スポーツ
声援は○○級!?甲子園の盛り上がりを測ってみた!
「想像以上のアウェー感」(オリックス・中嶋監督)
59年ぶりの関西対決となったことしの日本シリーズ。中でも第3戦から行われた甲子園での3試合は熱狂的な阪神ファンがスタンドのほとんどを埋め尽くし、異常な盛り上がりとなりました。
テレビで見ていても、その熱は伝わってきますが、実際現場ではどのくらいすごいのか。ふだんは関東の球団を取材する2人のプロ野球担当記者が、甲子園球場で行われる第5戦の盛り上がりの様子を「ある方法」で調べてみました!
(スポーツニュース部 記者 本間祥生/神慶佑)
目次
甲子園球場“地鳴り”のような声援
オリックスの本拠地・京セラドーム大阪で始まったことしの日本シリーズは第3戦から甲子園球場に場所を移して行われました。
3試合とも大熱戦となりましたが、中でも第4戦は終盤まで双方譲らぬ熱い展開に。
阪神が終盤にリードを追いつかれる中、最後は4番・大山悠輔選手のサヨナラヒットで劇的な勝利をあげました。
9回のチャンスではまさに“地鳴り”のような声援が続き、勝利の瞬間は隣の記者の声も聞こえないほど。
普段プロ野球の取材をしている私たちにとっても、その歓声の大きさは圧倒的なものでした。
現場ならではのこの雰囲気をなんとかして伝えることはできないか。
今シーズン甲子園最後の試合となるであろう日本シリーズ第5戦を前に私たちが向かったのが…
まずは街なかの“音”を測ってみた!
大阪・梅田駅前にある家電量販店です。
今回の調査に欠かせない、音量レベルを測る測定機器を購入しました。
試しに梅田駅周辺の雑踏で測ってみると…。
「70デシベル中盤」
すぐ近くにある高架下では、列車の通過時には「80デシベル余り」。
街なかで「騒がしい」と感じるのが、これくらいの数値だと言えそうです。
【国が公表している資料】
▽地下鉄の車内やセミの鳴き声…70~80デシベル
▽ゲームセンターの店内…80~90デシベル
▽パチンコ店の店内…90デシベル程度
【民間の調査会社などのデータ】
▽車のクラクション(2メートル以内)…110デシベル
▽飛行機のジェットエンジンの近く…120デシベル
いざ甲子園球場へ
いよいよ甲子園球場での測定開始です。
今シーズンの甲子園での阪神戦をすべて取材している阪神担当記者も、関西対決となった今回の日本シリーズの阪神ファンの声援は特に大きいと感じています。
特に阪神がチャンスを迎えたときの声援には太鼓判を押しました。
NHK大阪放送局 阪神担当 中村拓斗 記者
「シーズン中ももちろん甲子園球場の声援はものすごく、担当になって初めて聞いたときは『これか!』と思いました。今回担当になって初めての日本シリーズですが、チャンスのときに流れる『チャンス襲来』の盛り上がりは今までで一番です」
ちなみに試合前の状況は…
▽開場前、球場のまわりは平均して「70デシベル程度」
▽開場後、スタメン発表時はすでに「80デシベル後半」となっていました。
いよいよ試合開始 “計測開始”
そして午後6時、いよいよ試合が始まりました。集まったファンは4万1031人。甲子園球場がぐるっと一周黄色に染まっています。
レフトスタンド上段の一角にあるオリックスのビジター席は、数えてみたところおよそ1000席ほど。
数で劣る中、試合中は結束して熱い声援を届けていましたが、実に4万人近い阪神ファンが甲子園を埋めつくし、文字通り圧倒していました。
今回の測定は、バックネット裏4階にある記者席に機器を置いて測定しました。
正式な測定ではなく、声援の目安を知るための簡易的な形式です。
さっそく1回ウラ、阪神の攻撃。
先頭の1番・近本光司選手がヒットで出塁すると、球場は歓声に包まれます。
このときの数値は「104.3デシベル」と、いきなり100デシベルを超えました。
さらに続く2番・中野拓夢選手が送りバントを決め、相手のエラーでノーアウト一塁二塁となるとさらに盛り上がりは増し「106.8デシベル」に。
この時点ですでに100デシベル超えを連発し、パチンコ店内の音をはるかに上回りました。
さらなる大声援はいつ訪れるのか…。
しかし、その後はなかなかこの数字を超えません。
4回、中野選手がライトへ抜けそうなあたりを好守備で止めてセカンドゴロとした場面が「105.3デシベル」。
6回、2人目の西純矢投手が2アウト一塁三塁のピンチを背負いながらも空振り三振を奪い切り抜けた場面が「105.9デシベル」など、高い数字は出るものの、オリックス先発の田嶋大樹投手の好投の前に阪神打線がなかなか得点を奪えず、1回の数字を上回ることなく終盤に入りました。
迎えた8回の逆転劇 最高の盛り上がりに
球場全体を揺らす、あの声援はこの試合では聞かれないのか。
そう思いかけた矢先、あの逆転劇がやってきました。
阪神は2点を追う8回、先頭の8番・木浪聖也選手が内野安打と相手のエラーで一気に二塁に進みます。
ここで「105.3デシベル」を計測し、9番に代打、糸原健斗選手が告げられると、阪神のチャンステーマ『チャンス襲来』が始まりました。
会場のボルテージが一気にあがり、これまで高くても80デシベル中盤だった打席での応援歌が常時「100デシベル前後」となり、明らかに空気が変わっていくのが感じられました。
この声援に背中を押されるように阪神打線がつながり、またさらなる声援を生み出していきます。
糸原選手がヒットを打ち「107.4デシベル」続く1番の近本選手の1点差に迫るタイムリーヒットで「109.2デシベル」と、阪神の猛攻とともにこの試合最高の数値を次々と更新していきました。
そして、この試合最高の盛り上がりがやってきます。
1アウト二塁三塁として、2試合連続タイムリーヒット中の3番・森下翔太選手。
オリックス3人目の宇田川優希投手の7球目、152キロの速球を左中間に運び逆転のタイムリースリーベースとすると、機器の数値は「111.9デシベル」に達しました。
これはなんと2メートル以内で聞く車のクラクションを上回る数値です。
その後も歓声は常時「90~100デシベル」を計測。
阪神が一挙6点を奪ったこの回は、隣の同僚と話すのにも身を寄せ、声を張り上げる各社の記者の姿がありました。
そして直後の9回、抑えの岩崎優投手がマウンドに。
最初のバッターを打ち取って一歩、勝利に近づくと球場は意外な状況に包まれました。
4万人の大観衆がそろって息をのみ、緊張感が増す中で一時的に「70デシベル中盤」まで数値が下がったのです。
歓喜の瞬間を待ちわびる中で訪れた一瞬の静けさも測定器は捉えていました。
しかし、その静けさもつかの間、三振で2アウトとすると再び「104.2デシベル」を計測し、おなじみの「あとひとり」の大コール。
そして最後のバッターをセンターフライに打ち取った瞬間は「108.1デシベル」に達しました。
逆転劇にふさわしい大声援で試合は幕を閉じました。
声援が作り出す甲子園の“空気”
この日、文字通り一番の大歓声を浴びた森下選手は、試合後のヒーローインタビューで「甲子園というホームの球場でファンの方々がやりやすい環境を作ってくれている。期待に応えられるように必死にやっている」と話していて「100デシベル」を優に超える甲子園球場の声援が選手たちの力になっていることを結果で示しました。
単純な驚きから始まった今回の調査でしたが、数字を見ながら感じていたのは声援によって作り出されていく甲子園の空気です。
チャンスが生まれ、選手が打席に立ったとき「なにかが起きそうだ」というあの空気は、1つのきっかけで突然生まれ、そして機器が計測する数値もファンの期待とともに、どんどん大きくなっていきました。
第3戦こそ落としたものの、続く2戦を劇的な形で取り日本一に近づいた阪神。
隣の人の声さえも聞こえないあの地鳴りのような大声援が、本拠地で戦う選手たちにとって大きな後押しとなっていたことは間違いないと思います。
4日の第6戦から舞台を再びオリックスの本拠地・京セラドーム大阪に移す日本シリーズ。1人1人のチームを愛する思いはオリックスのファンも負けてはいません。
どちらのチームが日本一を成し遂げ、大歓声がふりそそぐのか。
勝負の行方とともに測定機器の数値にも目を向けながら、その瞬間を待ちたいと思います。
- 注目
【試合中 デシベル数ランキング】
▽1位:111.9=8回 3番・森下選手の逆転タイムリー三塁打
▽2位:109.5=8回 4番・大山選手の4点目となるタイムリー
▽3位:109.2=8回 1番・近本選手の1点差に迫るタイムリー
▽4位:108.1=8回 7番・坂本選手の6点目タイムリー三塁打
▽4位:108.1=9回 試合終了の瞬間
▽6位:107.4=8回 9番 代打・糸原選手のヒット
▽7位:106.8=1回 中野選手バントが相手エラーとなり出塁
▽8位:105.9=6回 西投手がピンチを三振で切り抜け3アウト
▽9位:105.7=6回 ショートの木浪選手の好守備
▽10位:105.3=4回 セカンドの中野選手の好守備
▽10位:105.3=8回 8番・木浪選手が内野安打とエラーで二塁へ
(単位:デシベル/NHK取材班調べ)
《【詳しく】日本シリーズ 第1戦~第6戦》
【第1戦】阪神が快勝 オリックス山本から大量点
【第2戦】オリックスが阪神に快勝 1勝1敗に
【第3戦】阪神粘るも オリックス1点差逃げ切る
【第4戦】阪神 オリックスにサヨナラ勝ち
【第5戦】阪神がオリックスに勝ち 日本一に王手
【第6戦】オリックス×阪神
- スポーツニュース部 記者(ロッテ担当)
本間祥生
厳しい戦力の中、吉井監督の見事なやりくりと選手の奮起で2位に食い込んだロッテを取材。CSファーストステージ第3戦で3点差をひっくり返してファイナル進出を決めたソフトバンク戦は甲子園の盛り上がりに負けていなかったはず、と自負。
- スポーツニュース部 記者(西武担当)
神 慶佑
松井稼頭央監督の1年目を取材。本拠地での大声援で思い出すのは8月“おかわり君”中村剛也選手のバースデータイムリー。先日のドラフトでは松井監督が競合した1位選手のくじを引き当てるなど好投手を多数獲得し戦力は整いつつあると熱弁、来シーズンの巻き返しを信じる。