トランプ氏受諾演説「アメリカ主義を」

共和党の大統領候補に指名されたトランプ氏が受諾演説を行い、「われわれの政策はグローバル主義ではなくアメリカ主義だ」と述べて、国益を最優先にする姿勢を鮮明にし、テロ対策の強化や保護主義的な貿易政策などにより、社会や経済を立て直すと訴えて支持を呼びかけました。

アメリカを再び偉大な国にする

トランプ氏は演説の中で、「われわれの政策はグローバル主義ではなくアメリカ主義だ。アメリカを最優先にしない政治家に導かれるかぎり、アメリカは他国から敬意を払われないだろう」と述べ、アメリカの国益を最優先にする姿勢を鮮明にしました。

そして、トランプ氏は「アメリカを信じよう。われわれが立ち上がり、アメリカが今でも自由と独立を保つ強い国かどうかを世界に示せるか、歴史に刻まれるときだ。すべての国民に約束する。われわれはアメリカを再び強くし、アメリカに再び誇りが持てるようにし、アメリカを再び安全な国にし、アメリカを再び偉大な国にする」と述べ、11月の本選挙に向けて改めて支持を訴えました。

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外交政策ではクリントン氏を批判

外交・安全保障政策について、「オバマ大統領がクリントン氏にアメリカの外交を任せてからアメリカは安全ではなくなり、世界は不安定になった。オバマ大統領は、クリントン氏の国務長官への起用をとても後悔しているだろう」と述べて、クリントン氏に国務長官としての能力がなかったと批判するとともに、任命したオバマ大統領の判断も疑問視しました。

さらに、トランプ氏は「クリントン氏の4年間の外交政策のあと何が起きたか。過激派組織IS=イスラミックステートが世界中にはびこり、リビアのアメリカ領事館で大使や職員が殺害され、エジプトは過激なムスリム同胞団の手にわたり、イラクは混とんとしている。イランは核兵器を保有する道を歩み、シリアは内戦や難民問題に苦しみ、それは今、ヨーロッパをも脅かしている。死、破壊、テロ、弱さ、これがクリントン氏の伝説だ」と痛烈に批判し、クリントン氏の失策が中東に混乱をもたらし、イスラム過激派の台頭を許したと非難しました。

また、トランプ氏は「アメリカを安全にするために国外で大きくなる脅威に立ち向かわなければならない。ISの野蛮人を打倒する」と述べました。そのうえで、テロと戦うためには、「世界で最も優れた情報収集能力を持たなければならない。そして、クリントン氏が、イラクやリビア、エジプト、そして、シリアで押し進めた失策を廃止する必要がある。その代わりに、ISを壊滅し、イスラム過激派を封じ込めることを共通の目標とする同盟国と取り組まなければならない。それは、アメリカのすばらしい同盟国、イスラエルを含む」と述べて、外交政策を立て直してテロとの戦いを進め、アメリカを安全にすると主張しました。

また、トランプ氏は、NATO=北大西洋条約機構について、「テロに適切に対応できておらず、時代遅れだ。加盟国の多くは、応分の負担を支払っておらず、アメリカがそのコストを負担している」と述べて、NATOの現状を批判しました。

さらに、トランプ氏は海外でのアメリカ軍の展開について触れ、「われわれはアメリカ軍を立て直す。そして、巨額の損失を強いられながらも防衛している国々に、相応の負担を求める」と述べて、日本などのアメリカ軍の駐留経費の負担を増やすべきだとする従来の主張を強調しました。

TPP「アメリカの製造業を破壊する」

貿易政策について、「私には、何十億ドルもの富を生み出すビジネスを行ってきた経験がある。今度は、アメリカを再び豊かな国にしてみせる。世界で最も優秀なアメリカのビジネスマンたちとともに、貿易協定を改善していく」と述べ、NAFTA=北米自由貿易協定をはじめとした自由貿易の協定を見直していく考えを示しました。

そのうえで、トランプ氏は「企業がアメリカの労働者を解雇して外国に進出するならばそのツケを払わせる」と述べ、企業が労働力の安い国に進出して、アメリカ国内の雇用が失われることを防ぐ考えを強調しました。

また、TPP=環太平洋パートナーシップ協定について、トランプ氏は「TPPはアメリカの製造業を破壊するだけでなく、外国政府の決定にアメリカが従わざるをえなくなるものだ」と批判しました。そのうえで、「労働者を痛めつけ、われわれの自由や独立を奪うような貿易協定には絶対に署名しないと誓う。複数の国と大規模な協定を結ぶようなことはせず、個々の国と個別に協定を結ぶ」と述べ、TPPについて否定的な考えを改めて示しました。

さらに、貿易赤字が続いている中国については、「中国による知的財産の侵害と低価格での製品の違法な販売、そして、破壊的な為替操作をやめさせる。中国などとのひどい貿易協定は徹底的に再交渉する」と述べ、中国を非難するとともに、強い姿勢で臨む姿勢を強調しました。

メキシコ国境に壁を築く

不法移民について、「アメリカからの追放を命じられた前科があるおよそ18万人もの不法移民が今夜も自由に出歩き、市民の平和を脅かしている。ことしになって不法に国境を超えた人の数は、すでに去年1年間の数を上回っている。公共の安全や資源への影響を考えることなく、何万もの人がわれわれのコミュニティーに流入している」と述べ、不法移民がアメリカ人の生活や安全を脅かしていると訴えました。

そのうえで、トランプ氏は「不法移民や犯罪グループ、薬物などがわれわれのコミュニティーに流れ込むのを阻止するため、国境に大きな壁を建設する。不法に滞在している多くの人たちに対し、規則を強化することで、われわれの法律が本来の役割を果たし、国境をまたぐ不法な行き交いが減り、平和が戻ってくる」と述べ、メキシコとの国境に壁を築くことを改めて主張し、不法滞在者に対しても厳しい態度で臨むと強調しました。

さらに、不法移民を巡る民主党のクリントン氏と自身の政策を比較し、「私の政策は、クリントン氏の過激で危険な移民政策とは正反対だ。国民は、取り締まりされていない不法移民から解放されることを望んでいる。クリントン氏の政策は、不法移民に恩赦を与え、数を増やし、違法性を助長するもので、アメリカ国民の雇用が失われ、最低賃金が低くなり、貧困が広がる」と述べクリントン氏を批判しました。

アメリカを安全な国にする

トランプ氏は演説の冒頭、「われわれは共和党をホワイトハウスに戻し、アメリカに安全と繁栄、それに、平和をもたらす。そして、寛大であたたかく、法と秩序が保たれた国にする」と述べました。

そのうえで、トランプ氏は「南部テキサス州ダラスで警察官が惨殺されたとき、アメリカ全土に激震が走った。南部ジョージア州やミズーリ州などでも警察官が銃撃されたり、殺害されたりした。さらに今月17日には、南部ルイジアナ州バトンルージュでも警察官が撃たれた」と述べて、警察官が銃撃される事件が各地で相次いでいることに懸念を示しました。

そして、トランプ氏は「警察官への攻撃は、われわれアメリカ人への攻撃だ。治安と警察官の安全を脅かすすべての人に伝えたい。私が大統領になったら、法と秩序を取り戻す」と述べて、自分こそが犯罪対策に取り組み、法と秩序を保つことができると主張しました。

さらに、トランプ氏は「私は、すばらしい検察官や警察官とともに仕事を成し遂げる。オバマ大統領は無責任な理論で、 われわれを人種で分断し、アメリカを危険な場所にした」と述べて、オバマ大統領が人種や社会の分断を深めたと批判したうえで、自分は、アメリカを安全な国にすると訴えました。

また、トランプ氏は「われわれの敵は、武器を所持する権利を認めたアメリカ合衆国憲法の修正第2条を廃止しようとしている。一方で私は、早い段階で、NRA=全米ライフル協会からの強い支持を受けた。私は、すべてのアメリカ人が、家族の安全を守る権利を堅持する」と述べて、銃規制の強化に反対する立場を改めて示しました。

貧困問題は大量の不法移民が原因

人種や貧困の問題について、「黒人の子どもの10人に4人は貧困家庭で、若者の58%は失業している。8年近く前にオバマ大統領が就任したときよりも200万人以上多いヒスパニック系アメリカ人が貧困に苦しんでいる」と述べ、黒人やヒスパニック系の市民が困窮していると指摘しました。そのうえで、「数十年の記録的な移民がわれわれ市民、とりわけ黒人やヒスパニック系の労働者にとって低い賃金と高い失業率を生み出してきた」と述べて、大量の不法移民の流入が原因だと指摘しました。

さらに、「われわれはきちんと機能し、アメリカの人々のためになる移民制度を持つべきだ」と述べ、不法移民の流入を防ぐことで貧困の問題を解決していくと訴えました。

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大規模な減税で雇用を創出

経済政策について、「何百万もの雇用を創出して巨大な富をもたらし、アメリカを再建すべく改革を進める」と述べ、アメリカ経済の立て直しに自信をのぞかせました。

そのうえで、トランプ氏は「どの候補よりも大規模な減税を提案してきた。中間所得層と企業は救済され、税制度は誰にとっても分かりやすいものになる。アメリカは世界でも税率が最も高い国の1つだが、減税によって企業や雇用が次々とアメリカに舞い戻ってくるだろう」と述べ、減税することによって雇用を創出していく考えを示しました。

また、過剰な規制が雇用を失わせているとして、エネルギー産業への規制を緩和することで、経済が活性化されると主張しました。そして、トランプ氏は「新しい経済政策によって何兆ドルものカネがアメリカに流入し、国民の生活水準が改善される。道路や橋、空港や鉄道を建設し、これによってさらに何百万もの雇用が創出される」と述べ、自身の政策によってアメリカ経済に好循環を生み出していくと強調しました。

サンダース氏支持者を取り込む

トランプ氏は演説の中で、民主党のクリントン前国務長官を何度も批判しては、大統領にはふさわしくないと繰り返し強調しました。

このうち、クリントン氏が国務長官在任中に私用のメールアドレスを公務に使っていた問題について、トランプ氏は「クリントン氏が違法に私用のメールアドレスを使い、当局がその犯罪を見抜けないよう、3万3千通ものメールを削除し、アメリカを危険にさらしてうそをついた。それでも何のおとがめもなく、政府の腐敗はこれまでにないほどのレベルに達している」と厳しく批判しました。

さらに、トランプ氏は「クリントン氏の最大の功績は、とんでもない犯罪を犯し、周囲が犠牲を払っているにもかかわらず、なんとか逃げ切ったことだ。クリントン氏は、特別な取り計らいを受けて多額の金をかき集めている。行動を起こすべきときがきた」とクリントン氏を繰り返し批判し、民主党から政権を奪還しようと訴えました。

そして、トランプ氏は「権力を持つ人たちがはびこる現状を変えるため、政治を志した。私以上に世の中の体制をよく知る人はいない。私しか、世の中を立て直すことができる人はいない。民主党のサンダース上院議員が候補者選びで負けたように、アメリカ国民の民意が反映されない現状を間近で見てきた」と述べて、民主党の候補者選びで、格差の是正を訴え、トランプ氏と同様に白人労働者層から支持を得てきたサンダース氏をひきあいに出しました。

そのうえで、トランプ氏は「サンダース氏の支持者は私たちの改革に参加するだろう。なぜなら、われわれはサンダース氏の最大の関心である貿易を立て直すからだ。われわれはアメリカ国民のために貿易を立て直す。多くの民主党支持者が私たちの改革に参加するだろう」と述べて、これまでサンダース氏を支持してきた人々に、みずからへの投票を呼びかけました。