています。

さらに、「核兵器の近代化を行わなければならない」として、オバマ政権同様、新型の核兵器の開発を進める考えを示すとともに、「アメリカの核の傘に守られているかぎり、核武装の必要はないと考えている同盟国との関係を再構築する」として、核政策を見直す可能性を示唆しています。

一方、トランプ氏は、日本や韓国に駐留するアメリカ軍の経費を日本などが全額負担すべきだと主張していましたが、綱領には盛り込まれませんでした。

アジア太平洋地域に積極的に関与

アジア太平洋地域の外交・安全保障については、「アメリカは、日本、韓国、オーストラリア、フィリピン、そして、タイとは、経済面、軍事面、文化面で結びつきのある太平洋の国である」として、積極的に関与していく姿勢を打ち出しました。そして、こうした国々とともに、北朝鮮で人権が守られるようにすることを目指すとしています。

また、北朝鮮については、「中国政府には、キム一族による奴隷国家を変えることは当然のことで、避けられないことだと認識してもらい、核の脅威からすべての人々を守るために、朝鮮半島に変化をもたらすよう促すことを強く求める」として、中国に対し、北朝鮮に対する影響力を行使するよう求める考えを示しました。さらに、北朝鮮に完全な非核化を求めていく方針に変わりはないことを改めて強調しています。

中国については、「中国の行動は、アメリカと中国の将来の関係に対するわれわれの楽観的な観測を否定してきた」として、中国の宗教弾圧や社会の自由度は悪化しているなどとして中国を批判しました。

さらに、南シナ海における中国の海洋進出について、「オバマ政権の自己満足が中国政府と軍をつけあがらせ、南シナ海で脅迫行為をさせ脅威を高めた」などとして、オバマ政権の対応を弱腰だと批判するとともに、中国に対しても厳しい姿勢を示しています。

一方、これまでトランプ氏は日本について発言してきましたが、政策綱領ではひと言触れただけで、それ以上の言及はありませんでした。

オバマ政権が中東を混乱に陥れた

中東地域の外交・安全保障については、「中東は、第2次世界大戦以降、最も危険な状態になっている。歴代の大統領は、アメリカの国益とイスラエルの安全を優先してきたが、現在は、大統領と国務長官の意味の無いスタンドプレーに変わってしまった」として、オバマ政権の失策が、中東を混乱に陥れていると批判しました。

特に、イランの核開発問題を巡る合意については、「大統領と交渉国の個人的な合意に過ぎない」としたうえで、イランは今も核兵器や弾道ミサイルの開発を続け、同盟国であるイスラエルに脅威を与えていると指摘しています。

また、オバマ政権が中東の民主化運動「アラブの春」への対応を誤り、地域を不安定にさせたことで、過激派組織IS=イスラミックステートの勢力拡大を許し、シリアのアサド大統領の暴挙を抑えられないでいると批判しています。

そのうえで、「共和党政権は、国としての信頼を回復する。われわれは友人のために立ち上がり、敵に立ち向かい、ISを壊滅させる」として、オバマ政権が悪化させたと指摘されるイスラエルとの関係改善を目指すとともに、テロとの戦いを強化して中東に安定をもたらすと訴えています。

移民や難民の審査は厳格に

移民や難民の問題については、「国境は、国家の安全保障問題と同じで、移民や難民に関する政策はアメリカを危険にさらす可能性があることを忘れてはならない」として、移民関連の規制や国境警備を強化して、入国する移民や難民の審査を厳格に行うとしています。

一方で、トランプ氏は、国内外で相次いだイスラム過激派によるテロ事件を受けて、イスラム教徒の入国を禁止するべきだと発言していましたが、政策綱領には盛り込まれませんでした。

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TPP=環太平洋パートナーシップ

TPP=環太平洋パートナーシップについては、直接の言及はしなかったものの、アメリカが各国と結ぶ貿易協定について、「アメリカ第一主義に基づいたよりよい貿易協定が必要だ」として、なんらかの変更が必要だという立場を示しています。

貿易については、アメリカ経済の各分野において極めて重要だとしたうえで、「アメリカの関心や主権が適切に守られないのであれば、貿易協定は拒否すべきだ」として、アメリカの利益にならない貿易協定を見直す考えを鮮明にしています。

また、TPPを念頭に、「重要な貿易協定の議会承認は急ぐべきではない」として、協定の発効に必要なアメリカ議会での承認の採決がオバマ政権の下で行われるべきではないと改めて主張しています。そして、「アメリカが、他国の政府からその国への市場参入を制限される一方で、デザインや特許、ノウハウや技術などを盗まれることは許せない」としています。

さらに、中国を名指しし、為替操作を続けることや、アメリカ製品の輸入を阻止するために中国企業に補助金を出すことなどは認められないとして、中国を厳しく批判しています。

移民政策 国境を守る壁を建設

移民政策について、「アメリカの移民政策は、国益にかなうものでなければならない。外国人労働者と同じ職を争っているという不満から、アメリカ国民を守らなければいけない」として、アメリカ人の雇用が移民によって奪われるべきではないとしています。

そして、「テロや麻薬取り引き、人身売買などの犯罪がはびこる今、アメリカに数百万いるとみられる身分が証明されていない人たちの存在が、この国の安全と主権に深刻なリスクをもたらしている」として、不法移民によって犯罪のリスクが高まっていると指摘しています。

そのうえで、「われわれはアメリカ南部の国境を守る壁を築くことを支持する。壁は、車両や人の入国を止めるため、国境すべてで建設しなければならない」として、トランプ氏が主張してきたメキシコとの国境に壁を建設することが盛り込まれました。

また、トランプ氏が主張してきたイスラム教徒の入国禁止については、直接、言及はしないものの、「亡命者は、政治的な理由や民族、宗教的な迫害を受けた人に制限され、テロの温床と指摘される国や地域から来た人は、事前に念入りな検査を受けなければならない」としています。

さらに、一定の条件を満たした不法移民に3年間、滞在を認める移民制度改革をオバマ政権が目指したことについては、「国民の総意を無視し現行の法律をあざけるオバマ大統領に対して、国民は怒りと嫌悪を感じている」と非難しました。

銃規制の強化に反対

銃規制について、「合衆国憲法の修正第2条で守られた武器を所持する権利を支持する。合法的に銃を所持することで、家族や地域を守るという神から与えられた権利を行使できる」として、銃規制の強化に反対する立場を改めて強調しました。

また、オバマ政権が、殺傷力の高いライフル銃や特別な弾倉の販売禁止と、インターネットなどで銃を販売する業者に免許の取得や購入者の審査を義務づけることを目指してきたことについて、「違法な嫌がらせだ」と批判しました。

地球温暖化対策 オバマ政権を批判

地球温暖化対策について、石炭からの脱却を目指したオバマ政権の政策を批判し、覆すとしています。

オバマ大統領は、去年、地球温暖化対策の柱として火力発電所からの二酸化炭素の排出を規制する「クリーン・パワー・プラン」を打ち出しましたが、綱領では、これを「廃止する」としています。その理由として、「石炭は、豊富でクリーンで、手頃な価格で入手できる信頼できる資源だ。石炭を標的にした民主党の過激な議論から炭鉱労働者や家族を守らなければならない」と説明し、産業や労働者に配慮する姿勢をアピールしています。そして、石炭や石油、天然ガスなどの化石燃料や原子力などの開発を支援するとしています。

また、地球温暖化対策を話しあう国連の会議について、「政治的な組織体であり、公平で科学的な機関ではない。われわれは京都議定書とパリ協定を受け入れない」として、去年、国連の会議「COP21」で採択され、中国をはじめインドや日本など170以上の国と地域が署名した「パリ協定」には参加しないとしています。

さらに、国連の気候変動枠組条約にパレスチナが国家として参加していることを受けて、アメリカの法律に基づいて、事務局への資金拠出を停止すべきだとしています。

“オバマケア”で国の債務増大

共和党の新たな政策綱領で、オバマ政権が推進する医療保険制度改革、いわゆる「オバマケア」について、「医療保険制度の長期的な債務は数兆円に上っており、オバマ政権が推進する『オバマケア』が、これを悪化させた」として、国の債務を膨らませたと批判し、制度を変えるとしています。

具体的には、55歳未満の人を対象にした保険の選択肢を増やすとともに、保険会社の間のさらなる競争を促すことで保険料を抑えられるとしています。そのうえで、「高齢者や低所得者向けの医療保険には、1億人以上が依存している。政府の予算を使い切る前に、この重要な保険を 管理することが大切であり、われわれにはそれができる」と強調しています。

人種政策では具体策示さず

共和党の新たな政策綱領には、南部テキサス州やルイジアナ州で、警察官が銃撃されて死亡する事件が相次いだことに関連し、「近所や国境を警備していようが、組織的な犯罪を捜査していようが、いかなる警察官も感謝と支援を受けるに値する」としています。

そして、オバマ政権が黒人などへの人種差別に基づく捜査を防ぐためだとして、警察官が小型のカメラを身につけることや黒人の警察官の数を増やすことなどの対策を進めていることについて、「警察への敬意を欠いている」と批判したうえで、「暴力によって命を奪われた警察官をすべての国民とともに悼み、彼らの犠牲に報いるために、個人としても党としても法と正義を追求する」と主張しています。

そのうえで、「次の大統領は、警察に対する市民の信頼と治安状況を回復させなければならない」と述べ、警察と地域の間に信頼関係を築くとしています。

一方、アメリカ社会に根深い人種問題が存在することについては、「奴隷解放を宣言したリンカーン元大統領の党として、アメリカがこんにちも直面している人種問題について解決策を求め続けなければならない」と明記しましたが、具体策は示されませんでした。

人工妊娠中絶には反対の立場

「人の命は神聖なものであり、生まれてくる子どもには侵害されることのない生きる権利がある」として、人工妊娠中絶に反対する立場を明記しました。

また、民主党のクリントン前国務長官を支持する女性団体が人工妊娠中絶への資金援助などを行っていることに反対するとともに、すべての州に対し、中絶した胎児の細胞の売買や研究目的でヒトに移植することを犯罪として罰するよう求めています。

さらに、連邦最高裁判所が6月、人工妊娠中絶の処置は大型の医療機関並みの設備が整った施設でしか認めないなどとするテキサス州の法律について、違憲だと判断したことを非難しました。そして、人工妊娠中絶を認めない代わりに予期せぬ妊娠に対する財政的な援助や、産後や育児への支援を充実させると主張しています。

トランプ氏は、人工妊娠中絶を行った女性は罰せられるべきだと発言していましたが、その後、事実上撤回していて、綱領には盛り込まれませんでした。