民主党 政策綱領〜同盟国との関係強化〜

民主党の事実上の公約となる党の政策綱領では、アジア太平洋地域やヨーロッパで日本を含む同盟国や友好国との関係を強化していくとし、アメリカ第一主義を掲げて同盟国との関係見直しの姿勢を示す共和党の大統領候補トランプ氏との違いが表れています。
一方、貿易政策では、クリントン氏と指名獲得を争ったサンダース氏が主張した「TPP=環太平洋パートナーシップ協定への反対」は明記されず、クリントン氏陣営が主張した「TPPを含めてすべての貿易協定は雇用創出などの基準を満たすべきだ」という文言が記されました。

外交・安全保障政策

今後もアジア重視政策を推進

オバマ政権が進めてきたアジア重視政策について、「アメリカは、オーストラリア、日本、ニュージーランド、フィリピン、韓国、そしてタイとの関係をさらに深めていく」として、今後もアジア各国との関係を重視した政策を推進する考えを打ち出しました。

とりわけ日本を名指しして取り上げ、「日本に対するアメリカの歴史的な関与は誇るべきものになる」として、日本との同盟関係をさらに強化する姿勢を示しました。

また、北朝鮮について、「残虐な独裁者による、地球上でおそらく最も抑圧的な体制だ。何度も核実験を行い、長距離弾道ミサイルに核兵器を搭載してアメリカを脅かそうとしている」として厳しく非難しました。

そのうえで、「共和党のトランプ氏は北朝鮮の独裁者をたたえ、日本や韓国との同盟関係を放棄すると脅してこの地域での核兵器の拡散を促している」として、トランプ氏の政策は危険だと批判しました。

そして、「民主党はアメリカと同盟国を守り、中国に北朝鮮を抑制するよう促し、北朝鮮には違法な核やミサイル開発を放棄する道しか選べないようにする」として、同盟国との関係を強化するとともに、中国に対し北朝鮮への影響力を行使するよう求めていく考えを示しました。

中国については、「中国による不公平な貿易の慣例や為替操作、インターネットの検閲や侵害、それにサイバー攻撃に立ち向かう」として、中国に対して強い姿勢で臨む考えを強調しました。

そして、中国の海洋進出について、「同盟国や友好国と地域の連携を強め、南シナ海における航行の自由を守る」として、各国と協力しながら南シナ海の問題の解決を目指す姿勢を示しました。

その一方で、「気候変動や核問題などの分野で協力できることに期待している」として、米中関係を重視する考えも強調するとともに、「1つの中国」という中国の考え方を尊重しながらも、中国と台湾の緊張緩和に関与していく考えを示しました。

IS壊滅へ有志連合を率いる

「われわれは、過激派組織IS=イスラミックステートや国際テロ組織、アルカイダなどを壊滅し、そのほかのテロ組織の台頭を封じ込めなければならない。民主党は、イラクやシリアでISを壊滅させるため、同盟国や友好国との有志連合をこれからも率いる」として、テロとの戦いで指導力を発揮する考えを示しました。

そして、テロ組織に資金や武器、戦闘員を提供しているテロリストのネットワークの解体や戦闘員の勧誘の阻止を掲げているほか、具体的なテロ対策として、情報収集能力の向上や警備強化などを挙げています。

そのうえで、共和党の正式な大統領候補になったトランプ氏について、「トランプ氏のイスラム教徒への非難を受け入れない。トランプ氏の主張はアメリカの基盤である宗教の自由を侵害し、ISの非道な戦術に加担している」として、イスラム教徒の入国を禁止すべきだと主張してきたトランプ氏を批判しました。

さらに、「拷問や、テロの容疑者の家族の殺害など、アメリカ軍を戦争犯罪に加担させようというトランプ氏の提案を拒否する。そのような戦術はアメリカの原則に反し、道徳的な評価を台なしにする。また、中東での地上戦に大量に軍隊を送ろうとしているトランプ氏の考えも拒否する」として、トランプ氏のテロ対策は間違っていると主張しました。

中東情勢については、イラクとシリアで市民の平等な権利を尊重するより包括的な統治を促し、多くの難民を受け入れているレバノンとヨルダンを支援し、湾岸諸国との強固な安全保障上の協力を維持するなどして、イラクとシリアに安定をもたらすとともに、冷え込んだペルシャ湾岸諸国との関係を修復すると訴えました。

さらに、オバマ政権のもと関係が悪化したとされるイスラエルについて、「戦略的な利益や民主主義などの価値観を共有するイスラエルが、強く、安全でいることはアメリカにとって必要不可欠だ。だからこそわれわれはイスラエルの自衛の権利を常に支持し、国連の場などで、イスラエルの合法性を認めようとしない動きには反対していく」として関係を重視する姿勢を強調しました。

また、シリア情勢について、「トランプ氏は同盟国を遠ざけることで衝突を悪化させ、シリアでのISの勢力拡大を許してしまう。これは無謀な方法だ」として、トランプ氏の政策を批判しました。そのうえで、シリアの反政府勢力や国際社会、同盟国と協力してISを打倒し、アサド政権を退陣させて政権移行を実現させると主張しています。

イランの核問題を巡る合意については支持するとしたうえで、「イランが平和的に核開発を大幅に制限するという合意を破棄すべきだというトランプ氏の考えを拒否する」として、引き続き、合意に沿ってイランの核兵器保有を防ぐとともに、核開発の動きがある場合には、軍事行動を取ることも辞さない考えを強調しました。

そのうえで、「イランはテロ支援国家であり、人権を侵害し、ホロコーストを否定し、イスラエルを除外するとしている」として、イランを批判し、必要があれば制裁を強化すると訴えました。

世界のリーダーの役割に背を向けず

「われわれは経済を成長させ、国益や価値観を守り、そして国を安全にしてより繁栄させるためにもアメリカが世界をリードすべきだと信じている。アメリカは世界のリーダーとしての役割に背を向けてはならず、国民の命や雇用、安全をほかの国に委ねてはならない」として、アメリカが世界のリーダーとして他の国々をけん引すべきだという考えを打ち出しています。

そして、「外交や開発、経済の賢明な政治的手腕を通じて危機を回避し、安定をもたらし、安全を実現することができる。そして、われわれだけではなく友好国や同盟国とともに取り組むことでアメリカは強くなれる。われわれの同盟国とのネットワークは負担ではなく、大きな戦略的な利益への源だ」として、同盟国との関係をより強化させるべきだという考えを強調しました。

さらに、2001年の同時多発テロ事件の首謀者とみられるオサマ・ビンラディン容疑者の殺害や、アメリカを経済危機から救い出したこと、キューバとの国交回復やイランの核開発を巡る合意などを、オバマ政権の外交上の成果だと強調したうえで、アメリカを安全な国に保つためには、テロとの戦いや地球温暖化対策、中国の台頭などに立ち向かわなければならないとして課題に挙げました。

そのうえで、共和党の正式な大統領候補になったトランプ氏について、「トランプ氏はわれわれとは違ったアプローチをとっている。彼ほどアメリカの大統領、そして、最高司令官になる資格がない候補は、いまだかつていなかった」として、トランプ氏は大統領にふさわしくないと繰り返し攻撃しています。

また、「トランプ氏は、より多くの国々に核兵器を保有させ、アメリカ軍を戦争犯罪に加担させ、さらに国境に壁を築いて人種や宗教などに基づいて入国を制限しようとしている。地球温暖化対策や過激派組織IS=イスラミックステートなどの脅威にどのように対処するのか、何の戦略もなく、同盟国との関係を放棄し、敵国に力を与えようとしている。トランプ氏の危険で支離滅裂な政策は、われわれが成し遂げた進歩を台なしにしてしまう」として、トランプ氏の外交・安全保障政策はアメリカを危機にさらすと厳しく批判しました。

さらに、「トランプ氏は、アメリカは弱く、困難にあると強調しているが、われわれほど創造力があり他国の追随を許さない軍を保有し、世界で最大、かつ活発で革新的な経済を持つ国はない。アメリカは地球上のほかのどの国とも違う唯一の国だと信じている」として、オバマ政権のもとでアメリカは安全ではなくなったと訴えるトランプ氏に反論しました。

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「TPPへの反対」明記せず

貿易協定について、「あまりにも多くの国がルールを破り、あまりにも多くの企業が雇用を海外に流出させたことで、何百万人ものアメリカ人が裏切られてきた」として、アメリカの利益にならない貿易協定については再交渉する考えを示しています。

具体的には、アメリカが世界経済に対して開かれていることは重要だとしたうえで、「雇用や賃金の値上げ、国の安全保障の向上につながらない貿易協定には反対する」としてTPP=環太平洋パートナーシップ協定も含めて、いかなる貿易協定でも労働者が守られるべきだと訴えています。

さらに、「貿易協定は、不公平で違法な補助金を取り締まり、イノベーションを促進し、医薬品を利用しやすくするべきだ。環境や食の安全、健康を守るための政府の取り組みを妨げるような貿易協定には参加するべきではない」として、すべての貿易協定にこうした原則が適用されなければならないとしています。

また、「中国をはじめとした国々が、不正な取引をすることによってアメリカの労働者や企業が不利益を被っている。低価格での製品の販売や国営企業への助成、それに通貨の切り下げを行うと、アメリカの中間層が代償を払うことになる」として中国を批判したうえで、その責任を取らせると 主張しています。

サンダース氏の支持者にはTPPなどの貿易協定に強く反発する工場労働者などが多いことから、政策綱領では貿易協定に厳しい姿勢も一定程度盛り込まれることになったとみられています。しかし、「TPPへの反対」は明記されず、クリントン氏の陣営が主張した「貿易協定は雇用創出などの基準を満たすべきだ」という表現にとどまっていて、サンダース氏の支持者の間では依然、不満がくすぶっています。

トランプ氏の核政策見直しは危険

核政策について、「民主党は核兵器の拡散を防ぐ」として、引き続き核の不拡散に取り組む姿勢を打ち出しました。

また、「共和党のトランプ氏はアジアや中東での核兵器の拡散を促し、NPT=核拡散防止条約を弱体化させている。そして、過激派組織IS=イスラミックステートに対して核兵器を使用する選択肢を排除することをためらっている」として、正式に共和党の大統領候補になったトランプ氏が核政策の見直しを示唆していることは危険だと批判ています。

そして、核軍縮に向けて、NPT体制を強化し、核実験を全面的に禁じるCTBT=包括的核実験禁止条約の批准を目指すとしたほか、今後30年間でおよそ1兆ドルかかるとされる核兵器関連の計画の支出を、削減する考えを表明ました。

また、ヨーロッパについて、「アメリカにとって欠かすことのできないパートナーであり、世界の安全保障の礎だ。ロシアの侵略を阻止し、ヨーロッパ南部での安全保障問題に取り組み、直面したことのない経済的、社会的な課題に対処するため、ヨーロッパの友好国や関係国とともに立ち上がる」としています。

そして、「ロシアのプーチン大統領をたたえ、ヨーロッパの国々とNATO=北大西洋条約機構との関係を放棄しようというトランプ氏の脅しを拒否する。2001年のアメリカ同時多発テロ事件でNATOは、第5条に定められた集団的自衛権を初めて行使した。アメリカは同盟国がいるからこそ強くなれるのであり、第5条を維持する」として、NATOを重視する姿勢を強調するとともに、加盟国が攻撃されても同盟国として防衛義務を果たすと明言しなかったとして問題視されているトランプ氏を改めて批判しました。

銃規制強化の立場を強調

銃規制について、毎年3万3000人が銃によって死亡しているとしたうえで、「銃による暴力をなくすために賢明な行動をとるときがきた。購入者の審査の徹底や法律の危険な抜け道をなくす」として、銃規制を強化する立場を改めて強調しました。

具体的には、銃を販売する業者に対して、殺傷力の高いライフル銃や特別な弾倉の販売を禁止することや、購入者に犯罪歴や病歴がないかの審査を徹底することなどを掲げていて、テロリストなどの手に銃が渡ることがないよう、さらなる銃規制を行っていくとしています。

組織化された人種差別終結を

人種問題については序文で触れ、「アメリカの人種問題との戦いは、まだ終わっていない。キング牧師などが人種差別の撤廃を訴えてワシントン大行進を行ってから半世紀以上がたった今も、アメリカでは、誰が先んじ誰が行き遅れるか、人種が重要な要素を握っている。この現実に向き合い、たださなければならない」と記しています。

また、「民主党は、社会で組織化された人種差別を終結させるために戦う」としたうえで、公共政策の場で人種を平等に扱うよう促すほか、奴隷制を支持していた南北戦争の南軍の旗が一部の公共施設に掲げられていることについて、撤去するなどの取り組みを進める考えを示しました。

そして、白人の警察官が銃撃される事件が相次いでいることに関連し、「警察官と地域の信頼関係を再構築する。警察官は私たちの尊敬や支持を受けるに値する」とする一方で、人種差別に基づいて捜査が行われないよう、対策を強化する考えを強調しました。

具体的には、警察官に適切に力を行使するよう訓練することや、警察官の小型カメラ装着を普及させること、また、疑問の残る警察官による発砲事案は司法省が調査することなどを対策として挙げています。

現行の移民制度 有色人種に差別的

移民について、「アメリカは建国当初から世界中からの移民を受け入れている国だ。移民はただ単に解決すべき問題ではなく、アメリカの国民性や歴史を定義づけるものだ」と述べて、移民を肯定的に捉えるべきだとしています。

そして、現在の移民制度は有色人種に対して差別的で、今の時代に合ったものに制度を立て直す必要があると指摘しています。特に、不法移民が永住権の申請をすることで、逆に強制送還されていると指摘し、「愛する家族を残してアメリカを去るのか、隠れて不法に滞在し続けることを選ぶのか、胸が張り裂けるような板挟みに苦しんでいる」として、破綻している現行の移民制度は終わらせなければならないと訴えています。

さらに、オバマ大統領による移民制度改革の実行を目指し、アメリカ国籍の子どもを持つ不法移民の強制送還を一定期間免除するのに加えて、そうした子どもたちの運転免許の取得や大学への入学を支援するとしています。

また、トランプ氏がイスラム教徒の入国を禁止しようと訴えていることを念頭に、「アメリカに入国しようとする移民や難民に宗教的な検査を強制し、入国を除外しようとする試みを受け入れない。それはアメリカらしくないうえ、この国の建国の精神と相いれないものだ」と非難しました。そのうえで、「民主党は、トランプ氏の分断をよぶ見下すような発言を支持することはない」としています。

中間層の安定した収入と暮らしを

賃上げやさまざまな投資を通して中間所得層の安定した収入と暮らしを守ると訴えています。

最低賃金については、「家族を養うためにフルタイムで働く人たちは貧困状態にあってはならない。最低でも時給15ドルの収入を得られ、労働組合に参加する権利を持てるようにすべきだと信じている」として、賃金を引き上げるためにあらゆる努力をしていくと約束しています。

また、社会保障については重要性を強調したうえで、富裕層の負担を増やし収入が25万ドル(日本円で2600万円)を超える場合、さらなる課税の対象とすることで社会保障を拡大していく考えを示しています。

雇用については、「中間所得層の家庭を支えられるだけの収入が得られる雇用を創出することが何よりも大切だ」として、雇用を増やし経済の底上げにつなげることを掲げています。具体的には、インフラや再生可能エネルギーへの投資を促進させるほか、アメリカ国内の製造業を活発化させ、また、起業しやすくすることで雇用創出の拡大につなげていくと主張しています。

さらに、広がり続ける格差については、「現在の極端な格差は国民、企業、そして経済にとって悪だ。経済成長を促進するには中間層の繁栄が必要だが、中間層は減っている」として危機感を示しています。そのうえで、格差を是正するために、富裕層や巨大企業に対して増税する一方、中間層に対しては減税する方針を打ち出しています。

“オバマケア”の充実に力尽くす

オバマ政権が推進する医療保険制度改革、いわゆる「オバマケア」について、「医療を受けることは特権ではなく権利であり、われわれが進めてきた改革は国民に利益をもたらすものだ。オバマ政権による尽力で国民皆保険制度の達成という目標に向けて非常に大きな一歩を踏み出した」として、制度のさらなる充実のために力を尽くすとしています。

また、今も19の州では低所得者向けの医療保険制度を導入していないことについて、「すべての州で導入されるまで努力し続ける」として、住んでいる場所などに関わらず、すべての国民が平等に医療を受けられるよう引き続き改革を進める意欲を強調しました。

一方で、保険に加入していたとしても医療費は依然として高く、去年は全米でおよそ4分1の家庭で医療費を支払えないなど大きな負担となっているとして、「保険料を下げ、自己負担を減らし、処方箋が必要な薬の費用に上限を設けることによって医療費を抑える」と具体的な改革内容を示しています。

「パリ協定」の誓約達成を目指す

地球温暖化について、「差し迫った脅威であり、われわれの時代の明確な課題だ。トランプ氏は温暖化を『でっち上げ』と呼んだが、ことしもまた世界の平均気温の観測記録を更新しそうな勢いだ。アメリカでは各地で海面上昇に脅かされ、厳しい干ばつや山火事、巨大な暴風雨や鉄砲水に見舞われている」として、地球温暖化による異常気象を指摘しました。

そのうえで、温室効果ガスの排出量を2050年までに、2005年の80%以上を削減し、世界各国が協調して温暖化対策に取り組む「パリ協定」の誓約の達成を目指すとしています。

さらに、「二酸化炭素の汚染ときれいな空気を守り、世界の温暖化との戦いをリードしていく。クリーンエネルギーの開発による経済活性化を加速させ、地球を守るか高賃金の仕事を生み出すか、どちらか一方ではなく、両方を可能にする」として、温暖化対策と産業の育成を両立させる考えを示しています。そして、4年以内に5億枚の太陽光パネルを設置し、再生可能エネルギーによってすべての家庭に十分な電力を供給するとしています。

また、化石燃料に関連する企業を税の控除や国からの補助金の対象から除外するとともに、再生可能エネルギーの導入やエネルギーの効率化を促進するため、税制の優遇措置を行うとしています。そのうえで、アメリカ議会で地球温暖化を否定する人たちが科学に耳を傾けるのを待てないほど温暖化は重要なテーマであり、温室効果ガスの排出をあらゆる手段を使って削減するのは今しかないと訴えています。

そして、民主党は、オバマ大統領が発表した火力発電所からの二酸化炭素の排出を規制する「クリーン・パワー・プラン」を含めた二酸化炭素による汚染対策を遂行していくとしています。