電力自由化の岐路 新電力最大手・東京ガスの笹山晋一社長に聞く新戦略

東京ガスの笹山晋一社長に、総合エネルギー企業としての戦略を神子田章博キャスターがインタビューしました。

笹山社長は副社長時代、▼脱炭素と安定供給の両立や▼顧客の課題解決策の提供・拡充などを柱とする中期経営計画をまとめました。会社は8年前に参入した電力事業で、契約件数が350万件近くに上る新電力最大手です。総合エネルギー企業として、いま何に力を入れているのでしょうか。

笹山晋一社長

全面自由化から8年 「価格だけでなく安定供給大事に」

2023年に社長に就任した笹山晋一さん。8年前に始まった電力小売りの全面自由化の当初から、責任者として電力小売り事業を拡大させてきました。

新電力のシェアは2021年をピークに減少傾向が続いています。電力のひっ迫や燃料価格の高騰が相次いでいるためです。

神子田キャスター
―電力小売りの自由化の流れを見てきて、現状をどう見ていますか?

東京ガス 笹山晋一社長
この数年のコロナであるとか地政学リスクということで、価格だけではなくて安定供給が非常に大事になってきたと思っていて、この2つが両立しないと持続可能な電力ビジネスにはならないと考えている。安定供給、調整力といった価値とあわせて提供できるような事業者になっていくことが、今後ますます大事になってくると思っている

デジタル活用したサービスへ 英の新電力とタッグ

電力自由化が大きな岐路を迎える中で4年前にタッグを組んだのが、イギリスで急成長する新電力でした。

注目したのが、この新電力が持つデジタル技術です。データやAIを活用して顧客管理のシステムを構築し、利用者に応じて200種類以上のメニューを提供しています。設立から9年でイギリスでの電力小売りのシェアを20%まで伸ばしました。

先進的なシステムを日本にも導入するため、東京にイギリスからもエンジニアを呼び寄せ、デジタルを活用したサービスを生み出そうしています。

その技術の1つは家庭や企業の設備を遠隔で制御できるシステムです。市場の動向に合わせて電力を効率的に使用できるよう調整します。

(イギリスの新電力は)従来の電力ガス会社とは違う目線で、デジタル起点で業務を効率的につくり直すということをやっていたので、ベンチャー企業のようなカルチャーで迅速に意思決定をする、しかも柔軟に対応するといったところが非常に大きな特徴で、そういった部分も積極的に取り入れていきたいと思っている

災害時にも電力を利用できる仕組みを

笹山社長は2023年11月、イギリス仕込みのデジタル技術も活用した新たな方針を打ち出しました。

ガスや電気を売るだけでなく、家庭や企業への安定供給や脱炭素をサポートするビジネスの強化です。

例えば、電力のひっ迫や災害が起きた際にも、顧客が自分の設備を使って電力を利用し続けられる仕組みを整えます。

これまでは大規模な電源から一方向にお客様に電気をお届けする、これが供給形態の主流だったわけだが、これからは各家庭でお客さんが自身で太陽光で発電するとか、電気自動車で使うとか(エネルギーの使い方を)デジタルのプラットフォームを使って最適に運用していくというサービスが非常に大事になってくる

電力のひっ迫や災害時も、顧客が自分の設備で電力を利用できる仕組みのイメージ

デジタル化へ「まだ制度的な障害」

しかしデジタル技術を活用したエネルギー業界での変革には、課題も残されているといいます。

いま日本はデジタル化がかなり遅れているんではないかと言われるけれど、まだまだ制度的な障害が実はあって、こういったところをクリアしていけばもっとスピードアップできるんじゃないかと思っている

8年前に始まった電力小売りの全面自由化は、価格競争によるメリットはもちろん、そこから新たなサービスや技術が生まれることが期待されていました。

こうした効果を十分に生み出し、エネルギー業界を転換していくためにも、制度を改善していくことが求められていると感じました。
【2024年2月2日放送】

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